
書籍名
コミュニティの社会学
判型など
276ページ、A5判、並製
言語
日本語
発行年月日
2023年12月
ISBN コード
978-4-641-17494-8
出版社
有斐閣
出版社URL
学内図書館貸出状況(OPAC)
本書は、コミュニティへの関心を共有しつつも異なったフィールドで研究を進めてきた7名の社会学者による共同作業の成果である。社会学の専門課程のテキストを念頭に編集した。
コミュニティをテーマとする日本語の書籍は数多く出版されてきたが、本書の特徴は、コミュニティという言葉がもつ意味の広がりをとらえ、それらが生み出され使用されてきた社会的な前提や文脈に注意を向けるとともに、異なったタイプのコミュニティの生成・継承のメカニズムに焦点をあてたところにある。
序章では、社会学者たちがコミュニティという魅力的でありながら扱いの難しい概念とどのように格闘してきたかを紹介し、コミュニティの社会学が取り組むべき中心的な課題を提示した。
本論は3部構成で、それぞれ3つの章からなる。コミュニティの構造的な多義性に留意しつつ、筆者たちが調査している現代の事例や、歴史上のできごとに言及しながら議論を進めた。
第1部「つなぐ」は、コミュニティの3つの異なる様態を示す。第1章が取り上げるのは、イエ (家) と、イエを構成単位とするムラ (村) であり、それらが体現する、死者とのかかわりも含めた生活の全体を包み込む共同性である。これを「共同的・土着的コミュニティ」と呼ぶならば、第2章の主題は、「協働的・媒介的コミュニティ」である。それは、複数世代にわたる人生ではなく、日常生活にあらわれた共通の課題・テーマや認識・関心にもとづいて形成されるネットワークである。第3章が光をあてるのは、「流動的・仮設的コミュニティ」である。多様な背景をもった人びとが一時的に形成するコミュニティが、働くことと住むことを組み込むことで、居場所、あるいはインフォーマルなセーフティネットとして機能している様子が描かれる。
第2部「たどる」は、コミュニティの概念がどのように日本社会に定着してきたのかを明らかにする。第4章は、国民国家という大きな枠のなかで地域の共同性が再編成される過程と、そこでのメディアやイベントの働きに着目した。それは、共同的・土着的コミュニティに危機をもたらすものでもあった。第5章は、大正から昭和初期にかけて、都市計画と社会事業 (ソーシャルワーク) という制度のもとで、都市に移住して孤立した生活を送る人びとの間に協働的・媒介的コミュニティを創出する試みが始まっていたことに着目する。コミュニティの組織化に向けた取組みは繰り返し登場したが、1970年前後にはブームといえるような高揚がみられた。第6章は、この時期に提起された構想を、地方自治、社会福祉、都市計画、建築といった分野を横断して解説する。
第3部「つくる」は、コミュニティが生まれ、再生産されるメカニズムに焦点をあてる。その際に注目するのは、「コモンズ」と呼ばれる、共有された資源やそれらの管理・利用のしくみである。コモンズの具体的な事例として、第7章は生態系、第8章は住まい、第9章は祭礼を取り上げた。それらはまったく異なるもののように見えるが、いずれも人びとによる持続的な働きかけを通じて維持・継承される資源であるという点は共通している。注目すべきは、コミュニティが主体となって資源を維持・継承するだけでなく、資源を維持・継承するしくみこそが、コミュニティの存続の基盤となるという、一種の逆説である。このようなコミュニティとコモンズの相互規定的な関係をつぶさに観察すると、共同的・土着的、協働的・媒介的、流動的・仮設的と名づけた、コミュニティの複数の様態の複合を見いだすことができる。
本書が読者に伝えようとしたのは、コミュニティの社会学における重層的なアプローチの意義である。すなわち、コミュニティの構造的な多義性を、いずれかの側面に限定することなく受け止めること。そして、コミュニティの動態を観察し、それを成り立たせるしくみを読み解くこと。さらに、なぜコミュニティをめぐる活動や語りに人びとが駆り立てられるのかを問い続けること。これらの作業に取り組むことで、コミュニティという、一見すると便利で、ある面では退屈で、じつは危険な言葉を使いこなす力が得られるだろう。本書がその道案内となることを願っている。
(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 祐成 保志 / 2024)
本の目次
第1部 つなぐ──コミュニティの枠組みと働き
第1章 家なきコミュニティの可能性 (植田今日子)
第2章 危機に対応するネットワーク型コミュニティ (小山弘美)
第3章 「職」「住」をシェアする──アクティビストたちの自治コミュニティを中心に (富永京子)
第2部 たどる──コミュニティという概念の由来
第4章 「想像の共同体」としての国民国家と地域社会 (武田俊輔)
第5章 コミュニティを組織する技術──都市計画とソーシャルワーク (祐成保志)
第6章 共同の探求・地域の希求──戦後日本社会におけるコミュニティの需要/受容 (渡邊隼)
第3部 つくる──コミュニティの生成と再生産
第7章 “住民参加による環境保全”の構築──コモンズとしての生態系 (藤田研二郎)
第8章 居場所の条件──コモンズとしての住まい (祐成保志)
第9章 更新されるコミュニティ──変化のなかでの伝統の継承 (武田俊輔)
終章 コミュニティの動態を読み解くために (武田俊輔・祐成保志)
関連情報
和田清美 (東京都立大学特任教授) 評 (『社会学評論』75巻2号 2024年10月)
町村敬志 (東京経済大学教授) 評 (『書斎の窓』 2024年9月号)
https://www.yuhikaku.co.jp/shosai_mado/2409/index.html?detailFlg=0&pNo=80
玉野和志 (放送大学教授) 評 (『日本都市社会学会年報』42号 2024年9月)
『新建築』 2024年4月号