令和6年度東京大学大学院入学式 祝辞(宗岡 正二 東京大学校友会 会長)

令和6年度東京大学大学院入学式 祝辞

只今、ご紹介頂きました宗岡でございます。東京大学校友会を代表致しまして、東京大学大学院に入学された皆様方に、心からお祝いを申し上げたいと存じます。また、ご家族の皆様方にも、重ねてお祝いを申し上げます。本日は誠におめでとうございます。

東京大学以外の大学を卒業され、東京大学大学院に入学される方々は、今般の大学院入学と同時に、新たに東京大学校友会の会員になられました。校友会会長として、新会員の皆さんを心から歓迎致します。

さて、簡単に私の自己紹介をさせて頂きますと、私は、1970年に本学の農学部農業経済学科を卒業し、鉄鋼メーカーである当時の新日本製鐵に入社致しました。社長・会長を経て、現在、日本製鉄 相談役を務めておりまして、2020年からは本学の全学同窓組織であります、東京大学校友会の会長も務めております。

校友会の概要や会費のお願いについては、本日配布しております冊子からご覧頂きたいと思いますが、皆さんには、ぜひ東大校友会の多様性あるコミュニティで、本学の仲間との交友を広げて頂きたいと思います。

さて、これから大学院で学ばれる皆さんには、鉄鋼メーカーにおける私のささやかな経験をお話することをお許し頂きたいと思います。皆さんは、これから各分野でリーダーとなることが期待される方々ですので、少しでも参考になればと思います。

私が、国内最大の鉄鋼メーカーである新日鉄の社長に就任したのは、リーマンショックによる大不況に陥る2008年でした。厳しくなる一方の経営環境の中でグローバルに戦うべく、社長として、国内業界3位の住友金属と経営統合し、世界No.1の鉄鋼メーカーを目指すことを決断致しました。双方の会社とも、数万人の従業員を抱え、かつ長い歴史を持つ大きな会社でしたので、組織・制度、システム等を一本化するには大変な労力と時間がかかることが想定され、その道のりにおいては、ともすれば両社の既存の仕組みの優劣を競う展開となることも想像されました。そこで、トップとして、統合会社のあらゆる仕組みを決めていく際の基軸として、“Best for the New Company”を掲げ、無益な議論を排し、「新たな会社にとって何がベストか」に集中することで、ほぼ半年という異例の短期間で基本的な調整を終え、新たな会社の船出に繋げることができました。

もうひとつ、私にとって大きな出来事は、2011年3月の東日本大震災であります。日本製鉄が製鉄所を構える岩手県釜石市だけでも犠牲者が1100名を超える大惨事となりました。釜石は、近代製鉄発祥の地として世界文化遺産にも登録されており、歴史的にも製鉄業と縁の深い土地ですが、釜石製鉄所ではそれまで、鉄鋼不況等により、数次の大合理化が実施されてきたこともあり、この震災で製鉄所全体が閉鎖に追い込まれるのではないかとの噂が流れ、大変暗い雰囲気が流れていたそうです。

私自身、4月に釜石を訪問し、街の惨状を目の当たりに致しました。製鉄所では、全所員を前に、「釜石は我々の先輩達の血と汗と涙で築かれた近代製鉄発祥の地である。新日鉄ある限り新日鉄は釜石と共に歩む。」と激励致しました。当時の釜石市長からは、「メッセージを聞いた釜石市民がどれだけ励まされたか分からない。下を向いていた市民が前を向いて復旧復興に取り組んでくれるようになった。」と今でも言って頂いています。企業というものは株主の為だけにあるのではなく、お客様や従業員、そして企業活動を支えてくれる地域社会とともにあることを実感した次第です。

皆さんにもきっと、リーダーにしか言えない言葉、リーダーだから言える言葉、リーダーが言わねばならない言葉を意識するときが来ると思います。これからの大学院での学びを大切にし、高い倫理観を備えたリーダーに育って頂きたいと思います。

最後になりますが、皆さんの東京大学大学院へのご入学を改めて心からお祝い申し上げます。皆さんご自身も、学問を究めると同時に、これまで皆さんを育み、支えてくれたご両親・ご家族に改めて感謝し、そして大学院で学べる幸運にも心から感謝する、そうした心豊かな人間に成長して頂きたいと思います。改めまして、皆さんが健康で充実した大学院生活を送られることを心から祈念致します。本日は誠におめでとうございます。

令和6年4月12日
東京大学校友会 会長
宗岡 正二

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