2つのアプローチで将来の気候を予測する
このシリーズでは、未来社会協創推進本部(FSI)で「登録プロジェクト」として登録されている、国連の持続可能な開発目標(SDGs)に貢献する学内の研究活動を紹介していきます。
FSIプロジェクト 026
いつ、どこで、どれくらいの雨が降るかということは、太古の昔から人類の一大関心事でしたが、地球温暖化にともなう降水異変が懸念される近年、その関心はますます高まっています。高薮縁教授は「将来の気候を予測するには2つのアプローチがあります」と説明します。1つは気候モデルといって、大気や海、氷や陸面などの物理法則を表す数式にあてはめ、スーパーコンピュータで数値シミュレーションを行う方法。この方法では、将来の海面水温や大気循環の様子をある程度予測することができますが、雨や雲の特徴を表現するのはまだまだ苦手だといいます。そこでもう1つの方法、人工衛星で観測した立体的な雨のデータを利用して、雨の降り方や雲の様子を決める仕組みを物理的に解明し、その知見を気候モデルと組み合わせて研究するのです。
例えば高薮先生らの研究グループは、1997年12月から2015年6月まで飛んでいた全球降水観測計画(TRMM)衛星の13年分の降水レーダ観測データを分析し、日本の初夏の雨には、[1]ゲリラ豪雨を含む面積の小さなタイプ、[2]温帯低気圧にともなうタイプ、[3]積乱雲を核にして広い範囲に雲が組織化したタイプがあることを見つけました。そして、この3つのタイプの雨が生じる環境がそれぞれ異なることに注目し、気候モデルが予測する将来の環境の変化から各タイプの雨が将来どのように変わるのかを推計。その結果、将来は多くの地域で[3]のタイプの雨が増加すると予測されました。現在、東北、関東、日本海側ではこのタイプの雨はそれほど多くはありませんが、将来は顕著な増加が予測されています。「積乱雲を核に幅20~50km、長さ50~100km程度の範囲に組織化したのを線状降水帯といいますが、これが梅雨末期の集中豪雨を引き起こし、ときに甚大な災害をもたらします。観測データと気候モデルを組み合わせることで、こうした現象の仕組みをより精確に明らかにし、豪雨被害を最小限に食い止めることが期待されています」と高薮先生は語ります。
このプロジェクトが貢献するSDGs
高薮 縁 教授 | 大気海洋研究所