イスラームと性差別の問題を、さまざまな視点から
このシリーズでは、未来社会協創推進本部(FSI)で「登録プロジェクト」として登録されている、国連の持続可能な開発目標(SDGs)に貢献する学内の研究活動を紹介していきます。
FSIプロジェクト 009
内戦、テロ、難民などと結びつけて語られがちなイスラーム社会を、偏見や誤解がなく理解するためには「ジェンダー」という視点を積極的に取り入れ、考え直してみることが必要ではないか。これが東洋文化研究所・長沢栄治教授の提唱する「イスラーム・ジェンダー学」の出発点でした。
「イスラームとジェンダー、と聞くと、多くの人が『抑圧されている女性』をイメージするでしょう。しかし、問題はそれほど単純ではありません。イスラーム社会における男女関係は、宗教・歴史・政治・法律・教育など、さまざまな要素が複雑にからみあって形成されています。それをさまざまな視点から一つずつ解きほぐしていけば、イスラーム社会の全体像が見えやすくなり、ジェンダーや差別といった人類の普遍的な問題についても、より深く考察する材料が得られると考えました」(長沢先生)
イスラーム・ジェンダー学を立ち上げるために結集したのは、中東政治、イスラーム法、アラブ近現代史、アラブ社会経済、イスラーム思想、アラブ文学、イスラーム女子教育など、各専門分野で活動する研究者たち。研究に多角的な視点を導入することで、「イスラームの文学・映画における女性とジェンダー」など、新たな研究テーマが次々に生まれています。
また、これらの問題について日本人の理解を深めてもらうために、プロジェクトとして、一般向け書籍を「イスラーム・ジェンダー学シリーズ」(全8冊)として刊行する予定。第1巻は「変わりゆく結婚と離婚(仮題)」。イスラーム教徒の結婚は、独特の細かい規定がある「家族法」で定められ、基本的に個人と個人の契約である点が特徴です。そんなイスラーム独自の結婚観と変わりゆく社会との関係を考察し、「人類にとって結婚とは何か」を深掘りする内容になるとか。
イスラームの男女問題がより多くの人の間で議論されれば、世界のジェンダー平等が実現に向けて一歩近づくと期待されています 。
このプロジェクトが貢献するSDGs
長沢栄治 教授 | 東洋文化研究所(取材当時、現名誉教授)