総長メッセージ「大学債の発行について」

総長メッセージ「大学債の発行について」(2020年10月5日)

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総長メッセージ(テキスト)

東京大学では、来たる10月上旬の起債に向けて、国立大学法人としてはじめてのコーポレイトファイナンス型の大学債の発行の準備を進めています。今まさに社会や経済が大きく変化する時代にあって、新しい知を生み出し、それを担う人材を育てる、大学の役割を拡大して強化することが求められています。それにしっかり応えるためには、長い時間軸と広い視野をもって未来への投資を行うことが不可欠です。そのためには、自由度の高いまとまった資金を確保することが不可欠です。そこで、償還期間を40年に設定し、初回は200億円規模の発行を行うこととしています。

 

この大学債の発行は、本年6月に閣議決定された国立大学法人法の政令改正などによって実現するものです。従来は、投資する事業からの収益によって、元利の償還をすることが求められていました。そうしたプロジェクトファイナンス型の債券では、現行の経済システムの枠内に収まる事業にしか投資できません。例えば、東京大学の国際的な存在感を大きく高める研究教育施設や設備の充実は、未来の社会を切り開く重要な事業ですが、それが直接的な収益を生まない場合には投資できませんでした。今回の制度改正の重要な点は、個々の事業単位ではなく、大学全体が生み出す余裕金等による償還が可能であれば、大学の判断で投資することが出来るようになったことです。これがコーポレイトファイナンス型の債券です。この方式の下で、事業の目下の収益性に縛られることなく、東京大学の未来における社会的な価値を最大化するという高い視点から、自由度の高い投資を行うことが可能となったのです。

 

私は、五年半前、総長就任に際し、「社会変革を駆動する大学」という理念を中心に据え、「東京大学ビジョン2020」を掲げました。このビジョンの実現には、まず大学が主体的・能動的に社会に働きかける、自立した経営体となる必要があります。そのための改革を進め、「知の協創の世界拠点」の構築と、「知のプロフェッショナルの育成」に取り組んできました。幸い、大学のもつ駆動力に対して社会からの期待が大きく拡がってきていることを実感しています。今回の「東京大学FSI債」と名付けた債券の発行は、この取り組みを一層充実させていく手段であると同時に、東京大学がより良い未来づくりに能動的に貢献することの決意表明でもあります。

 

大学は、無の状態から新たな知識や技術、「有」を生み出すイノベーティブな場であり、その創造を支える組織です。今、知識集約型社会への大転換が進行する中で、国内外を問わず、産官民の幅広いセクターから、東京大学ならではの創造的な役割が注目されています。 何より重要なことは、より良い社会を皆と創りあげるために、大学として今どのような先行投資を行うべきか、その中身です。それを具体化するため、債券発行に先立ち、学内の学部・研究所等に未来構想の提案を募集しました。多様で多元的な時間軸で行われている研究教育の現場から100以上の優れた提案が集まっています。東大ビジョン2020のもとで、国連の持続可能な開発目標(SDGs)を踏まえつつ、大学全体で組織的に進めている未来社会協創の活動、これをFuture Society Initiative(FSI)と呼んでいますが、それに今回の提案を加え、その先に続く、「未来構想ビヨンド2020」を、現在策定しています。

 

初回債となる今回は、この「未来構想ビヨンド2020」の中から、第一に、東京大学の国際求心力を高める先端研究施設や設備の整備を加速すること、第二にウィズコロナ、ポストコロナ時代に学生研究員教職員が安心して教育研究に集中できるように、サイバーとフィジカル両面で優れたキャンパスへの転換するための整備を中心に投資を行う予定です。徹底したスマート化と安全対策により、付加価値の高い、対面での交流の場を確保し、世界の優秀な人材を呼び込む、魅力ある研究教育の場を実現します。これらによって、東京大学が目指す、包摂性と持続可能性を両立させた未来社会づくりの中心となる、教育・研究の確かな基盤を日本に創ることが出来ると信じています。

 

この債券発行と投資の方針に対しては、既に、社会から広く共感が寄せられ、期待もいただいています。また、日本格付研究所(JCR)からは、東京大学のソーシャル・ボンド・フレームワークは最高評価を受け、大学債をソーシャル・ボンドとして発行することとしています。

 

大学債の発行は、直接的には、東京大学を真に自立した経営体とすることに貢献します。しかし、それだけではありません。よい良い未来社会づくり向けて、大学を起点に、知識集約型社会によりふさわしい、資金を動かし循環させる新しい仕組みをつくることにもつながると考えています。それが、閉塞感が拡がる現在の経済社会システムを変革する駆動力を生み出すことを期待しています。これはポストコロナ時代における大学の新しい立ち位置、姿を具現化するものなのです。

 

大学債の発行により、社会変革を駆動する力をさらに高めようとしている東京大学に対し、ぜひ、ご理解と一層のご支援をいただきますよう、お願い致します。

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