転倒・骨折後も安心して住み続けられる住環境のデザイン

高齢者の「転倒・骨折」は自立度を急速に低下させ、寝たきりや要介護状態の要因となる重要な社会的な問題であり、転倒・骨折の予防やリスク軽減の対策が超高齢社会として取り組むべき重大な課題である。また、その原因には多面的な要因が複合的に交絡している。

本研究は、医学・建築学・都市工学・福祉工学が連携し、高齢者の転倒・骨折を［1］筋力低下、平衡覚・バランス保持能の低下などを中心とした「内的要因」と［2］転倒場所や住環境などに代表される「外的要因」、また［3］転倒につながったきっかけ動作を検討することでその要因を総合的に理解・解明し、転倒予防およびリスク軽減策の提案につなげることが目的である。さらに、転倒しても寝たきりにならない住宅の開発・提案、また転倒を経験しても外出したくなる地域居住環境の創出・実現を目指すことが目的である。

2014年、地域住民に対する大規模調査から開始し、そこから見えてきたエビデンスを踏まえ、2016年からは東京大学医学部附属病院整形外科と連携し、転倒による大腿骨近位部骨折で入院した高齢患者を対象にベッドサイド調査および自宅訪問を行い、骨折まで至った転倒の特徴や身体的および環境的な要因とその対策案を探索している。最近の成果としては大腿骨近位部骨折まで至った自宅トイレ関連の転倒が高齢、慢性疾患、ロコモの悪化などの内的要因とともに寝室とトイレの距離の外的要因、複数の旋回動作が重要なきっかけ動作で転倒を引き起こした可能性か示唆された。まさに医工連携によるダイナミックな研究（アクションリサーチ）である。

・東京大学医学部附属病院　整形外科　松原 全宏

【原著論文（査読付）】
Son BK, Akishita M, Uchiyama E, Imaeda S, Taniguchi S, Sumikawa Y, Unyaporn S, Matsubara T, Tanaka S, Tanaka T, Otsuki T, Okata J, Iijima K. Multiple turns: potential risk factor for falls on the way to the toilet. Geriatr Gerontol Int 12:1293-1295, 2019 doi: 10.1111/ggi.13806.

内山瑛美子, 高野渉, 中村仁彦, 孫輔卿, 今枝秀二郞, 田中友規, 飯島勝矢, 松原全宏. 質問紙調査票の統計的正規化による転倒リスク識別器の構築　第37回日本ロボット学会, 2019.9.3-7

今枝秀二郞、孫輔卿、内山瑛美子、田中友規、谷口紗貴子、SUTHUTVORAVUT Unyaporn、三好友良、西野亜希子、田中敏明、飯島勝矢、田中栄、松原全宏、西出和彦、大月敏雄. 在宅高齢者における転倒状況の把握と建築的な転倒予防対策 ―東京大学医学部附属病院へ入院した大腿骨近位部骨折患者の調査―日本建築学会 住宅系研究報告会論文集, 13:65-70, 2018

Imaeda J, Son BK, Uchiyama E, Tanaka T, Taniguchi S, Unyaporn S, Miyoshi Y, Tanaka T, Iijima K, Otsuki T. The Architectural Factors in Continuity of Living for the Elderly After Falls and Fractures. The 12th International Symposium on Architectural Interchanges in Asia, 420-424, 2018

Tanaka T, Matsumoto H, Son BK, Imaeda S, Uchiyama E, Taniguchi S, Nishino A, Miura T, Tanaka T, Otsuki T, Nishide K, Iijima K, Okata J. Environmental and physical factors predisposing middle-aged and older Japanese adults to falls and fall-related fractures in the home. Geriatr Gerontol Int 18:1372-1377, 2018

今枝秀二郞、内山瑛美子、田中友規、谷口紗貴子、金ギョンミン、長木美緒、高田遼介、三浦貴大、孫輔卿、西野亜希子、田中敏明、飯島勝矢、西出和彦、大月敏雄.　在宅高齢者の転倒実態調査に基づく転倒プロセスのモデル化 ―文京区・横浜市・柏市を対象とした調査研究 ―日本建築学会 住宅系研究報告会論文集, 12:217-226, 2017

【学会発表】
孫輔卿,内山瑛美子, 今枝秀二郞, 角川由香, 馬場絢子, スタッヴォラヴットアンヤポーン,松原全宏, 秋下雅弘, 大月敏雄, 田中敏明, 飯島勝矢. 自宅トイレ関連転倒・骨折高齢者の動作解析から見えてきた回旋の重要性. 第6回日本サルコペニア、フレイル学会 2019.11.9-10, 新潟

孫輔卿, 内山瑛美子, 今枝秀二郞, 谷口紗貴子, 田中友規, 角川由香, 馬場絢子, スタッヴォラヴット・アンヤポーン, 松原全宏, 秋下雅弘, 大月敏雄, 田中敏明, 飯島勝矢. 新しい転倒予防の挑戦：医工連携による骨折まで至った自宅トイレ関連転倒の特徴解明 -入院時ベッドサイド調査と退院後自宅訪問調査から- 第6回日本転倒予防学会 2019.10.5-6, 新潟

今枝秀二郞, 孫輔卿, 内山瑛美子, 谷口紗貴子, スタッヴォラヴット・アンヤポーン, 馬場絢子, 角川由香, 田中友規, 田中敏明, 飯島勝矢, 松原全宏, 大月敏雄. 退院後の自宅訪問調査による転倒・大腿骨骨折を経験した高齢患者の住環境変化. 第6回日本転倒予防学会 2019.10.5-6, 新潟

孫輔卿, 内山瑛美子, 今枝秀二郞, 谷口紗貴子, スタッヴォラヴット・アンヤポーン, 角川由香, 松原全宏, 大月敏雄, 田中敏明, 飯島勝矢. 医工連携による骨折まで至った転倒の身体的よび環境的要因の検討第61回日本老年医学会 2019.6.6-8, 仙台

内山瑛美子, 孫輔卿, 今枝秀二郞, 田中友規, 松本博成, 森田光治良, 三好友良, スタッヴォラヴット・アンヤポーン, 田中敏明, 飯島勝矢, 松原全宏, 大方潤一郎. 大腿骨近位部骨折による入院患者への聞き取り調査内容の定量的分析に基づいた転倒に関わる環境要因の推定. 第5回日本転倒予防学会　2018.10.7, 静岡

今枝秀二郞, 孫輔卿, 内山瑛美子, 田中友規, 谷口紗貴子, 三好友良, スタッヴォラヴット・アンヤポーン, 馬場絢子, 角川由香, 松原全宏, 大月敏雄, 田中敏明, 飯島勝矢, 大方潤一郎. 入院時ベッドサイドインタビューと自宅訪問調査による 大腿骨骨折患者の転倒状況の正確な把握. 第5回日本転倒予防学会　2018.10.7, 静岡

スタッヴォラヴットアンヤポーン、孫輔卿、田中友規、今枝秀二郞、内山瑛美子、 松本博成、森田光治良、松原 全宏,、西野 亜希子、秋下 雅弘、中島 勧、田中 栄、大月敏雄、西出和彦、田中敏明、飯島勝矢、大方潤一郎 転倒に伴う大腿骨近位部骨折により入院した高齢患者の特徴：服用薬物・合併症・ロコモティブシンドロームの観点から. 第4回日本転倒予防学会　2017.10.8, 岩手

今枝秀二郞、孫輔卿、内山瑛美子、松本博成、田中友規、谷口紗貴子、金ギョンミン、高田遼介、三浦貴大、西野亜希子、西出和彦、大月敏雄、田中敏明、飯島勝矢、大方潤一郎 地域や自宅における在宅高齢者の転倒事例に基づく建築的な転倒予防対策. 第4回日本転倒予防学会　2017.10.8, 岩手

内山瑛美子、孫輔卿、今枝秀二郎、田中友規、松本博成、森田光治良、スタッヴォラヴットアンヤポーン、松原 全宏、西野亜希子, 秋下 雅弘, 大月敏雄, 西出和彦, 田中敏明, 飯島勝矢, 大方潤一郎.　大腿骨近位部骨折により入院した患者への聞き取り調査による転倒実態調査. 第4回日本転倒予防学会　2017.10.8, 岩手

今枝秀二郞、田中友規、谷口紗貴子、金炅敏、松本博成、内山瑛美子、西野亜希子、孫輔卿、三浦貴大、飯島勝矢、田中敏明、大月敏雄、西出和彦、大方潤一郎. 横浜市における高齢者の転倒事例に基づく地域居住を継続するための環境要因の究明. 第3回日本転倒予防学会 2016.10.2, 名古屋

田中友規、今枝秀二郞、谷口紗貴子、金炅敏、松本博成、内山瑛美子、西野亜希子、孫輔卿、三浦貴大、大月敏雄、西出和彦、田中敏明、飯島勝矢、大方潤一郎. 都市部・都市郊外部に住む高齢者における転倒状況と関連する内的要因・外的要因の横断的 検討. 第3回日本転倒予防学会 2016.10.2, 名古屋

Imaeda S, Tanaka T, Taniguchi S, Uchiyama E, Matsumoto H, Kim KM, Choki M, Takada R, Morita K, Unyaporn S, Nishino A, Son BK. Actual conditions of falls in elderly Japanese living in single-family house: A qualitative study. The 3rd IARU aging, Longevity and health Graduate Student Conference 2016.11.3-5 東京

Matsumoto H, Uchiyama E, Yoshida S, Kim K, Miki K, Son BK, Nishino A. Designing built environments to prevent falls, fall-related fractures, and post-fall home confinement. the Gerontological Society of America 2015.11.18-22, Orlando, Florida, USA