高等学校段階までの学習で身につけてほしいこと


高等学校段階までの学習で身につけてほしいこと
東京大学を志望する皆さんには、アドミッション・ポリシーにも明示されているように、本学に入学するまでに、できるだけ多くのことを、できるだけ深く学んでほしいと思います。以下、本学を受験しようと考えている皆さんに向けて、高等学校段階までの学習において、特に留意してほしいことを教科別に掲げます。
【国語】
国語の入試問題は、「自国の歴史や文化に深い理解を示す」人材の育成という東京大学の教育理念に基づいて、高等学校までに培った国語の総合力を測ることを目的とし、文系・理系を問わず、現代文・古文・漢文という三分野すべてから出題されます。本学の教育・研究のすべてにわたって国語の能力が基盤となっていることは言をまちませんが、特に古典を必須としているのは、日本文化の歴史的形成への自覚を促し、真の教養を涵養するには古典が不可欠であると考えるからです。このような観点から、問題文は論旨明快でありつつ、滋味深い、品格ある文章を厳選しています。学生が高等学校までの学習によって習得したものを基盤にしつつ、それに留まらず、自己の体験総体を媒介に考えることを求めているからです。本学に入学しようとする皆さんは、総合的な国語力を養うよう心掛けてください。
総合的な国語力の中心となるのは
1) 文章を筋道立てて読みとる読解力
2) それを正しく明確な日本語によって表す表現力
の二つであり、出題に当たっては、基本的な知識の習得は要求するものの、それは高等学校までの教育課程の範囲を出るものではなく、むしろ、それ以上に、自らの体験に基づいた主体的な国語の運用能力を重視します。
そのため、設問への解答は原則としてすべて記述式となっています。さらに、ある程度の長文によってまとめる能力を問う問題を必ず設けているのも、選択式の設問では測りがたい、国語による豊かな表現力を備えていることを期待するためです。
【地理歴史・公民】
過去と現在、世界の各地域など、人間社会で一見バラバラに起こっている事象は相互に関連しています。それらについて一定の知識を身につけることはもちろん必要ですが、東京大学は細部にわたる知識の量ではなく、知識を関連づけて分析、思考する能力を重視します。そうした能動的で創造的な思考力は、暗記を目的とした勉強ではなく、新聞やテレビなどで報じられる現代の事象への関心や、読書によって養われる社会や歴史に対する想像力を通じて形成されます。そのため本学を志望する皆さんには以下の点を期待します。それに留意して学習に励んでください。
1) 総合的な知識
本学は、狭い特定分野の知識や能力(いわゆる「一芸」)ではなく、幅広く、総合的な知識を求めます。それが複雑な社会現象を理解する上での前提となるからであり、狭い視野から導き出される結論は独善的なものになりがちだからです。地理歴史の入試問題においても、幅広い分野からバランスよく出題するようにしています。ただし、入学試験の解答に必要とされる知識の程度は、現行の高等学校学習指導要領を超えるものではありません。
2) 知識を関連づける分析的思考力
地理歴史・公民の各科目では、便宜上の理由から、様々な知識が細切れに習得されることになりがちですが、そのような各分野の知識を関連づけて理解する能力が求められます。そのためには、入学試験で選択する科目だけに偏ることなく、地理歴史・公民の各科目を高等学校段階で広く学習し、複雑な社会現象を捉える眼を養うことが期待されます。入試問題において、地図、図表などの資料を用いた問題の出題されることがあるのも、単なる知識の量ではなく分析的思考力を測るためです。
3) 論理的表現力
本学は、思考を論理的に表現する能力を重視します。入試問題においても、分析的思考力と論理的表現力の双方を的確に測る目的で、文章で解答する論述式の問題が出題されます。
【数学】
数学は、自然科学の基底的一分野として、人間文化の様々な領域で活用される学問であり、科学技術の発展に貢献するだけでなく、社会事象を客観的に表現し予測するための手段ともなっています。そのため、東京大学の学部前期課程(1、2年生)では、理科各類の全学生が解析・代数を必修科目として履修し、文科各類の学生も高度な数学の授業科目を履修できるカリキュラムが用意されています。
本学に入学しようとする皆さんは、入学前に、高等学校学習指導要領に基づく基本的な数学の知識と技法を習得しておくことはもちろんのことですが、将来、数学を十分に活用できる能力を身につけるために、次に述べるような総合的な数学力を養うための学習を心掛けてください。
1) 数学的に思考する力
様々な問題を数学で扱うには、問題の本質を数学的な考え方で把握・整理し、それらを数学の概念を用いて定式化する力が必要となります。このような「数学的に問題を捉える能力」は、単に定理・公式について多くの知識を持っていることや、それを用いて問題を解く技法に習熟していることとは違います。そこで求められている力は、目の前の問題から見かけ上の枝葉を取り払って数理としての本質を抽出する力、すなわち数学的な読解力です。本学の入学試験においては、高等学校学習指導要領の範囲を超えた数学の知識や技術が要求されることはありません。そのような知識・技術よりも、「数学的に考える」ことに重点が置かれています。
2) 数学的に表現する力
数学的に問題を解くことは、単に数式を用い、計算をして解答にたどり着くことではありません。どのような考え方に沿って問題を解決したかを、数学的に正しい表現を用いて論理的に説明することです。入学試験においても、自分の考えた道筋を他者が明確に理解できるように「数学的に表現する力」が重要視されます。普段の学習では、解答を導くだけでなく、解答に至る道筋を論理的かつ簡潔に表現する訓練を十分に積んでください。
3) 総合的な数学力
数学を用いて様々な課題を解決するためには、数学を「言葉」や「道具」として自在に活用できる能力が要求されますが、同時に、幅広い分野の知識・技術を統合して「総合的に問題を捉える力」が不可欠です。入学試験では、数学的な思考力・表現力・総合力がバランスよく身についているかどうかを判断します。
【理科】
理科は、文系・理系を問わず、社会における自然科学、先端技術が関連する様々な分野において、問題の本質を見つけ、課題解決に導くための考え方の基礎となる教科です。このために、東京大学の学部前期課程(1、2年生)では、理科各類の全学生が物理・化学・生物を必修科目として履修し、文科各類の学生も高度な自然科学の授業科目を履修できるカリキュラムが組まれています。本学を受験する皆さんには、高等学校で理科の各科目を広く勉強し、理科に関する基礎的な力を身につけることを期待しています。このために、入学試験では以下の能力を判断するための問題が出題されますので、そのような力を養成する学習を目指してください。
1) 自然現象の本質を見抜く能力
自然現象を深く観察し、実物に即して現象の本質を見抜く発見力・洞察力を重視します。
2) 原理に基づいて論理的にかつ柔軟に思考する能力
自然現象に関する知識の正確さとともに、自然現象を科学的に分析し、深く掘り下げ、論理的に思考する能力を重視します。また、単なる計算力を問うのではなく、自然現象を定量的に考察する能力も重視します。求められる自然現象に関する知識は、現行の高等学校学習指導要領の範囲を逸脱することはありませんが、これらを十分に理解・消化し、論理的に組み合わせて活用する能力が求められます。
3) 自然現象の総合的理解力と表現力
自然現象は複合的な現象なので、一つの分野の特定の知識・技術のみではなく、幅広い分野の知識・技術を統合し総合的に理解する能力を重視します。また、得られた結論を、客観的に説明する科学的な表現力を重視します。
【外国語】
人間は「ことば」なしでは生きていけません。誰もが「ことば」で考え、相手の感情を知り、自分の思考を相手に伝えます。「世界的視野をもった市民的エリート」を育てることを使命とする東京大学は、教養教育(リベラル・アーツ教育)を重視しており、そのため、入試問題においては、多くの外国語による受験に門戸を開いています。具体的には、英語のほか、ドイツ語、フランス語、中国語等による受験が可能です。共通して求める能力をまとめるとすれば、「外国語による理解力と表現力」ということに尽きます。
いずれの外国語についても、本学で学ぼうとする皆さんは、高等学校までの教育課程の範囲内で、それぞれの言語によるコミュニケーションに必要とされる理解力と表現力を備えていることが期待されますので、その言語についての正確な知識に裏打ちされた論理的な思考力の養成に努めてください。外国語文の和訳、和文の外国語訳、文法的知識を問う問題は言うまでもなく、ときにその言語の背景にある社会・文化への理解を要求する問題が出題されるのも、そうした努力の成果を見るためです。
以下、外国語として選択されることの最も多い英語について若干付言します。現代社会において、市民的エリートとしての責任を果たそうとすれば、英語力が重要な要素であることは明らかでしょう。ここで求められる英語力は、具体的には3点にまとめられます。
1) 英語による受信力
知的内容のあるコミュニケーションが交わされる場において、相手側の英語による発信を正しく理解する能力が必要不可欠であることは言うまでもないでしょう。読解・聴解を含めた受信力を問う問題が出題されるのはそのためです。
2) 英語による発信力
同様の場において、自分の述べたいことを正しく英語で表現できる発信力が不可欠なこともまた明らかです。英作文の問題が出されるのはこのためであり、現在、「話す」能力の試験を課すことができないのはもっぱら技術的な理由によります。
3) 批判的な思考力
上記2点の能力を発揮し、健全なコミュニケーションを達成するためには、例えば常に何が「正しい」のかを問うような想像力豊かな批判的視点がなければなりません。それがなければコミュニケーションの場には誤解と曲解が渦巻くことになります。
こうした英語力を身につけるためには、発音・語彙・文法構造などの細部の把握と、論理構成の理解や文化的背景についての知識に裏打ちされた大局的な把握との両面での訓練が必要であり、教養教育ではそうした英語教育を目指しています。そのため、本学を志望する皆さんには、高等学校学習指導要領の範囲内で、そうした英語カリキュラムに対応できる能力を身につけるように特に意識して、学習を進めてほしいと思います。