国立大学法人法案をめぐる動きについて

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式辞・告辞集 国立大学法人法案をめぐる動きについて

国立大学法人東京大学総長 佐々木 毅
平成15年(2003年)3月17日

 

今年に入ってから「国立大学法人法案の概要」(以下、「概要」と呼ぶ)が国大協法人化特別委員会で明らかにされた。そして、2月10日には国立大学長会議が開催され、文部科学省の側からこの「概要」についての説明があった。これをうけて各大学からさまざまな疑問点が国大協法人化特別委員会に寄せられ、同委員会の法制化グループがこれら多数の疑問点を整理するとともに、「概要」に対する国大協の態度表明の準備が進められた。そして、国大協法人化特別委員会での審議を経て2月24日の国大協理事会において法制化グループの整理に基づく同委員会の見解が表明され、それをめぐって活発な意見交換が行なわれた。特に、多数の疑問が寄せられていることに鑑み、政府案決定の前にでも臨時の会合を開催し、議論を深めるべきだとの意見が数多く出された。そこで法案決定後に何らかの会合を持つことを念頭において、理事会に提案された原案を修正の上、「理事会としては、法案の基本的な枠組みは最終報告を尊重して立案されているとの国大協法人化特別委員会の見解を全体として了承し、政府に対し、今後この見解に沿って法制化が進められるよう、強く要望する」という見解をまとめた。そして、周知のように2月28日には政府案が決定された。

この間、本学においては学部長会議、研究所長会議、学部長・研究所長合同会議、UT21会議法人化準備委員会、センター長会議において「概要」をめぐって意見交換や見解の表明が行われた。また、3月4日には政府案を基にUT21会議法人化準備委員会において関連条文の説明を含め、2時間近くにわたって意見交換と見解の表明が行われた。「概要」以来、一貫して議論になったのは、国立大学の設置者が国ではなく国立大学法人であるとされたことの意味及びその含意、国立大学法人に属する経営協議会が教育研究評議会(当初、多くの人々が国立大学に属するものと理解した)よりも上位に立つのではないかという疑念、教授会を初めとする内部組織が初めから全く言及されていないことへの不安(あるいは、学内の組織の多くをできるだけ省令その他で規定して欲しいという要望)、独立行政法人通則法の多くの準用個所が持つ具体的な意味内容の確認などであった。また、法案発表後は、「概要」では学部、研究科、研究所などが省令で規定されるとされていたにもかかわらず、それが法案段階で削除されたこととその背景が議論の焦点に浮上した。つまり、大学内部のことは大学の判断に委ねるべきであるという議論がこの削除の理由であったとされるが、それは大学に対する国の責任の軽減を企図するものではないかといったことが指摘された。更にこのように省令に規定されないというのであれば、こうした組織名は中期目標・計画に書き込むことになるのかなど、この中期目標・計画作成作業とどう関係するかといった点も新たな争点として指摘されている。

これらはいわば国立大学法人法案に内在的な論点に止まり、膨大な数の関連条文やその修正においてどのような制度設計が実際になされているかはなお検討を要するところである。従って、今後更に多くの疑問や不安が出てくる可能性は排除できない。こうした論点を明らかにすることは今後の法案審議との関係においても、また、政省令の制定過程との関係においても依然として重要であり、決して、全てが決着したわけではない。従って、今後必要に応じて個々の論点について国大協を通して、あるいは、本学として意思表示をしていくつもりである。

同時に、法案は一見して明らかなように各大学に広範な範囲で自ら決定する権利と義務を課しており、法案で明記されていない大学内部の仕組みについて早急に組織規範を自ら整備する必要がある。無用な混乱を防ぐためにも、こうした大学内部体制についてはツメを着実に行っていくことが必要である。この点は法人化準備委員会でも指摘された点であった。また、役員数が総長及び理事7名となったことを受けてどのような組織体制を全体として考えるか、事務機構をどのように見直すかも大きな課題である。その総数の2分の1以上が学外者によって占められる経営評議会については、それへの反対論を含め、学内外にさまざまな見解がある。その人事については教育研究評議会が意見を述べる権利があることが法案で明白にされたが、本当に機能し得る組織にするためには相当の準備が必要である。今後は法案の審議状況を見定めながら、必要な準備を行っていくことにしている。

[学内広報 No.1258抜粋]

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