
書籍名
仕事から見た「2020年」 結局、働き方は変わらなかったのか?
判型など
280ページ、四六判、仮フランス装
言語
日本語
発行年月日
2022年3月18日
ISBN コード
978-4-7664-2806-3
出版社
慶應義塾大学出版会
出版社URL
学内図書館貸出状況(OPAC)
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2020年は、新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、日本社会にも深刻な影響を及ぼした一年だった。当初は東京五輪・パラリンピック開催や「働き方改革関連法」「同一労働同一賃金」施行を契機に、雇用制度の大きな前進が期待されていた。しかし感染拡大はそれらの流れを大きく変え、休業者の急増やテレワークの急速な普及など、未曾有の事態をもたらした。本書は、リクルートワークス研究所が継続して実施してきた「全国就業実態パネル調査 (JPSED)」と感染症拡大後の臨時追跡調査に基づき、2020年を起点とした働き方の変化と持続的構造を明らかにしたものである。
働き方の大きな変化として第一に挙げられるのが、なによりテレワークの普及である。2019年末には実施率は7%にすぎなかったが、20年春には27%にまで急増し、年末でも感染前より2倍近い水準で定着した。テレワークは、適切な評価制度、信頼できる上司による業務配分、労働者代表による交渉体制が整った職場ほど、継続可能な柔軟な働き方として根付く傾向が見られた。
第二の変化として、一部の人々が「働きすぎ」から解放され、仕事と生活の関係を見直す機会となったことが挙げられる。全般的にワーク・エンゲージメント (仕事への熱意) は低下したが、それまでの過剰労働の強制的停止による自己省察の契機ともなった。さらには、テレワークにより家事・育児参加が増加した男性や、自主的な学びに取り組み始めた就業者も現れた。
第三に、新たな格差の拡大である。従来の「所得」と雇用の「安定性」の二重の格差に加え、2020年を契機に働き方の「柔軟性」をも享受する一部の高所得正社員層が出現し、正規雇用内での格差や、非正規雇用やエッセンシャルワーカーとの間の「三重の格差」が浮き彫りとなった。危機対応力や働き方の選択肢は、限定的にしか広がらず、格差拡大への懸念が強まる結果となった。
一方で、変わらなかったものもある。労働市場の構造は依然として非正規雇用がショックの調整弁となるかたちで維持され、正規雇用は基本的に安定を保った。地域格差についても、感染者数の多少と失業率には明確な関連が見られず、地方の就業構造は従来通り硬直的だった。報酬格差は短期的には拡大せず、むしろ同一属性内でのばらつきが目立った。非正規雇用者や中小企業労働者が休業によって能力開発の機会を失ったことから、将来的に人的資本の蓄積格差が生じ、賃金格差や生産性格差につながることも懸念されている。
総じて2020年は、テレワーク普及や働き方の見直しといった変化を生み出した一方で、構造的課題や格差の固定化を改めて可視化した年であったといえる。本書は、JPSEDという独自の継続調査を活用し、コロナショック下の働き方を「データによる歴史証言」として提示したものである。コロナショックの長期的な影響については、今後も継続的な検証が必要だが、いずれにせよ2020年は、日本の労働と社会における重要な分岐点であったと位置づけられるだろう。
(紹介文執筆者: 社会科学研究所 教授 玄田 有史 / 2025)
本の目次
第1章 働き方の柔軟性と新たな格差(山本 勲)
第2章 雇用の二極化を検証する(照山博司)
第3章 都会の仕事、田舎の仕事――感染による地域間格差への影響(阿部正浩)
第4章 感染拡大と「働きがい」の変化と格差――ワーク・エンゲージメントの視点(久米功一)
第5章 感染拡大が引き起こした企業規模間格差――「規模」から浮かび上がる格差の実態(茂木洋之)
第6章 キャリアを通した階層移動の機会(三輪 哲)
第7章 テレワークへの移行と定着、そして効果(萩原牧子)
第8章 テレワークの普及に必要となる労働者代表――孤立を防ぐための集団交渉(玄田有史)
第9章 休業が在職者にもたらした帰結とは――収入・満足度等への影響(太田聰一)
第10章 休業手当は就業継続につながったのか――手当支給の影響と効果(久米功一)
第11章 子どもを持つ就業者のワーク・ライフ・バランスは変化したのか(大谷 碧)
第12章 社会人にとって「学び」の持つ意味とは――2020年は学習を変えたのか(孫 亜文)
終 章 総括――結局、何が変わり、何が変わらなかったのか?(玄田有史)
あとがき
執筆者一覧
編者略歴
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【編者】
玄田 有史(げんだ・ゆうじ)東京大学社会科学研究所教授(はしがき、第8章、終章)
萩原 牧子(はぎはら・まきこ)リクルートワークス研究所調査設計・解析センター長(序章、第7章、あとがき)
【執筆者】(担当章順)
山本 勲(やまもと・いさむ)慶應義塾大学商学部教授(第1章)
照山博司(てるやま・ひろし)京都大学経済研究所教授(第2章)
阿部正浩(あべ・まさひろ)中央大学経済学部教授(第3章)
久米功一(くめ・こういち)東洋大学経済学部教授(第4章、第10章)
茂木洋之(もてぎ・ひろゆき)リクルートワークス研究所研究員(序章、第5章)
三輪 哲(みわ・さとし)東京大学社会科学研究所教授 (第6章)
太田聰一(おおた・そういち)慶應義塾大学経済学部教授(第9章)
大谷 碧(おおたに・みどり)リクルートワークス研究所研究員/アナリスト(序章、第11章)
孫 亜文(そん・あもん)リクルートワークス研究所研究員/アナリスト(序章、第12章)
関連情報
研究プロジェクト2021: 何が変わって、何が変わらなかったのか ―コロナショックを経た働き方変化―
「パンデミック下の雇用者収入 照山博司」 (リクルートワークス研究所ホームページ 2023年4月4日)
https://www.works-i.com/research/project/coronashock/change/detail008.html
研究プロジェクト2021: 何が変わって、何が変わらなかったのか ―コロナショックを経た働き方変化―
「新型コロナパンデミックと雇用の格差 ―2019年から2021年の動向 照山博司」 (リクルートワークス研究所ホームページ 2023年3月20日)
https://www.works-i.com/research/project/coronashock/change/detail007.html
研究プロジェクト2021: 何が変わって、何が変わらなかったのか ―コロナショックを経た働き方変化―
「元通りのようで、変化はある ―宣言下のテレワーク経験が、職場制度にもたらした影響 ― 萩原牧子」 (リクルートワークス研究所ホームページ 2022年7月6日)
https://www.works-i.com/research/project/coronashock/change/detail006.html
研究プロジェクト2021: 何が変わって、何が変わらなかったのか ―コロナショックを経た働き方変化―
「コロナ禍での地域労働市場 阿部正浩」 (リクルートワークス研究所ホームページ 2022年7月4日)
https://www.works-i.com/research/project/coronashock/change/detail005.html
研究プロジェクト2021: 何が変わって、何が変わらなかったのか ―コロナショックを経た働き方変化―
「仕事も、家事も、育児も ―コロナ禍で増した重圧― 大谷碧」 (リクルートワークス研究所ホームページ 2022年6月29日)
https://www.works-i.com/research/project/coronashock/change/detail004.html
研究プロジェクト2021: 何が変わって、何が変わらなかったのか ―コロナショックを経た働き方変化―
「感染拡大のインパクトをワーク・エンゲージメントの変化から読み解く 久米功一」 (リクルートワークス研究所ホームページ 2022年5月20日)
https://www.works-i.com/research/project/coronashock/change/detail003.html
研究プロジェクト2021: 何が変わって、何が変わらなかったのか ―コロナショックを経た働き方変化―
「コロナショックによるレジリエンス格差拡大の兆候 山本勲」 (リクルートワークス研究所ホームページ 2022年4月27日)
https://www.works-i.com/research/project/coronashock/change/detail002.html
研究プロジェクト2021: 何が変わって、何が変わらなかったのか ―コロナショックを経た働き方変化―
「コロナ禍における、企業規模間格差 茂木洋之」 (リクルートワークス研究所ホームページ 2022年4月13日)
https://www.works-i.com/research/project/coronashock/change/detail001.html
コロナ下の日本経済を検証する
コロナ禍でも免れた大量失業:高齢者・休業者・非正規がクッション、格差は拡大 (nippon.com 2021年8月25日)
https://www.nippon.com/ja/in-depth/a07603/
書評:
麓 仁美(松山大学経営学部教授)評 (『日本労働研究雑誌』2022年10月号No.747, p.109~p.110 2022年9月26日)
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2022/10/index.html
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2022/10/pdf/103-111.pdf#dokusho_1
特集・統計クライシス
黒崎亜弓 評「企業が働き方調査を続ける理由」 (『週刊エコノミスト』2022年7月5日号p.76~p.77 2022年6月27日)
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220705/se1/00m/020/057000c
本よみうり堂:本のインタビュー
[コロナの時代を読む] <21> 企業格差拡大…今月の読書委員 佐藤義雄さん (読売新聞オンライン 2025年6月10日)
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/feature/20220607-OYT8T50000/
「仕事から見た『2020年』」 新たな格差生むコロナ 松江出身・玄田東京大教授ら編集 (『山陰中央新報』7面・文化面 2022年5月2日)
https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/201829
河野龍太郎 (BNPパリバ証券経済調査本部長) 評 (『週刊東洋経済』p.93 2022年4月23日号
https://toyokeizai.net/articles/-/582008
藤原裕之 (センスクリエイト総合研究所代表) 評「コロナ禍で働き方は変わったのか? 就業実態パネル調査を基に分析」 (『週刊エコノミスト』2022年5月3日・10日合併号p.60 2022年4月22日)
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220510/se1/00m/020/013000c
神林龍(一橋大学教授・労働経済学) 評 (朝日新聞 2022年4月16日)
https://book.asahi.com/article/14599412
【今週の労務書】「データから変化を再確認」 (労働新聞社 2022年4月9日)
https://www.rodo.co.jp/column/124661/
書籍紹介:
ビジネス 気になるビジネス本「結局、コロナは「働き方」を変えたのか?変わらなかったのか?」 (J-CAST会社ウォッチ 2022年9月2日)
https://www.j-cast.com/kaisha/2022/09/02444520.html
関連記事:
Society No.59 - Hints from the combination of labor economics, Social Sciences of Hope and Social Sciences of Crisis Thinking: Toward ways of working able to respond to abnormality and change (Discuss Japan – Japan Foreign Policy Forum 2020年6月30日)
https://www.japanpolicyforum.jp/society/pt2020063017360510511.html

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