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第9回「やっぱり物理が好き!」を開催 ~物理に進んだ女子学生・院生のキャリア~

掲載日:2025年2月5日

2024年11月23日 (土) カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)と物性研究所、宇宙線研究所の主催により、物理を学ぶ女子学部生及び女子大学院生の支援を目的に第9回「やっぱり物理が好き! ~物理に進んだ女子学生・院生のキャリア~」を Kavli IPMU 棟 (東京大学柏キャンパス) で開催し、30名の参加がありました。本イベントは、物理学を学んだ様々な講師の方をお招きしキャリアパスを提示すると共に、参加者同士のネットワーク作りや物理学分野 (素粒子・原子核、宇宙・天文、物性、物理工学) の魅力を伝える機会として行われています。オンサイトでの開催は2019年の第4回開催以来となります。


最初に中島多朗物性研究所准教授の挨拶があり、講演に移りました。1人目の講演者は、株式会社ニコン映像ソリューション推進室第一開発課 Associate Researcher の岩村由樹さんでした。岩村さんは、「将来設計が思い描けずにきた私なりの進路の選び方」と題して講演。大学院修士や博士課程の頃はガンマ線天文学の研究を行い研究自体に邁進し楽しんでいたものの、なぜ民間企業に就職したかの経緯を中心に紹介していきました。高校生の頃に友人の影響で宇宙に興味を持って以来、物理が好きという感覚はなかったものの宇宙を知るには物理が必要と思い乗り越えてきた岩村さんは、大学院時代はガンマ線で超新星残骸やパルサーなどの天体をガンマ線で研究してきました。そして、望遠鏡のあるスペインのカナリア諸島へ行き他の国の研究者らと望遠鏡シフトを担当したり、ドイツへ出張したりと様々な経験を積んだことを話しました。しかしながら、博士課程の頃に自分がこれから何をしていきたいか考える機会があり、基礎物理学より直接的に誰かの役に立つことをしてみたいのではないかと考え、民間企業で働くイメージが最初は持てなかったものの就職活動をするなかで現在の会社に入社することになったと述べました。そして、現在携わっている新しい映像技術開発やメタバース関連事業の内容を紹介しました。数式の扱いに慣れている点や論理的な思考など物理の道に進んだことで学べたことは自分の糧となり強みにもなっていると語りました。そして、その時に夢中になれるものがあればとことん突き進むこと、意識的に視点を広げて新しい世界を知る、この2つを大事にしてきたことが自分にとって大切だったと感じていると述べ、今後のキャリア選択を考える参考にして欲しいと締めくくりました。


2人目の講演者は、高エネルギー加速器研究機構 (KEK) 物質構造科学研究所中性子科学研究系助教の山田雅子さんで、「”これまで測れなかったものを測れるようにする”屋」と題して講演しました。山田さんは携わってきた中性子を用いた研究の経歴を中心に紹介し、最後にどうして物理を志すようになったのかと女性研究者として感じてきたことなどを語りました。冒頭でまずは、物性研究とは何かを参加者に説明し、中性子とは何か、そして中性子が物質を調べるプローブとして使われていることをX線の例と比較しながら丁寧に説明していきました。そして、中性子はX線と違って金属の中は通り抜ける一方で、金属中の水を可視化できることや原子核の同位体の違いも見ることができるなどの利点があることを紹介し、中性子はX線と相補的に使われるツールとして重要な役割を果たしていることを説明しました。そして、理研時代にはそうした利点を生かして鋼材腐食中の水の動きの可視化に世界で初めて成功したことや、現在では中性子ビームの世界最高強度を持つ茨城県東海村のJ-PARCにある物質・生命科学実験施設 (MLF) で中性子ビームの高度化やそれを用いた物性研究に携わっていることを述べました。最後にどうして物理を志すようになったかも述べ、もともと物理が苦手で文系だったものの高エネルギー加速器研究機構の一般公開に参加して加速器に非常にワクワクしたことがきっかけで、理転し物理を志すようになったことを紹介しました。最後に学生へのメッセージとして、女性だから感じる不条理さもあると思うが、これまでの10年は先輩方の努力のおかげで大きく変わっており、今私たちが挙げている声でこれからの10年でさらに良い方向へ変わるはずであり、参加者の皆さんが即戦力になる頃にはもっと良くなっているのではないかと思うと述べ、性別は皆持っている様々な条件の違いの一つにすぎないので、そこにこだわらずに物理研究を楽しみ、キャリア選択をして欲しいと締めくくりました。


3人目は、奈良女子大学研究院自然科学系物理学領域准教授の太田直美さんで「100億光年の銀河たちを追いかけて」と題して講演しました。太田さんは大学院時代のエピソードを交えつつ研究分野の説明をし、海外でのポスドク経験に触れた後、最後に最近の研究動向を紹介するという流れでお話していました。最初に宇宙の階層構造の話題から始まり、ダークマターやダークエネルギーについても触れ、なかでもダークマターを最も多く含むとされる銀河団に焦点をあててX線で観測を行っていることを紹介しました。そして修士課程の頃はX線観測衛星の装置開発に携わり、博士課程では遠方銀河団の系統的解析という「観測装置を作る」「データ分析をする」という二つを学生時代に経験したことが現在の大きな糧になっていると語りました。そして先生に背中を押してもらったことや、データ解析時に「広い砂浜から見たこともない貝殻を拾い出したような嬉しい気持ち」になったことで惹きつけられたことが、研究の道に進むきっかけとなったと述べました。さらに、海外でのポスドク経験としてドイツで研究を行った経験も語り、国際共同の大型ミッションにも関わるようになったことも紹介しました。そして現在ではその時のつながりもあり、JAXA主導のXRISM衛星のほか、ドイツ主導のeROSITA X線宇宙望遠鏡のプロジェクトにも関わっていることに言及しました。また、現在勤める奈良女子大学は、全国の国立大学で数学と物理学で修士号を取得した女性のうち例年15%-20%のシェア率を誇っていることも紹介し、そうしたユニークな大学で教育活動を行うほか、2月11日 の「科学における女性と女児の国際デー」に応援メッセージを送ったり、ボン大学の女子学生を共同研究活動の一環として受け入れたりと様々な活動をして日々女性研究者育成のために出来ることはないか模索していると述べました。そして最後に、宇宙は広大で究極の謎が詰まっており、これからも様々なことが分かってくるはずで非常に面白い分野であること、そして参加者には気負わずに世界へ飛び込んでいく勇気を持って欲しいと締めくくりました。


最後に講演を行ったのは、東京大学大学院工学系研究科附属量子相エレクトロニクス研究センター教授の石坂香子さんで「光と電子を使った物質計測」と題して講演しました。石坂さんはどういう経緯で現在の研究分野を選んできたか、日々どのような研究を行なっているかを中心にお話しし、最後に参加者へのメッセージを伝えました。冒頭でまず小さい頃の経験として、学研の科学雑誌の付録が楽しみだったことや、つくば万博が強いインパクトを自身に与えたことが大きく、最終的には高校で物理好きの友人に恵まれたことも後押しして、物理を目指すきっかけになったと語りました。東京大学進学後は工学部便覧に載っていたレーザー冷却の写真に惹かれて物理工学科を志望したことや、固体物理の講義で物性物理に興味を持つことになった経験を語り、その時に一番面白そうだと思ったところを選びながら進んできたと振り返りました。その後は、自身の研究の経歴に沿って、博士課程卒業時に物質づくりから計測に専門を移したこと、5年半助教を経験した後に独立して研究室を立ち上げる際に不安になった時もあったものの、周囲の先輩研究者の励ましに助けられたことも語り、誰しも悩んで意思決定していることを伝えたいと述べました。合わせて、物理工学とはどのような学問か、物性物理がなぜ大事かを紹介しつつ、現在東京大学と理化学研究所の2カ所で進めている研究の内容について、特に今は見えないモノをいつかは見たいという計測のモチベーションのもと、いろんな新しい計測手法を世界に先駆けて開発することや、新しい物質や機能を新たな計測手法で見つけて世界で最初に報告するということを意識していると語りました。中でも最近では電子顕微鏡とパルスレーザーを合わせた超高速時間分解電子顕微鏡の開発を行っており、これまで見られなかった物質の状態を見ることに成功していることを紹介しました。そして最後に参加者からの事前質問に答える形で、大学の同期の女性がどのようなキャリアに進んできたかも参考に紹介し、それらを踏まえて述べたいこととして、物理を学んで基礎体力がついているとやむをえずブランクができてしまっても戻ってこられたりなど、物理をしっかり学んでおくのは大事と述べました。また、東京大学での "UTokyo Women & Diversity" の取り組みについても紹介し、マイノリティだからこそ困ることもあるかもしれないが、味方や仲間を作ること、さらに物理を学ぶことに限らず何か障壁があってもそれを乗り越える力をつけることが重要だと述べました。最後に、ぜひ面白そうだなと思うことに勇気を持って飛び込んで欲しいと参加者にメッセージを贈り締め括りました。 


講演の合間に行われた施設見学では参加者が2つの班に分かれ、Kavli IPMU と物性研究所、宇宙線研究所の3研究所を見学しました。交流会では、お茶やお菓子を片手に和やかな雰囲気の中で、講師へ積極的に質問する姿や参加者同士での交流がみられました。最後に松田巌物性研究所教授の挨拶で締めくくられ、盛況のうちにイベントは終了しました。

参加者アンケートからは、「物理分野に進んだ方々の中でも女性の方々のお話をきくことができ、身近に感じた」「施設見学や先生方の貴重なお話を聞くことができて良かった」「同じ大学の人以外にも、同じように考えている人と交流がありよかった」など、参加者からの前向きなコメントが多く寄せられました。


交流会の様子


施設見学の様子


参加者と講師、スタッフらの集合写真

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