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東京大学クロニクル2015-2020 改革のキーパーソンから見たこの6年

掲載日:2021年4月15日

東京大学クロニクル2015-2020

改革のキーパーソンから見たこの6年

大学を運営する執行部として、執行部を支える同志として、五神時代の東京大学を総長とともに動かしてきた14人の教職員が、各々が担当して進めてきた改革の現状と課題について振り返ります。

未来社会協創
理事・副学長

福田裕穂

新設のFSIが全学の司令塔に

2017年、東京大学は「地球と人類社会の未来に貢献する『知の協創の世界拠点』の形成」という構想を掲げ、指定国立大学法人に指定されました。この協創の効果的推進のための司令塔として同年7月に設置したのが「未来社会協創推進本部(FSI)」です。FSIは五神総長を本部長として推進の中心に置いた、研究・教育を横断する全学的組織です。FSIの理念は、国連が2015年に採択したSDGsです。SDGsは、2030年までに全人類にとってより平等で公平な社会を作るためのガイドラインで、貧困・飢餓、医療・福祉、クリーンなエネルギ-、平和など17分野の課題を掲げています。FSIはSDGsを柱に、それを活用した未来社会ビジョンの共有、学際融合分野・新分野の創出、グローバル化の戦略的推進、多様なセクターとの協働推進などを通して、地球と人類社会の未来への貢献に向けた協創を目指しました。

0から立ち上げたFSIは現在、ビジョン形成分科会、学知創出分科会、連携支援分科会、国際卓越教育分科会、産学協創分科会、各種タスクフォース及びイニシアティブからなる事業推進組織(下図)へと発展し、本学の多様な活動の基盤となっています。また「未来社会協創基金(FSI基金)」を設立し、理念に賛同くださる方からご支援をいただきつつ、本事業の社会への浸透を図っています。

若手研究者支援
理事・副学長

宮園浩平

現場の特徴を踏まえた支援が肝

若手研究者の支援のため、2016年度に東京大学卓越研究員制度が開始されました。スタートアップなどに比較的自由に使える研究費年300万円が2年間支給されます。部局長が推薦するものと公募で選出するものがあり、前者で選ばれた若手研究者は5年間で109人を数えます。ウェブサイトなどで研究内容を紹介していますが、この制度を通じて研究者同士の繋がりが生まれるなどコミュニティの形成にも役立っています。公募型は2018年度に開始し、過去2年で17名を選出しました。

2017年度に始めた若手研究者国際展開事業では、研修や学会で海外に行く際の旅費を支援しています。2020年度はコロナ禍で海外渡航の機会が制限されましたが、オンライン学会でも相当の参加費が必要な場合もあり、本事業は十分な成果をあげていると思います。

支援に携わって痛感したのは、各々の部局にはそれぞれの特色があり、こうした制度も研究分野によって使いやすい場合とそうでない場合があることでした。たとえば、半年でも取得できるようになったサバティカル研修や、「而立賞」授与を2020年度から加えた学術成果刊行助成制度は、文系の若手のインセンティブに繋がったように思います。こうした特徴を本部が把握しながら研究を支援することが大切だと改めて感じています。

東大が始めた国際卓越大学院教育プログラム(WINGS)は18件に成長し、学生の皆さんにはインセンティブになっていると思います。文科省の卓越大学院プログラムは東大で3件の採択でしたが、今後は新たな形の支援が開始されることを期待します。若手研究者の育成、女性や海外の研究者など教員のダイバーシティの推進は引き続き東京大学全体の課題として次の執行部に託したいと思います。

スポーツ先端科学推進
理事

境田正樹

スポーツ・健康科学の発展に向けて

五神総長は、「最先端のスポーツ科学を通じて人間の身体や健康についての理解を深めることにより、誰もが体と心の健康を維持・向上させることができるインクルーシブな社会の実現に貢献する」との考えのもと、在任期間を通じて東京大学のスポーツとのつながりをかつてないほどに深められました。最も象徴的な施策は、スポーツや健康に関連する学内の多様な研究の相互連携と、これによる新たな価値創出を目的とするスポーツ先端科学研究拠点(UTSSI)の設立です(2016年5月)。「トップアスリートとトップサイエンティストのコラボレーションにより研究を加速させる」方針のもと、これまで、日本スポーツ振興センター、日本障がい者スポーツ協会、日本サッカー協会、全日本テコンドー協会等との間で連携協定を締結しました。現在、各競技団体の日本代表選手や強化指定選手等にもご協力頂きながら、東京オリンピック・パラリンピック大会でのメダル獲得はもとより、競技力向上、コンディショニング強化、怪我予防等を目的とした研究プロジェクトが進められています。また、駒場、本郷、柏のキャンパス内の運動施設や競技場にハイテクカメラやフォースプレートなどのハイテクセンサーを備え付け、実際の試合や練習における選手の運動データをリアルタイムで取得し、解析するためのセンシングフィールドの整備も検討されています。藤井次期総長のもとでも、スポーツ・健康に関する東京大学の活動がいっそう発展することを祈念しています。

職員人事制度改革
理事

里見朋香

日本で一番働きやすい大学に

五神総長は、職員向け行事で必ず「私は総長として東京大学を日本で一番働きやすい大学にしたいと考えています」と述べられます。この言葉を耳にするたび、自分はどれだけ総長の強いご意志の実現に貢献できているだろうかと身の引き締まる思いがします。東京大学ビジョン2020には、教員の研究時間の確保、効果的な教職協働が掲げられています。教員の研究時間を確保するためには、職員の責任権限を明確化し、職員がプロ集団となり、事務遂行を安心して任せられるよう発展しなければなりません。

そのための人事制度改革として、2016年12月の科所長会議に「職員人事制度の再構築プラン」が提示され、[1]複線型キャリアパスの形成、[2]近隣大学等とのアライアンスの構築、[3]多様な雇用制度の導入、[4]再雇用職員の処遇・活用の見直しという4つの方向性が示されました。私が着任した2018年4月から約3年間は、これらを大きく膨らませながら具体化していく日々でした。

総長は、これまでのように正規職員中心で人事制度を考えるのではなく、有期雇用職員まで本学の大切な職員であり、全員のための雇用環境整備が重要だと繰り返し説かれました。この当然の前提が、いかに過去の職員人事の視点に欠けていたかを痛感します。再構築プランとそのフォローアップを進め、他大学にはない、数々の新制度が導入されました。正規職員向け永年勤続者表彰を全職員対象の感謝状贈呈式に見直したこと、任期のない基幹職としての職域(時間)限定職員制度の整備、部長職と同格の「上席技術専門員」の設置などは、総長が「日本で一番働きやすい大学に」というぶれない軸を示し続けられなければ実現しなかったでしょう。

総長任期最後の大仕事として、優秀な有期雇用職員を大規模に正規職員に転換する手続きを進めていますが、次の課題は多種多様な人材が一つになって力を発揮できるような環境づくりではないかと考えています。

グローバルキャンパス推進
大学執行役・副学長

相原博昭

真の国際化のための改組を敢行

この6年で特筆すべきは、国際本部のグローバルキャンパス推進本部への改組です。従来は、海外に関わることは専門の部署が担う体制でしたが、国際化が進むにつれ、海外から来た人にも日本人と同様に対応すべきだという考えが広がりました。様々な国の人たちが自然に大学生活を送れる場を目指すグローバルキャンパスモデル構想を2016年頃から本格化させ、2018年4月に改組しました。教育・学生支援や国際交流、国際戦略に関わる部署を一つの傘の下にまとめたわけです。

同時期に国際総合力認定制度(Go Global Gateway)を始めました。留学、語学学修、留学生との交流などの活動を行った学生がそれを申請し、大学が認定する仕組みで、個々の活動履歴を示すポートフォリオも用意。現在では一年生の約4割が登録しています。

戦略的パートナーシップの相手校は、この6年で10大学に増えました。いわゆる欧米有力大学との連携は定着し、東大がグローバルな研究大学であることは周知できました。今後は、成長著しい東南アジアの諸大学とも協力しながら共に発展する段階に入るでしょう。

コロナ禍にあって全面オンライン化した日本語教育の取組みでは、留学生や研究者だけでなく、その家族も参加できるという利点が生まれました。研究室では英語が通じるとしても、街に出れば日本語ができたほうが楽です。東大に来る人は、学術以外に日本や日本文化に興味を持っていることも多く、日本語の需要は大きい。その支援を強めれば東大に来たい人はさらに増えるはずです。

東大は新しい国際化を体現しつつありますが、あえて言えば、課題は日本人学生の送り出しがそれほど増えていないこと。4ターム制で短期留学に行きやすくなると期待しましたが、まだ十分には活用されていません。今後に期待します。

新図書館計画
大学執行役・副学長

熊野純彦

知の歴史と伝統を未来へ継承

三四郎池の由来はよく知られています。小説の主人公が、池の周りを散策することに続けて身に着けた習慣は、図書館に出入りすることでした。上京して日も浅い一大学生が驚いたのは、どの本を借り出してみても、誰かが目を通した跡が残っていることです。

このエピソードが示してもいるように、大学図書館とは、過去を未来へと繋ぎ、知のバトンを受け継いでゆく空間です。図書館は、大学とその知の象徴なのです。

五神総長の6年間がさまざまな変革の6年間であったことはよく知られているところです。五神総長の施策が、しかし、歴史と伝統を受け止めて、それをより豊かな未来へと引き渡そうとするものでもあったことは、五神時代を象徴する事業の1つが総合図書館の新館建設と本館改修であることに表れています。

新図書館計画とも、アカデミックコモンズとも呼ばれたその事業は、予算計画から始まり、ダム建設にも比すべき大工事を経て、2020年秋にグランドオープンを迎えることができました。10年余に及ぶ案件でしたが、その後半が五神時代の6年間と重なり、五神総長の任期後半の3年間は私が附属図書館長を務めさせて頂いた期間ともなります。関係各方面のご尽力によって、総合図書館は生まれ変わることができました。あらたな研究組織を含む機構の整備と、デジタル化時代への対応等が、工事を終えたいま喫緊の課題として浮かび上っております。一層のご支援をお願いして、拙文の結びとさせて頂きます。

国際求心力強化
大学執行役・副学長

羽田 正

「変身」した五神総長

任期前半の五神総長は、学内の様々な制度改革に注力され、率直に言って、大学の国際展開へのご関心は高くありませんでした。しかし、学内改革の目途が立った任期後半になると、「国際」への対応はがぜん積極的、戦略的になります。優先順位が上がったのです。転換点は、2018年5月に国際大学連合IARUの議長校をお引き受けになった時だと思います。会議から戻られた総長が「議長校を引き受けた」とおっしゃるのを聞き、私は驚愕しました。それまでの総長の「国際」対応からは想像できない大胆な決断だったからです。

これ以後、国内、海外の会議や招待講演など、様々な機会をとらえてご自身のお考えを英語で積極的に発言されるようになりました。「知識集約型社会において社会変革を駆動する大学」という総長提唱の新しい大学像は、世界各地の大学やビジネスのリーダー、知識人たちに鮮烈な印象を与えています。

国際総合力認定制度創設、東京フォーラムの年次開催、Global Advisory Boardの活用などとともに、2019年の東京カレッジの設立も、この「変身」した五神総長のイニシアティブによるものです。海外の卓越研究者招聘と学内研究者との学術交流、分野横断的テーマの共同研究、優れた研究成果の発信が、この新組織の重要な使命です。海外の研究者を巻き込んだ様々な新しい学術活動に挑戦してゆきます。

かくして、五神総長の時代は、東大の国際展開が本格化した時期としても長く記憶されることでしょう。

産学協創
大学執行役・副学長

渡部俊也

産業界の変革に至る道筋を提示

2004年に本学の産学連携本部が設置された。当時の産学連携活動は共同研究の振興から始まっている。共同研究の件数は増加し、2014年には全国最多の1400件超になったが、ほとんどは数百万円規模で、本格的な社会実装につながるものはまれだった。他大学でも状況は同様であり、このような背景から、政府は2015年当時「本格的な組織と組織の連携」を推進すべきだとする政策を打ち出した。

2015年に五神総長の打ち出した産学協創は、政府が想定した施策を凌駕する斬新な構想に基づくものであった。最大の特徴は、大学と産業界との部分的な連携ではなく、組織のビジョン自身の創造を産学が取り組むところからスタートしたことである。産学が共通の目標をもとに、基幹的活動の重なりを大幅に拡大することで、「本格的な連携」を成し遂げようとするものであり、Society5.0に向けた「社会変革を駆動する大学」が、独自の知財創出活動や関連ベンチャー創出なども活用して、産業界の変革を促す大胆な意図を持つものであった。成果は日立製作所やダイキン工業などとの産学協創の目覚ましい発展に結実した。連携は国内にとどまらず、IBMやTSMCとの連携を核としたゲートウエイ構想、ベンチャーエコシステム創造における大企業とのカーブアウトベンチャー創出などにも及んでいく。企業ニーズに基づく共同研究の振興の域を超え、まさに産業界の変革に至る道筋を示したものといえる。

このような試みは世界的にも例を見ないものであり、6年間で完結するものでもない。FSI事業やグローバルコモンズなどの活動を羅針盤とした社会変革には、国内外の企業との連携はますます重要となる。この産学協創を一層発展させるには、国立大学時代の硬直的な共同研究契約の制度や、投資的活動になじまない財務会計制度の刷新など、課題はまだ多い。しかし「産学連携」ではなく「産学協創」であるべきとの中核的メッセージは、この先も、東京大学の社会との関係を示す理念として定着していくことは間違いない。

経営企画
副学長

坂田一郎

より良い未来のための資金循環を創出

2020年10月に東京大学FSI債をソーシャルボンドとして発行しました。これは、日本で初めての大学債発行であり、コーポレイトファイナンス型の債券発行を可能とする国立大学法人法の政省令の改正、多様なステークホルダーとの直接対話の仕組みの整備、統合レポートの発行、大学債という新しい金融商品に対する市場の理解など多くのハードルを乗り越えることが求められたなかで、五神総長の強いリーダーシップにより実現をしたものです。200億円規模の債券発行に対して、多様な層の投資家から、その6倍を超えるオーダーがあり、市場に歓迎される形で、発行を成功させることが出来ました。

五神総長は、21世紀の地球社会に貢献する「知の協創の世界拠点」となり、社会変革を駆動する役割を果たすことを東京大学の行動指針として掲げられてきました。このビジョンを実現するためには、東京大学が自ら戦略を立てて行動する能動的な経営体となりつつ、その役割を拡張していく必要があります。大学債という新しい枠組みは、それに欠かせない自由裁量度の高い先行投資資金を獲得するための切り札となりました。知識集約型社会の到来によって、知を集積する大学への期待が高まるなか、大学債は、東京大学に限らず、国立大学の戦略的な経営実現のための重要な手段として注目をされています。

大学債の発行にあたっては、日本電気、ダイキン工業、住友林業、JSRほか東京大学と未来社会協創(FSI)を進める企業を含めた45社もの企業から、ソーシャルボンドに対する投資表明を行っていただきました。初回の発行にかかわらず、第6回サステナブルファイナンス大賞を受賞することも出来ました。市場との対話を通じた大学債の運用を通じて、社会が期待する次世代への投資先に大学がなり、SDGsの達成を含めたより良い未来社会の実現に向けた資金循環を創り出す姿を示したことの意義も大きいと考えられます。

財務改革
総長特任補佐

有馬孝尚

真の経営体に変わるための端緒に

五神総長就任後まもなく、2015年6月、文部科学省から「国立大学経営力戦略」という文書が発出されました。国立大学法人に対して「運営」ではなく「経営」が要請されたのです。五神総長は、単に経営体になることを目標とするのではなく、社会変革を駆動するという理念を掲げ、走り始めました。財務面においても、予算配分、事業評価、社会への情報開示に関する改革を行いました。

まず、2015年度に予算配分制度の大きな変更が行われました。財務戦略室およびその下に設けられたWGにおいて集中的な議論を行い、2016年1月の科所長会議において、現在行われている1次・2次・3次配分、概算要求と学内ヒアリングによる評価という現行の予算配分制度の骨子が示されたのです。この制度変更の結果、各部局の予算と事業が学内で共有されるようになりました。また、本学の種々の活動状況の把握に資するデータ収集と分析を目的としてIRデータ室が2017年度に設置されました。

本学の姿を社会に示す努力も始まりました。2015年度に株主総会が始まり、財務レポートが発行されました。財務状況に加えて、教育、研究、社会との連携といった活動についても伝えようと、2018年度からは財務レポートに替えて統合報告書が発行されています。今年度は、大学債の発行ということもあり、真の経営体に変わろうとする姿を示すための新しい財務諸表を提案しています。社会変革を駆動する経営体として本学の活動を拡大するためには、財務面でも不断の改革が必要になるでしょう。本学が五神総長時代にその端緒を切ったことは間違いありません。

ダイバーシティ
大学執行役・副学長

松木則夫

意識は変わってきたがまだ道半ば

ジェンダーダイバーシティは多様な取組にもかかわらず大きな成果が上がっていない。女子学生増加の取組としては、従来の女子学生の母校訪問に加え、女子中高生に東大の魅力を伝える説明会、講演会や見学会を開催した。オンライン説明会では五神総長が女子高校生と直接対話することができた。写真や文言を工夫した、インパクトある勧誘ポスターを全国800の高校に配布、オープンキャンパスでは女子中高生への応援メッセージ動画を配信した。HPに「東大のわたしたち」を掲載した。女子高生向けの東大の解説・勧誘冊子(Perspectives)を学生目線で全面改訂し、入学後の学生生活などがよりイメージしやすくした。狙いは、東大生は身近で決して特殊な人達ではないことのアピールであった。また、女子学生が安心して東京で暮らすための住まい支援を開始した。インクルーシブキャンパスの醸成の一環として、東大女子を入れないサークルの問題解決を学生団体に提起し、令和3年度からは新入生全員にダイバーシティ教育を開始することにした。これらの取組にもかかわらず、残念ながら学部入学者における女子比率は2割の壁を越えられないでいる。

女性教員の増加については、教授・准教授増加のための加速プログラム、スタートアップ・キャリアアップ・リスタートアップ研究費助成やメンター制度などによる育成支援を行った。男性教員も含めたワーク・ライフ・バランス支援として、学内保育園の充実、育児・介護時の研究者サポート要員配置助成やベビーシッター支援などを実施した。保育園では学内待機ゼロを達成できた。これらの取組に対して東京都女性活躍推進大賞優秀賞を授与された。女性教員比率は僅かに上昇している。全教育部局において啓発FDを実施し、課題抽出のために全構成員へのアンケート調査を行った。性的少数者に対する支援は端緒についたところである。構成員の意識は少しずつ変わってきたが、まだ道半ばである。

文系振興
大学執行役・副学長

森山 工

人文社会科学の振興とその彼方

五神総長が策定された「ビジョン2020」に則り、「人文社会科学振興ワーキング・グループ」が設置されたのは、2016年度のことでした。それから、本学の人文社会科学における研究の蓄積と、その多様性・先進性を広く学内外・国内外に向けて「可視化」することが、人文社会科学の振興に寄与すると確信し、そのための個別事業の立案と実施に取り組んできました。ここでいう「可視化」とは、すでに発表された研究成果を取りまとめて発信することとともに、現在進行中の研究に対して発表の機会を与えることを支援し、人文社会科学の研究を積極的に発信することに存しています。

この目的のもとに、本学教員が公刊した人文社会科学分野の著作物の紹介サイト「UTokyo BiblioPlaza」を、日英両言語で開設しました。また、本学に提出された博士論文や助教論文のなかでも、とりわけ質の高いものに助成金を付けて出版するとともに、助成に採択された著作には「東京大学而立賞」を授与する取り組みを行いました。日本語で出版された本学教員の著作を英文書籍にして刊行する支援事業も行いました。また、連携研究機構ヒューマニティーズセンターの設置を支援し、研究活動の活性化に寄与しました。

本学の人文社会科学の多様性と先進性は広い意味で「可視化」され、それが研究者へとフィードバックすることで、研究へのモチベーションはいっそう高まることになりました。けれども、その一方で、本ワーキングの議論の中では、人文社会科学と自然科学とを、いいかえれば「文系」と「理系」とを、学術分野の区分として絶対視しないことの必要性も強く認識されるにいたりました。ある意味で、人文社会科学の振興に専心した結果、人文社会科学という括り自体を自己相対化し、文理にわたった俯瞰的な観点から本学の学術の全般的な振興を企図すべきであるという結論にいたったわけです。この観点は、今年度、本ワーキングがまとめた「最終報告書」に詳述されています。

アドバンスト理科
総合文化研究科長・教養学部長

太田邦史

教養学部での新たな取り組み

本学には全国から優秀な学生が入学する。なかには科学五輪受賞者など後期課程学生なみの知識を持つ新入生もいる。これまでの駒場の教育では、どちらかというと中位学生向け教育や補習的教育に注力していたが、このような先行的に知識を有する学生のニーズは十分くみ取れていなかった。全学の1~2年生の教育を担う教養学部前期課程では、全学と五神総長の支援により、これらの学生の学修意欲を向上させるため、先進的な内容を盛り込んだ教育を行うアドバンスト理科(アド理科)をスタートした。教員については、先進科学研究機構という部局内機構を新設し、先端分野で世界的な活躍をしている若手教員を教員再配分制度や総長裁量経費などにより採用・支援した。(なお、これらの教員は、学術的生産性や外部資金獲得の点でも本学のKPI向上に寄与した。)アド理科では、量子計算、機械学習、人工進化、構造生物学などの新しい研究分野で国際的に活躍する若手第一人者の指導の下、フレッシュな感性を持つ1~2年生が、教科書にも載っていない最新の内容を能動的に学んでいく。受講生の評判は大変に良く、とても1~2年生とは思えないレベルの議論が日常的に行われている。受講生の研究に対する意欲向上は予想以上で、各学部に進学した後も一層の成長が期待できる。結果として本学の価値を大きく高めたと考えている。来年度から同様の取り組みを文科・文理融合分野にも拡大する予定である。

国際プレゼンス
総長特別参与

藤原帰一

社会変革主導の決意を見せた6年間

日本国内から見れば東京大学の力を疑う理由は少ない。だが世界から見れば、東大は大学として力を伸ばす機会を逸してきたようにも見える。では東大の潜在的可能性をどのように引き出すことができるのか。これが五神総長の6年間の課題だった。総長任期6年のお仕事のうち、最初にお手伝いしたのは国際研究型大学連合(IARU)だった。学長会議のために総長の出席を確保することも容易ではなかった。11大学という少数の大学連合のために海外出張を計画する必要が見えないからだ。しかし数が少ないからこそ、結束も強い。世界トップクラスの大学学長のコミュニティに参加することによって世界各大学の実践を知り、東大の取り組む課題を再確認することも可能になる。のみならず、IARUそのものが東大の声価を高める役にも立った。各大学から信頼を集めた五神総長は任期最後の二年間はIARU議長の任を務められた。未来社会協創本部を立ち上げ、未来ビジョン研究センター(IFI)を新設し、さらにグローバル・コモンズ・センターを立ち上げたことも特筆すべきだろう。総長主導によるこれらの試みは、東大が現代世界の必要とする課題に応え、目に見える形で研究の成果を内外の社会に示すことによって、大学が社会変革を主導する担い手になるという決意の表れである。たいへんなことにはちがいない。それでも、名声に溺れて退行を続ける事態を回避するためには必要な作業だったと、私は思う。

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