癒しの森プロジェクト

（プロジェクトの背景と理念）
わが国において、森林資源（主に木材）の利用が長らく低迷してきたことは、近年アンダーユース（過少利用）問題と認識され、様々な生態系ディスサービスを引き起こす要因となっていることが指摘されている。その一つに森林の管理放棄による景観悪化もしくは倒木等のリスク増大がある。附属演習林富士癒しの森研究所が立地する山梨県山中湖村は、保養地として発展を遂げてきたが、保養地としての主構成要素である森林環境は、十分な管理がなされず、保養活動の促進あるいは質の向上に資するための資源として有効に活用できる状況にない。
一方で、都市を中心としたストレスフルな社会生活の反動として、森林がもたらす“癒し”効果への期待は高まっている。また、地域社会における「健康づくり」は、地域住民のウェルビーイングを高めるだけでなく、自治体の財政状況の改善にも寄与することから、各自治体において各種の取り組みが行われ始めている。こうした状況の中、森林に近接する地域社会において”癒し”効果を高めた森林環境を担保することは、住民の福祉に資するだけでなく、来訪者の保養活動・健康増進プログラム等を通じて経済的利益をももたらすものと期待できる。すなわち、地域に現存する森林を適切に管理することで、持続的に自然環境を活用しながら社会の発展を目指すモデルを構築しうる。
このモデルを地域社会と協働しながら創りあげようとするのが、富士癒しの森研究所が掲げる「癒しの森プロジェクト」である（図1）。このプロジェクトでは、森林資源の利用もしくは管理作業に意欲を持つ人々がボランタリーに、もしくは相応の対価を負担して森林に働きかけることによって（アンダーユース状況の解消）、自律的に森林の管理がなされること、その過程および結果として多くの”癒し”が森林から引き出されることを想定している。このような、地域にある森林資源を管理し活用するための自律的な仕組みの構築がプロジェクトの目指すところであり、そのために富士癒しの森研究所は、地域住民らと連携してその仕組みづくりのための実践を行いつつ、その過程を研究するアクションリサーチを志向する。

（プロジェクトでの取り組み例）
体験をともなう公開講座やワークショップを開催し、燃料やエクステリア資材として木材を適切に利用することで、安全かつ快適に散策ができる森林環境ができること、地域の何気ない道を歩く活動を広げることで地域資源の発掘や地域活性化につながることを発信してきた。
地域住民と村内の薪需要や、森林管理を行った林内の植物について共同調査を行ない、その結果を公開講座で住民と共有してきた。
2017年3月には、山中湖村と包括的な地域交流に関する協定を交わし、村行政との安定的な協働体制を築いた。これに基づき申請した村との共同研究プロジェクトが、科研費助成研究として採択され、2018年度より取り組んでいる。この中で、森林に囲まれた村内の道が「散歩道」として活用することを目指した、地域住民参加型の情報収集に取り組んでいる（図2）。