未来投資会議での発言

五神総長は、日本経済再生本部の下、成長戦略の司令塔として開催されている未来投資会議に、議員として出席しています。
各回の議事要旨から、五神総長の発言を抜粋し、ご紹介します。
 
第42回未来投資会議 (2020年7月30日)
 
 この拡大された未来投資会議で議論していただきたい最重要課題は、皆様と同様で、新型コロナウイルスの感染拡大の抑止と経済・社会活動の最大化、そしてSociety 5.0への加速についてである。
 まず、今出来ることで大事なこととしては、成長戦略フォローアップにもあるように、ウイルスの変異や感染状況をリアルタイムで捉えて、国民に信頼していただけるような科学的データに基づき対策を実施することである。
 すぐに出来ることとして、前回からも申し上げていることだが、レセプト、感染者の生体試料、PCR 検査の残余検体などのデータを現場にできるだけ負担をかけないような形で集めて、統合的なデータベースとして、時間変化を追跡できる環境を作ることが必要である。
 この件で、先日、2名の知事とオンラインで話をした。大学や医療機関等との幅広い連携体制もできつつあり、大学には非常に大きな期待をいただいている。これについては、加藤大臣とも具体的に相談を始めたところである。すぐ出来ることを1~2か月のうちに迅速にスタートさせたい。
 その上で、重症化のメカニズムを解明、ウイルスの変異とその拡散の把握等の基盤となるCOVID-19データバンクセンターの創設を急ぐべきである。
 また、インフルエンザなどコロナ以外の感染症の状況についても同時にモニターすることが、社会経済の活動を維持するためには不可欠である。これは、リアルタイムデータのスマート活用を基礎とするSociety 5.0の先行モデルともなる。
 一方、雇用創出による経済活性化も喫緊の課題である。Society 5.0の実現の方向性に合致し、かつ規模感のある仕事を創出することを促すような事業を国が進める必要がある。
 投資対象として重要なのは、やはりデータである。日本独自のデータは、将来大きな価値を持つ。ただ、それを活用するためにはデータの質をチェックし、利用しやすい形に整形するなどして、活用できる形に整備しておく必要がある。この作業は多大な労働を必要とするので、雇用創出にもつながるというわけである。これについては、学生も含め人材と専門的な知識を持つ大学との連携が有効である。
 この場でも大学の活用について度々提案してきたが、データへの投資は大学を知識集約化の産業資産を作っていく作業に参画させて、大学改革を加速するチャンスにもなる。
 インフラへの投資も非常に重要である。まず、コロナ前に整備されたインフラの多くは三密仕様となっており、それらをウィズ・コロナ、ポスト・コロナ仕様に変える必要がある。そこにも雇用創出のチャンスがある。
 次に、ポスト・コロナのために、スマート化のためのインフラを世界に先駆けて整備し、データを活用した先端的な活動に向けた投資を世界から呼び込めるようにすべきである。具体的には、国家インフラであるSINETと3万6千カ所の小中高を結ぶGIGAスクール構想とを組み合わせて、高速のデジタル神経網を作り、ハイパフォーマンスコンピュータやデータサーバを接続することで、日本列島を高度なデジタルアイランドとして機能させる。
 さらに、このデジタル神経網は5G、Beyond 5Gの導入の加速のための重要なインフラともなる。またさらに、量子技術は、セキュリティ対策のための先行投資としても非常に重要だと考えている。
   
第40回未来投資会議 (2020年7月3日)
 
 デジタル革新は、フィジカルとサイバーを高度に融合させるが、それを持続可能でインクルーシブな社会であるSociety 5.0の実現につなげることを、この未来投資会議では目指してきた。
 都市と地方の格差など、様々な格差を解消し、インクルーシブ・グロースという新たな経済成長の可能性を生み出す。
 これは、デジタル政府として先行している、例えば、シンガポールやエストニアとは次元の異なるものである。
 デジタル革新によって地方と都市の格差を解消するといった未来社会への成長モデルを実現できるのは、日本だけである。
 2025年の大阪・関西万博をショーケースとして活用し、先進した日本の姿を世界に発信するという目標を共有すべきと考える。
 何度も申し上げてきたように、このSociety 5.0の実現の鍵は、リアルデータをリアルタイムで活用するスマート化を進めることである。それには、日本のどこにいても、セキュアで高速なデータネットワークにアクセスできる基盤インフラが必要である。
 幸い日本には、既に世界的に優位性を持つ国家インフラとも言えるSINETが存在する。これを全国3 万6千か所の小中高を結ぶGIGAスクール構想と組み合わせることで、高速デジタル神経網として機能させることを急ぐべきである。
 この際、その中核を担う国立情報学研究所の強化も必要である。このデジタル神経網は、基地局を高密度に配備する必要がある5G、ビヨンド5Gの導入加速のための重要なインフラともなる。
 今、最も重要な課題は、9章に書かれている新型コロナウイルス感染症の問題で、第2波を抑えることである。感染防止を徹底する中で、経済活動を最大化することが求められている。
 それには、スマート化とリアルデータ活用によって、人々の行動を制御することである。そのために、エビデンスベースの感染症対策を早急に実現しなければならない。
 重症化のメカニズムの解明、ウイルスの変異と、その拡散の把握、ワクチン・治療薬の開発には、感染者の検査画像、ウイルスの塩基配列などの様々なデータを統合的に収集し、解析する体制を早急に作らなければならない。
 そのためには、感染者の生体試料や、現在、多くの医療機関で廃棄されてしまっているPCR検査の残余検体なども収集し、統合データベースを作ることが必要である。
 さらに、感染者の既往歴などの把握も重要だが、そこには、既存のレセプトデータの活用が有効である。ウイルスや、その感染状況は、日々変化するので、現在のように、月単位の集約では間に合わない。
 東京などの一部の地域だけでも緊急対応としてレセプトデータを日々更新で活用できるようにすべきである。
 感染者やウイルスのデータ解析、収集した個人情報の取扱いに関するルール作りには、様々な分野の専門家の英知を結集する必要がある。
 フォローアップの中に、「大学の機能を拡張する」とあるが、この対策に関しても、大学や国立研究機関などが既に保有する、物的、人的資源を最大活用し、速やかに実施する必要がある。
   
第39回未来投資会議 (2020年6月16日)
 
 私からは、成長戦略の方向という観点で述べさせていただきたいと思う。
 喫緊の最重要課題はもちろん新型コロナ感染の第2波にしっかり備えることだが、同時に、それを成長戦略と両立させなければならない。ここでの鍵はデジタルトランスフォーメーションによるデータの活用である。
 具体的には、新型コロナの感染状況と、それが人体に及ぼす影響をリアルタイムデータとして網羅的に収集、解析し、エビデンスに基づいて対策を講じていくことである。
 ここで一つ提案したいことは、現在、月ごとに中央に集めているレセプトデータを、緊急対応として日々登録として収集できるように改め活用することである。インフルエンザ感染なども含めた疫学データをリアルタイムで把握して、第2波に備える。患者の重症化リスク把握などは診療現場でも役立つ情報である。これはデータ利活用社会としてのSociety 5.0の先行事例といえる。
 しかしここで障壁がある。いわゆる個人情報保護に関する法制が、自治体ごとにばらばらであること。いわゆる2000個問題である。2000個の別々のルールに対応しながらのデータ活用は困難である。時限つきで結構なので、緊急対応としてオールジャパンで情報を円滑に収集できるように見直し、その実践経験を基に制度設計と整備を速やかに進めることを提案したいと思う。
 知識集約型への転換に際して、大学の役割を拡張して活用すべきだということをここでも何度も申し上げてきた。SINETとGIGAスクールで日本列島全体をカバーする高速デジタル神経網を構築すること。データプラットフォームの運営あるいは先端半導体、Beyond 5Gの実証実験や量子戦略のグローバル拠点、ベンチャー集積拠点化、さらには文系・理系の知恵を総動員したDFFTのデータ利活用ルール検討など、大学の役割を拡張すべきところはたくさんある。農業や漁業のスマート化に対しても、各地域の大学の学生や教員と連携してデータベース化やデータ解析を進めることで、地方創生にも貢献できる。
 先ほどのレセプトデータについては、東京大学と国立情報学研究所にはビッグデータ解析の経験がある研究者を確保しており、日々更新のデータが得られれば、直ちにリアルタイム解析を行える体制を整えている。
 成長戦略の中に、これら大学の役割の拡張についてより明確に記していただきたいと思う。
 最後に、その一方で国の役割をはっきりさせることも重要である。その一つとして、資料2の「8.教育・研究」の2項目めにあるが、国が雇用を保障する研究員制度がある。これは実は7年前の2013年に私が提案したものである。理系の基礎研究だけではなく、日本文化や日本語を深く研究する人材の維持・確保は国の役割である。これらは、ポストコロナの日本の価値を際立たせる上で不可欠である。
 国が雇用を保障するオールジャパンの研究員制度を創って、若手が憧れるポストとして優秀人材を惹きつけ、日本の学術と文化を守り、国際的な求心力の源泉とすべき。
   
第38回未来投資会議 (2020年5月14日)
 
 今、大事なことは、第2波を抑えながら経済活動を最大化すること。経済活動は人の動きを誘起するので、人々の行動とその感染への影響をリアルタイムで把握して行動を制御する必要がある。抗原検査・PCR検査拡充と、大規模な抗体検査による疫学データの把握・蓄積に加えて、行動データを組み合わせて活用できるかが勝負。まず、既に取れているデータを最大活用すること。データ解析のトップ研究者たちも、医療関係の同僚からの刺激もあって、ぜひ協力したいと大変張り切っている。
 しかし、政府や自治体がどこまでデータを取れているのか分からないので、具体的な手法開発に着手するのが難しいとのこと。緊急特例で結構なので、研究者にデータの開示・利用を許可し、最先端技術の活用の道を開くべき。
 もう一つ大きな心配事は、病院の経営。大学病院では教職員を総動員して新型コロナと闘っているが、診療収入は大幅に減っている。東大は何とかやりくり可能であるが、地方大学では病院が大学全体の経営破綻に直結してしまう。もちろん、大学病院以外の医療機関も深刻である。
 重症化した患者をしっかり病院で治療することは信頼の基本。社会の基盤が崩れるのを防ぐとともに、現場が安心して医療に専念できるよう、資金面でのバックアップをぜひお願いしたい。
   
第37回未来投資会議 (2020年4月3日)
 
 東日本大震災と異なる今回の危機の特徴は、全世界で同時だということである。長期戦は避けられない中で、その場の対処に加え、危機が去った後で日本が世界から取り残されないようにしなければならない。社会活動を止めずに新型コロナと闘うには、ICT活用が必須。むしろ、Society5.0への加速期間と考えるべきだと思う。
 授業の全面オンライン化やテレワークを急ピッチで進めているが、その中で様々なことが分かった。
 まず、通信回線の逼迫。動画配信は当たり前だと思っていたら、皆がつなぐと動かない。通信インフラは有限の公共資源だということを痛感している。今、大切なのは、他者を思いやって、情報量を減らし、互いに譲り合うこと。オンライン授業でも、動画の使用は最小限とし、メールでテキストを提供するなどで回線負荷を下げるデータダイエットが重要になっている。また、小中高大の授業を時間で管理するということも見直す必要がある。
 一方、最新のリアルタイムビッグデータの解析技術は大変強力で、感染対策に活用すべき。しかし、それには感染の時空間データが必要。
 セキュリティーも課題。Wi-Fiはネットにつなぐ方法として普及しているが、パスワード盗用による情報漏えいなどの危険がある。ローカル5Gはより高度な認証・通信品質が可能で、Wi-Fiとほぼ同じ周波数領域の利用も想定されているので、多くの技術が転用可能。その周波数確保を急ぐべき。
 インターネットそのものの見直しも必要。駒場と本郷で会議をやるのにシンガポールのサーバーを介する必要がなぜあるのか。セキュリティー、環境負荷、災害対策などから、データの地産地消、通信を局所で閉じる仕組みが必要。
 広帯域でセキュアな専用通信回線であるSINETの活用は一層重要になっている。特に全国の小中高に接続してデータ神経網を整備することは大変意義がある。
 最後に、その先のBeyond 5Gについては、高市大臣から私が座長を務めている懇談会で検討中の戦略骨子案をお配りいただいている。
 グローバル戦略については、日本の技術やシステムを売り込むことに加え、Beyond 5G Readyな環境を日本において世界に先駆けて実現することで、開発や実装の拠点として世界から人や令和2年第 37回未来投資会議6 アイデアを呼び込むという双方向性が重要。
 エコシステムについては、多様性を活力とし、様々なアイデアを掘り起こしながら進めるアプローチが特に重要だと考えている。
 ここで強調したいことは、この戦略の中身は、実は新型コロナ対策で今やらなければならないこととほとんど同じだということである。危機だからこそ未来を描き前向きに進むべきであり、その成果はぜひ2025年大阪万博で世界に示すべきと考える。
   
第35回未来投資会議 (2020年2月7日)
 
 昨年9月の今期の議論が始まる際にも申し上げたが、今、一番重要なことは、アベノミクスが生み出した企業の現預金や家計資産をいかに動かし、Society5.0を実現する未来への投資につなげるかだと思う。
大学を基点とした資金循環の創出は、その一つの方法だと私は確信している。
 国立大学の法人化とその後の改革の狙いは、運営から経営への転換。経営の要諦は投資資金の確保とその投資先の判断であるが、これまで大学の収入といえば授業料か大学病院の診療報酬しかなかった。これでは経営はできない。
 しかし、知識集約化というパラダイムシフトの中で流れが変わった。大学の知を元にした価値創出の道筋が開かれた。大学にとっては大きなチャンス。
 東京大学でまず取り組んだのは大企業が持つ資金や資源の活用だ。本日の資料にスタートアップと大企業の連携やオープンイノベーションがあるが、これらについて、すでに成果が出ている。
 中西会長と立ち上げた日立東大ラボでは、トップ同士、組織同士で同じテーブルに着いて、Society5.0の実現に向けた都市やエネルギーシステムのスマート化など、中長期のビジョンを見定め、幅広いビジョン検討を行っている。
 ダイキンとの産学協創では、延べ420人が実際に交流し、双方の社員・職員のマインドセットの変化を実感している。また、東大発ベンチャーとの連携にも取り組み、既に複数の協業が生まれている。
 ただし、ダイキンがベンチャーに出資をしても、東大にはお金が入らない。大学を起点とするエコシステムからの果実をいただく仕掛けとして、昨年、技術研究組合制度を見直していただき、企業と大学とでジョイントベンチャーを創る道が開けてきたことは大きな前進。大学は、知的な貢献に応じて株式を得ることができる。
 さらに、大学の知や研究力を活かし、グローバルなエコシステムの創出にも着手した。昨年11月に台湾のTSMCと、半導体の先端プロセス技術での研究協力とともに、最先端製造プロセスへのアクセスを日本の産業界に提供する全く新しい提携の仕組みをつくり、発表した。これは、世界からも大変注目されている。
 また、12月にはIBMとの連携も発表し、量子コンピューターの実物を日本に設置することにする。大学が直接、産業競争力強化に貢献し、対価も得られる仕組みとする。
 今、必要なのは、このような取組をより大規模に動かすこと。規模感のある先行投資を今、行う必要がある。
そのための資金調達に向けて、具体的な準備を検討し始めた。それは大学債の発行。例えば、オックスフォード大学は、100年債で約1000億円を調達している。今の金融環境であれば日本でも同程度の調達は可能だが、政令改正が必要で、機を逃さずに資金調達が行えるように、ぜひ支援をお願いしたい。
 また、家計資産を動かす仕掛けも重要。特に高齢の資産家の資金は滞留しがちである。寄附などで社会貢献したいが、何歳まで生きるか分からないから、手元に資産を残さざるを得ない、といった声を少なからず耳にする。
米国では信託を活用し、生きている間の生活資金の保障と寄附を両立させるプランド・ギビングという仕組みがある。こうした仕組みも参考にしながら、大学の信用力を活かし、生活の保証と社会貢献を両立する仕掛けをつくっていきたいと思う。
 このほか、本日の資料にあるリカレント教育は、大学経営の観点からも重要。社会人向けの講座は産業界のニーズとマッチすれば人材投資の対象となる。シンガポールはリカレント教育に対し、国が受講料の70%を補助する仕組みをつくったと聞く。大学の教育資源を成長戦略に活用できるよう、後押しいただきたいと思う。
 最後に、各論について1点お願いしたい。
 前回のこの会議で、ポスト5Gの次の段階であるBeyond 5Gまたは6Gの投資戦略が抜けていると指摘した。早速、高市大臣の下、Beyond 5Gの戦略を議論する懇談会を立ち上げていただいた。私が座長を拝命したところ。
 しかし、報道などを見ていると、ポスト5GとBeyond 5Gが明らかに混同されている。次の成長戦略にBeyond 5G、6Gの戦略を明記することで、ポスト5Gとの区別を明確にし、5Gの先に向けた戦略投資を着実にぜひ進めていただきたい。
   
第34回未来投資会議 (2019年12月19日)
 
 先端半導体を含めたポスト5Gが中間取りまとめにきちんと明記されたこと、量子技術についても経済対策に盛り込まれたことは非常に大きな前進だと思っている。
 先月末、半導体のメガファウンドリーである台湾のTSMCと東大の提携を発表した。デジタル化と省エネの両立に不可欠な最先端半導体の製造を失った日本としては、試作・製造ができる彼らとの連携は命綱である。
 今回の連携は、海外からも即座に大きな反響が寄せられた。国内の多数の企業とも連携して、その最先端プロセスでの製造までを含めて一気通貫の体制を構築しようとしている。
 この記者発表のために来日したTSMCの関係者と話していて、一つ気がついたことがある。先方は、次の勝負はポスト5Gではなくて、Beyond 5G、つまり6Gとにらんでおり、そこでの東大との連携に期待しているのではないかと思われた。そこで、はっとしたことは、現在の施策に穴があるということ。
 ポスト5Gは今後数年が勝負、量子は実装に数十年を要するという中で、その途中の投資戦略として重要なのがBeyond 5G、6Gであるが、それが今議論されている国の戦略からきれいに抜け落ちている。
 中国や欧州は、2030年ごろに5GからBeyond 5Gにシームレスに移行する戦略を既に進めている。トランプ大統領も、6Gについてたびたび明言している。
 日本は、この要素技術である、機能性デバイスや光といった基礎に非常に強みがある。これは、データ流通インフラシステムの省エネ化の鍵ともなるもので、Society5.0をエコで持続可能なものにするための先行投資として極めて重要。
 通信とデバイスの縦割りを廃して、政府一体となった国家戦略の検討を急速に進めるべきで、今ならまだ間に合う。
 今議論されているムーンショットは第6期科学技術基本計画の先取りであるが、これとの整合性も気になっているところである。
   
第33回未来投資会議 (2019年11月12日)
 
 Society5.0を日本が先導するために国がやるべきことは、既に御議論あったようにリアルデータをリアルタイムで活用するための社会インフラをソフトとハード両面で素早く整備すること。
 ソフトのインフラは、先ほども竹中平蔵先生のご発言にもあったように、G20サミットで宣言した大阪トラック、すなわちDFFTの国際ルールづくりを途切れることなく日本が主導すること。
 そのためには、本日議題の、デジタル市場でのルール整備を加速すべきだと思う。なかなかスピードがアップしないなかで、ペースの切りかえが必要。先回りして心配することでイノベーションを阻害するのではなく、挑戦をエンカレッジするようにルール整備を進めるべき。そのためには発想転換が必要。資料にもいろいろなところで出ているように、ソフトロー的な手法を意識して新技術活用ルールをつくるべき。その検討には、先ほど柳川範之先生のお名前があがっていたが、法制度の専門家に加えて経済学、情報工学、農学、医学などの分野を超えた連携が不可欠。東京大学は総合大学としての強みを生かして協力する用意がある。
 ハードについては、日本の優位性を確立することが非常に重要。超高速と高い信頼性の両立が鍵となる。しかも、それが低消費電力でなければならない。既に何回か申し上げたが、光通信ネットワークであるSINETはこれに応えるものであり、その重要度は一層増している。先ほどの金丸恭文議員からの指摘とも対応するもの。
 加えて、半導体の分野ではEUVリソグラフィーという新しい技術の実用化が進展したことによって、最先端半導体に関する国際戦略が鍵となっている。
 本日は、もう一点、重要性を増している量子技術についても触れておきたい。これも半導体と同様に、このわずか2カ月で環境が激変した。米国、英国、ドイツ、EUでは国家戦略的な動きが加速している。ハードそのものはまだ初期段階だが、量子コンピューターを実際に利用するという新しいフェーズに突入したことは間違いない。日本には、まだその構えがないので、整備が急務となる。
 海外で先行しているプレーヤーから見て、日本の周辺技術と高度な物理系・数学系の人材は非常に魅力的なようである。実際、東京大学にもアプローチがある。量子コンピューターの実機を日本に導入することも選択肢。これは量子コンピューターそのものだけでなく、制御システム、プログラミング環境、アプリケーションまで一気通貫での開発環境を一気に整えるために必要。経済安全保障上の観点も考え合わせ、国としての判断・戦略が必要。

   
第32回未来投資会議 (2019年10月29日)
 
 Society5.0の実装イメージは、遅延なく膨大なデータを5Gで送受信し、それを高速なネットワークに流し込み、スパコンやデータサーバーなどをリアルタイムで動かすというイメージ。世界をリードするためには、情報通信ネットワークやデータ処理基盤を社会インフラとして整備することが急務。
 高速性や容量とともに、セキュリティーと消費エネルギーも重要な要素。事務局の説明にもあったように、そこでは半導体が最重要になる。これまでの半導体開発競争では、さまざまな処理に対応し得る汎用のロジックデバイスをターゲットとしてきた。しかし、ディープラーニングのようなAI処理、セキュリティーのための高度な暗号処理では、複雑な計算が必要で、それを汎用品で対応するのは、速度とエネルギー消費の両面で不都合。
 今、最前線では、用途に応じた特化型の半導体開発に向かっている。GoogleやAppleも本気でその開発に乗り出している。しかし、1つの特化型の半導体を開発するのに、400人がかりで1年かかることも珍しくなく、その短縮化が課題であった。
 そこで、今月、東大では、システムデザイン研究センター、d.labを設立し、エネルギー効率の高い特化型の半導体をどこよりも素早く設計することに着手した。最先端プロセスによる試作製造にも対応するため、海外のメガファウンドリと特別な連携体制を用意している。特化型の半導体開発は、具体的な用途と結びつける必要があるので、産業界とも深く連携する仕組みを用意している。
 その先を考えると、昨今、非常に話題の量子コンピューターも無視できない。Googleは、量子コンピューターがついに現行のスパコンを超えたという論文を発表し、話題となっている。私が調べたところ、海外では、初期的なものであるが、既に量子コンピューターが7基稼働しており、実際に利用するというフェーズに突入している。
 量子コンピューター自身の研究開発に加えて、その制御システム、ミドルウエア開発、プログラミング環境、アプリケーションまで、一気通貫で開発を進める環境づくりを急ぐべき。世界競争が熾烈であるが、私は、今ならまだ間に合うと考えている。

   
第31回未来投資会議 (2019年10月3日)
 
 前回、Society5.0の実現のために、動いていない資金を動かす仕掛けが重要であり、そのために大学を使い倒してほしいと申し上げた。本日の議題に沿って、東京大学の取組を3つ、具体的にお話ししたい。
 1つは、先ほど説明にもあったスピンオフの創出。大企業には、資金だけではなく、優秀な人材、技術も眠っている。企業の資源と、大学が持つ知財・技術や、ベンチャー育成の中で生まれたさまざまな補完的資源などを組み合わせることで、スピンオフやカーブアウトを強力に後押しできると考えている。東京大学では、先行事例を示すために、カーブアウトファンドの設立の準備を進めており、速やかに実行に移そうとしている。
 2つ目は、大企業との連携を進める中で、企業と大学のジョイントベンチャーの形で、両者の知を事業化する可能性が見えてきた。資料にある技術研究組合の仕組みは、研究開発だけでなく、企業と大学、あるいは企業同士で行う新事業開発に非常に有効で、事業化のめどが立てば、株式会社への転換が可能である。「技組」のイメージ刷新や迅速な設立認可、円滑な株式会社への転換など、この仕組みを効果的に機能させるための運用改善を早急にお願いしたい。
 最後に、3つ目であるが、デジタル分野では、資料にもあるように、半導体が1つの鍵となる。サイバーとフィジカルが高度に融合するSociety5.0では、膨大なデータをAIによって処理し、同時にセキュリティーも確保する必要がある。特にセキュリティーに対する処理は、今後大きな計算負荷がかかり、電力も消費する。これらに備えるために、汎用品が主流であった半導体を用途に応じてカスタマイズし、処理性能の向上と省エネ化を図る動きが急速に進んでいる。システム全体をデザインし、これを先端的な半導体デバイスに落とし込むことが必要。日本の大学や企業には、半導体関連技術で世界と戦える蓄積、優位性がまだあると私は認識している。
 ちょうど一昨日、東京大学内にシステムデザイン研究センター、通称d.labを新設した。国内外の先進的な研究者や企業、海外ファウンドリーとの連携のハブとなって、ソフトからハードまで、一貫したシステムを設計、実装するためのプラットフォーム機能を提供したいと考えている。このように大学も役割を拡大する中で投資の受け皿になれるので、大学を徹底的に活用して、未来への投資を一気に進めるべきと考えている。

   
第30回未来投資会議 (2019年9月19日)
 
 現在、デジタル革命によって駆動される経済・社会の知識集約型へのパラダイムシフトは確実に進行していると実感。生活や産業構造も変貌しつつあると認識。また、国際情勢は分断化の方向がより顕著になって、パラダイムシフト後のむしろ覇権争いといった様相が顕在化する中で、日本としての戦略立案とその実行が急務と感じている。
 こうした中、未来投資会議では、Society5.0というビジョンを掲げ、その実現に向けた道筋を議論してきた。一方で、この間、アベノミクスの成果として、国内企業の現預金は55兆円ほど、家計資産も200兆円近く増加。課題は、その資金が未来のための投資になかなか結びつかないということだと認識。
 以上を踏まえると、今やるべきことは、アベノミクスで生み出した資金を、Society5.0実現のための先行投資に向け、短期間で集中的に動かすムーブメントをつくり出すことだと思う。先ほど事務局から示された検討課題は、まさにこれを共有していると感じている。
 未来投資会議の役割は、人々がはっと目を覚まし、考え方や行動をがらっと変えるぐらいのインパクトのある具体策を打ち出すことだと思う。企業や家計に眠る資金を誰がどう使えばよいのか具体的に示して、動かす仕掛けをつくることだと思う。知識集約型社会における付加価値の源泉は、「データやその解析の技術」、そして、「知識」である。デジタル化によるデータ活用を「てこ」として、社会の課題解決につなげ、投資を呼び込み、新たな価値、経済価値を生み出すということだと思う。
 ここで、いつも大学を代表して申し上げているのであるが、全国各地の大学はそのために使い倒すという考えを持つべきだと思っている。この6月の成長戦略実行計画では、「大学の役割を拡張し、変革の原動力とする」と明記した。中国はまさにこれを先取りし、双一流大学創設を掲げ、国が膨大な先行投資をしている。北京大学や清華のケースでは、基盤的な運営費がそれぞれ年間1000億円単位で追加されていている。我が国では、国の資金は限られているが、民間の資金が大学に流れ込み、未来への先行投資が規模感のある形で実現するようにすることは可能だと思う。国は、長期投資を着実に担いつつ、例えば、量子技術などレバレッジ効果の高い施策に集中して投資すべきだと思う。大学改革の実績も見えてきているので、大学は受け皿となり得ると認識している。
 大学活用による先行投資のポイントは、データ利活用の基盤となる情報流通網の社会インフラ、新しいビジネスを切り開くベンチャー、人材育成、日本の国際求心力につながる基礎科学力。これらについて、民間の資金をうまく流し込む仕掛けを強化し、すぐに進めるべき。

   
第28回未来投資会議 (2019年6月5日)
 
 今年の成長戦略への期待について申し上げたい。
 この1年を見ると、世界の分断とテクノロジーやデータによる覇権争いは一層激化している。G20の大阪会合がこの流れに歯止めをかけ、世界をよい方向に発展させるための場になることを大いに期待している。
 東大にも世界からさまざまな方が来訪されるが、今、この議論をリードできるのは日本だということで大いに期待されているということを実感している。これは日本にとって強烈な追い風だが、その風はいつまでも続くものではない。同時に、我が国はあと数年で団塊世代が後期高齢者になるという、確実で、かつ大きな構造変化を控えている。国際的にリーダーシップを発揮してインクルーシブな社会づくりを先導できるという大きなチャンスを活かすためにも、今、危機感をもって素早く行動をおこすべき。
 では、具体的に何をするかということだが、やはり私の立場としては、各地の大学をとことん活用することが鍵だと言いたい。パラダイムシフト後の社会はデータ駆動型社会であり、それを支えるデータとその高度な利活用を可能とする多様な知と人材やその活用に必要なインフラは、大学及びその周辺に存在している。これらは今後の経済的価値の源泉。
 大学については、旧来の大学の発想を捨てて、その機能を大胆に見直して、拡張し、産官学民全体が同時に知識集約型社会へと大転換するための変革の原動力とするべき。それができれば日本の国土全体を世界で最もイノベーションに適した場へと一気に変えることができると確信している。
 しかし、依然として、旧来の大学の機能、ミッションを前提として、細々とした「改善」のための大学改革論議が目に付く。そのようなことに貴重な時間と労力を使うべきではない。大学ではデータ駆動社会の新しい産業基盤の提供、データ駆動型のスタートアップの育成、あるいはSociety5.0の実現をリードできる博士人材の育成などが着実に進んでいるので、こうした活動に集中すれば、知識集約型社会により貢献できる。今年の成長戦略では、大きな行動をスピーディーに促すための明るいメッセージを是非とも書き込んでいただきたい。

   
第27回未来投資会議 (2019年5月15日)
 
 この1年間、世界の変化は急激になったということを実感している。その中で、最近ものすごくチャンスが来ていると感じることが多い。まだ間に合う、今やると価値があることを具体的に定めて、成長戦略に書き込むべき。その観点で、今日は、2点、急ぐと思うものを述べたい。
 第1は、データの整備である。熾烈なデータ獲得競争は、既に始まっており、例えば日本の強みである材料関係のデータベースは、NIMSが先行的な取組で世界をリードしてきた。しかし、今、米国や欧州が数千人単位の人員を投入して、追い抜きを仕掛けてきている。良質なデータベースを作るには、意味を正しく理解してデータ化する、知的であるけれども、労働集約的な作業が必要である。大学院生は、データの中身を理解する貴重なマンパワーであり、例えばSINETでつないで、全国の修士、博士の院生の力を活用すれば、スピード、規模ともに、まだ十分に対抗できる。これはデータ活用のスキル養成にも役立つし、さらに重要なことは、その作業の対価によって、彼らの生活を安定化させることができる。給付ではなくて、対価とすることが重要。
 第2に、データ時代に一層重要になるのは、半導体である。材料や製造装置、設計技術、センサーなどの半導体関連分野は、今でも日本の強みである。しかし、最先端の最終製品をつくることができるファウンドリーは、ついになくなってしまった。最先端製品とのリンクがないと、半導体関連産業が成長できなくなってしまい、非常に危機的。
 一方で、日本の大学には、研究で世界をリードする、最先端のいろいろな半導体関連研究があり、世界の産学のトップに通じるネットワークもまだある。これを活用して、海外のメガファウンドリーと連携を図り、産業界をつなぐ仕掛けを作り、日本の優位性を維持し、発展させるべき。
 材料データ整備と半導体の出口確保は極めて重要で、今、やらなければ手遅れになる。大学や大学院生を活用すべき。
 なお、前半の議題であった、通年採用について、移行の在り方によっては、修士課程の大半の間を就職活動に追い込み、大学院教育が急速に劣化することにつながりかねない。大学の機能転換には、研究を支えている理系学生の力が鍵となるので、教育の質の維持や大学の機能転換の足かせにならないよう、採用制度改革において修士大学院生に対する周到な戦略が必要。

   
第26回未来投資会議 (2019年4月3日)
 
 乗り合いバスや地銀は地域の生活や産業の必須のインフラであることは間違いないので、これが倒れてしまっては未来へとはつながらない。この面で、きょうの議論の論点は非常に重要だというように認識している。
 それに加えて、この未来投資会議の役割としては、知識集約型産業へのパラダイムシフトを前提とした上で地方のあり方を描き、それを実現する戦略の議論もぜひ必要だというように思う。データが価値を担う社会への移行は、都市と地方の格差を縮小することにつながるはず。そうするには、地方において産学官民の全セクターは同時に社会変革を行う必要がある。各地域において知識、人材、信用を有する大学を活用するべきということをここでいつも述べさせていただいている。
 先日、NHKの『日曜討論』で甘利先生が弘前大学、三重大学の例を挙げてくださったが、国立大学による地域の産業活性化での成果が出始めているところである。現在、国立大学は第3期の中期計画において地域貢献、専門性、卓越性の3分類に分けて改革を進めている。86ある国立大学のうち、55は第1分類の地域貢献に類別されて取り組みを進めているところである。例えば信州大学は日本人材機構と協力して地域企業の中核人材候補を大学の研究員として迎え、必要な教育を提供しながら地域の企業に派遣するという取り組みを進めている。大学の信用力を使うことで、資本そのものではなくて人材や知識を地域に呼び込むというすぐれた取り組みだと私は評価している。
 国立大学法人の3期計画は折り返したところで、今、まさに第4期に向けた議論が本格化している。各地でのすぐれた取り組みを踏まえて大学全体の改革の議論に展開していくタイミングだと思う。
 先週、柴山大臣が新時代の学びを支える最先端技術の活用推進方策において、初等中等教育へ学術ネットワークSINETの開放が盛り込まれた。初中局と高等局という枠組みを超えて地域の教育に最先端の情報基盤と大学の知識を活用するという構想で、こうした柔軟な発想によって、大学が地域活性化に新たな役割を担うようにすべきというように考えている。

   
第25回未来投資会議 (2019年3月20日)
 
 本日の議題は、2025年までという時間軸を考えると非常に重要。高齢者が社会に参加し続ける中で健康を維持できるように支援することが重要。
 特に団塊世代は今、72歳で、間もなく後期高齢者になる。この世代が社会にポジティブにかかわり続けるようにすることが喫緊の課題。知識集約型社会において、団塊世代の方々が蓄積してきた経験や知恵は極めて有用である。
 東大のジェロントロジー研究機構の社会実験では、シニアの方による保育園での絵本の読み聞かせや、国際経験豊富な元商社マンが英対話、英語で対話をする講座であるが、その講師を務めるといった活動が大変好評である。
 また、団塊世代は、インターネットや携帯電話が現役中に普及したために、ICTのリテラシーが極めて高く、高度なプログラマー経験者も多数いる。デジタル化への対応は問題なく、これまでのシニアのイメージとは違う。
 このように新しいシニア層、「シン・シニア」と呼んでもいいかもしれないが、そのスキルを前提に2025年の社会を設計し備えるべきである。
 介護でも団塊の世代の方々が一方的に支えられるのではなく、自身の健康管理の経験をもとに、支える側で活躍するというイメージである。これをデータやデジタル技術で後押しできれば、デジタル革命をよいシナリオへと向けることができる。
 ヘルスケアデータを扱うには、セキュアで信頼感のあるデジタル情報利用の環境が不可欠である。学術ネットワークSINETについては、この未来投資会議の場では知識産業化時代の産業インフラとして位置づけてきた。億の単位のレセプトデータの高速解析や高精細の医療画像診断など、既に社会の信頼を得た上での実証実験が行われている。各地の大学をハブとし、地域の学校なども活用して、ネットワークをきめ細かく広げ、健康長寿社会を支える基盤インフラとして活用すべき。
 
  第24回未来投資会議 (2019年3月7日)
 
 昨年の未来投資戦略で2025というタイミングを設定したが、それに向けて時間がどんどん無くなる中で、未来社会像からバックキャストして、今やるべきこと、できることを明確化して、このプランがぼけないようにしなければいけないと思う。
 その未来社会像は、インクルーシブな社会としてのSociety 5.0ということで、これはダボスでシュワブ会長が今回主張されたグローバリゼーション4.0と全く同じ方向であり、それを日本が先取りした形で議論してきたと言えるというわけである。
 その中で、高齢化対応と地域格差縮小は日本が率先して取り組むべき最優先課題であると認識している。モビリティは、その中でも具体的に手を打てる、打つべき最重要課題であると思う。
 2025年には、団塊の世代が後期高齢者に入るので、高齢者が健康で社会に参加し続けるために移動手段を確保し、孤立化を防ぐことが極めて重要であると。このままだと、運転手不足は今よりも先鋭化するし、地域間格差はより深刻化すると思う。
 例えば、地方の団塊の世代がどのようになるべきかという形で、具体的にニーズを絞って、プラスになることを着実に進めることが重要であると思う。東京大学では、超高齢化社会の課題解決策として、オンデマンドバスの開発実証を2005年から進めてた。利用者が希望する区間で、好きな時間にバスを利用するという非常に便利な仕組みであった。これは地元の負担が小さいということもメリットになっている。既に全国40以上の地域に広がっている。
 我々は三重県の玉城町で、医療費との関係についての実証的な検証もして、これはレセプトを使ったわけであるが、明らかに効果があったということを検証している。
 オンデマンドバスが対象とする中小の都市よりもさらに人口密度の低い地域のニーズに対応できるようにするには、本日議論があったようなライドシェアも重要であると考える。
 
 
第23回未来投資会議 (2019年2月13日)
 
 先月のダボス会議では、今後の物質的な物が飽和する中での経済成長において、インクルーシブネスの追求が非常に重要で、その鍵はデータ活用となるとの認識が広がっていた。その際のデータ活用のルールについて多くの議論があった。
 典型的なものとして、マイクロソフトのナデラCEOは、データ保護は人権であって、適切な規制が大前提との立場を示された。一方、Alibabaのジャック・マー会長は、デジタル技術はまだ発展途上であり、規制先行は望ましくないという立場を鮮明にされていた。
 規制が先か、普及が先か、大きく議論が2つに分かれる中で、安倍総理がData Free Flow with Trustの原則で世界をリードすると宣言され、私も現地にいたが、世界から大変歓迎されていた。今年、大阪で開かれるG20で日本がルールづくりを先導することは、日本にとって大きなチャンスであることは間違いないと思う。
 Society5.0では知識集約型になって、価値の源泉はデータとなるが、そのデータ流通におけるトラスト、信頼とは、まさにSociety5.0におけるガバナンスの議論そのものだと理解している。知識集約型産業におけるバリューチェーンと日本が持つ産業リソースを見定めて、ルール面で日本が世界に貢献するとともに、日本の国土や日本の企業にお金が落ち、稼げるような戦略を早急に具体化すべきと感じる。本日、御提案のあった新組織、専門組織については、準備委員会でも準備室でも構わないので早急に立ち上げてルールと戦略の策定を急ぐべきだと思っている。
 大学もこの戦略に貢献できる。全国の大学はクローズな大容量情報ネットワーク、SINETでつながっている。これはバーチャルプライベートネットワークを高度化したようなもので、信頼に基づくデータ流通を実装できる産業インフラとなる。大学には知の蓄積と人材もあるので、知識集約型産業を支えるインフラが既にそろっていると言える。
 今、大学が集中すべきミッションは、このパラダイムシフトを先導することである。大学も存分に活用して、若者を刺激しながら未来社会のビジネスを開発する場とすることで、日本列島をイノベーションを生む最適地にできる大きなチャンスが来ていると、私はポジティブに捉えている。ただし、このチャンスを活かすためにもスピードアップが重要だ。
 
 
第21回未来投資会議 (2018年11月6日)
 
 Society5.0への転換により、遠隔・分散・結合をキーワードとして、都市と地方の格差は解消させることができるはずだと考えられる。全国各地でその地域の特徴を生かしたビジネスを生み出すチャンスがあると言える。その種としては、例えば昨年、世耕大臣が「地域未来牽引企業」2100社をピックアップして可視化されている。ここで、データ活用によるスマート化がポイントだが、各地の大学にはそれを先導するための知と人材とインフラがある。大学を活用しながら地域の資源を見出して、知恵を絞ってこれを価値化し、そこに資金が回るような仕掛けを作っていくことが必要。
 その方策として私たちが今、考えているのは、高校野球の甲子園のような勝ち抜きコンテスト方式でビジネスのアイデアを集める仕組みで、全国の大学と連携してそういったイベントを計画している。切磋琢磨を通してビジネス化の可能性の高いすぐれた提案を見出して、地方の資源と都市の知恵や人材、資金を結びつけるというきっかけにもなる。
 また、昨年度から東京大学で学部学生向けの「フィールドスタディー型政策協働プログラム」というものも進めている。学生たちが実際に地方自治体などに滞在し、そこで地域の課題に触れて、その解決策を提案するというプログラムで、早いうちから意識を変えることで地域に貢献できる人材を育てたいと考えている。
 今月には三重県の鈴木知事と連携協定を締結する予定にもなっている。サミットで世界に発信をされた伊勢志摩が持つさまざまな資源・サステイナビリティへの意識や課題を東大の知と結びつけて、Society5.0を先取りするモデルを示したいと思っている。再三、ここでも主張しているが、学術情報ネットワークの活用や5Gの整備など、必要なデジタルインフラを整えて、国土を広く使って新たな価値を生み出すような戦略を打ち出すべきだと思っている。
 
 
第20回未来投資会議 (2018年10月22日)
 
 Society5.0へのパラダイムシフトは、当然雇用にも非連続な変化を求める。これまでのメンバーシップ型の雇用から、ジョブ型雇用へと重心は必ず移ると思う。その結果、新卒あるいは中途採用といった区別、あるいは若者と高齢者を区別すること自体、意味が薄れるだろう。既にベンチャーなどを見ると、この兆候は着実にあらわれているので、この流れをうまく後押しすることが重要だ。とはいっても、現在の人材配置は、メンバーシップ型雇用に立脚しているものなので、それをどう変えていくのかということには、作戦が必要だ。
 その1つの方策として、今、東京大学で進めているものは、企業からのカーブアウトのためのファンドの準備である。すぐれた技術でも、経営方針と合わなければ、事業化できないので、そのような大企業にストックされた優秀な研究者とその技術を切り出して、ベンチャー化し、タイムリーに事業化する。そのための場を大学に設けて、人材と技術を生かす道を押し開きたいという計画である。
 ジョブ型雇用への転換を進めるには、まずパラダイムシフト後の姿からバックキャストとして、ジョブ・ディスクリプションと必要なスキルを明確化する必要がある。大学は既存の教育資源を最大活用しつつも、旧来の形にとらわれることなく、修正し、補完していくべきだと思っている。また、教室での座学だけではなくて、産学協創など、課題解決の実践の場で学ぶことも大いに成果が上がっているので、それを活用すべきだ。
 先ほど中西会長のお話にもあったが、新卒採用のあり方については、まさに大学の教育改革と大きく関係しているということは、私自身も強く認識している。大学で身につけた能力を企業が評価できるようにするための議論の場を立ち上げる必要があると思う。
 最後にジョブ型の勤務では、働きながら学ぶ、複数の場所で働く、あるいは自分のペースで働くことができるようになる。特に高齢者の雇用は、社会とのつながりを提供し続けることで、疾病や介護の予防にもなる効果が期待でき、非常に重要だと認識している。
 
 
第19回未来投資会議 (2018年10月5日)
 
 第4次産業革命の観点を中心に、他の2つのテーマともつながる話をさせていただきたいと思う。
 Society5.0では価値の源泉が物から知識・情報にシフトするので、産業・社会・経済全ての仕組みが転換する、パラダイムシフトするという意識が大切。その仕組みをどうやって動かし始めるかについては、明らかにデータ活用が鍵である。
 既にあるものも含めて、データを柔軟に活用して、それを事業化するベンチャーの役割はますます重要になる。そこでは、データを集め、活用できる人材と高度な情報インフラが不可欠。サイバーとフィジカルの連結、文理を行き来する知と人材、それらを生み出す場が必要。その意味で、まさに大学にはこれらの要素がそろっているので、最大活用すべきである。
 私は総長に就任して3年半になるが、この間、大学の景色は随分変わった。本郷キャンパスの周りには東大発ベンチャーの集積が進んでいる。AI関係の講座も大きく拡大している。平成26年のスタート時は講座の受講生は100名ほどだったが、現在は社会人も含め1,000名を超えている。
 その中で、例えば理論物理や文系の人などもそれを積極的に受講するということで、新しい人の流れができていて、AIやデータを活用する分野が急速に広がっている。こうした活動に対する支援も文部科学省だけでなく、経済産業省や産業界にも拡がっている。
 この夏、アメリカ西海岸のIT企業本社を訪問したが、現代の価値創造の現場の勢いには圧倒されたというのが実感である。産と学を分けて考えること自体がもう古いかもしれないと感じた。頭を切り替えて、未来像をしっかりと捉え直し、そこから逆算して、やるべき改革を加速するべきだと痛感した。
 大学については、ここでも何度か申し上げているように、ミッションの再定義を急ぎ、Society5.0の社会実装をするための機能を実装するべき。全国各地にある大学も非常に重要なインフラなので、地域産業のスマート化を全国一斉に進めるツールとして活用すべき。
 その背骨とも言える高度なデータを利用するための学術情報インフラは、未来投資会議での議論の後押しもあって、SINETの機能強化が着実に動き始めている。地域のデジタル革命、スマート化に必要な人材としては、理工系の研究室、特にその活動を実際に支えている、全国で数万人いる修士課程大学院生の戦力化が急務であるということで、就職問題などにおいてそこをフォーカスすると、スピード感のある改革が進むと私は見ている。
 
 
第17回未来投資会議 (2018年6月4日)
 
 デジタル革命が人類社会をデータ覇権主義のような悪いシナリオへ導くのか、日本がリードしてきたSociety 5.0のよい社会へ導くのか、まさに分水嶺に立っている中で、国際競争はますます激化していると感じる。
 未来投資戦略2018素案の中で、2020年あるいは2025年という具体的なターゲットが示され、産学官が協調して素早く行動しようという明るい明確なメッセージが出されたことは大変重要だと思っている。東大でも最近、データ利活用によってSociety 5.0での社会課題解決の先例となる取り組みを抽出する作業に着手した。1カ月足らずでSDGsの17のゴールすべてをカバーする100近くの活動がすぐに登録されて熱気を感じている。
 先ほど御紹介があったエネルギーの将来ビジョンについては、日立東大ラボで中西会長とも一緒に議論してきた。Society 5.0にふさわしいエネルギーシステムを作るという視点で中長期のビジョンを共有するべきだと考える。ここは絞り込みをするのではなく、複線的なシナリオを選択肢として持つこと。そして、科学技術的視点に加えて多様な社会的な価値も考慮した上で、それらを客観的に評価する仕組みを持つことが重要だと考える。
 これまでの産業は高品質で規格化されたモノを提供することが中心だったが、Society 5.0では個別に最適化されたサービス、価値の提供にシフトしていく。エネルギーも電気そのものではなく、電気を使って提供されるサービスや付加価値を提供する方向にシフトする。デジタル化、分散化の中でデータ取得と活用を加速するためのインフラと人材への投資は急務である。
 先ほど水野さんのお話にもあったように、SDGsやESG投資は共感を広げ、経済を動かすためのツールとして戦略的に活用すべきだと考える。多様な価値を評価できる形で見える化し、金融部門を動かして大きな資金の流れを生み出すべきだと思う。そして、民間活力を引き出して、脱炭素化、インクルーシブで持続可能な社会の実現を目指すべきだと考える。
 
 
第16回未来投資会議 (2018年5月17日)
 
 連休中に、北京大学で世界の研究大学学長の会合があって、参加してきた。そこで、中国経済の成長のメカニズムについて、北京大学の経済学者の解説を聞いた。後発者という利点を生かして、タイムリーに、資本集約ではなくて、知識集約への投資を効率的に行えたこと、経済成長を最優先する「プラグマティック・ソーシャリズム」が有効に作用しているという話で、中国優位の状態は止まらないということを実感して帰ってきた。
 しかし、経済優先政策は、データの独占、格差拡大など、社会課題を深刻化させるリスクがある。
 また、私の専門に近いハードについても、デジタル革命の鍵を握る重要なパートでの独占化が進んでいると感じている。
 これまで、ここでは、世界に先行して、よいシナリオとして、Society 5.0を議論してきた。また、3.11を機に、若者を中心に、社会課題解決への関心が非常に高まっていることを実感している。これらの日本の優位性を生かして、今、動くべきだ。世界も既に動き始めているので、時間はないと感じている。
 医療・介護の分野を始め、公的な領域で、多くの有用なビッグデータが、我が国には蓄積している。このデータを共同で活用して、Society 5.0の具体例がビジネスとして次々に立ち上がるような環境作りを急ぐべきだと思う。そのためには、誰もがストレスなくデータを集め、つなげ、解析し、活用できるサイバー空間のインフラ整備が不可欠である。
 データドリブンのイノベーションは、2020年代の半ばで勝負がついてしまうということで、これをゼロから立ち上げる時間はないと認識している。
 何度か言っているように、世界的に見て非常に優れたサイバーキャパシティーを学術情報ネットワークは持っている。それを戦略的に活用すれば、すぐに立ち上げることができる。そのためには、このネットワークにつながっている大学を改革し、データ活用等の支援機能を担う組織として転換するべきだと思っている。同時に、先ほどの辻井先生の話とも関連するが、研究組織の体制も見直すべきだ。例えばこの学術情報ネットワークを管理している国立情報学研究所は、情報・システム研究機構の傘下の一研究所でしかなくて、知識集約型の社会全体を支える、基幹的な研究機関としての位置づけを急ぐ必要がある。
 最後に、本日議論のあったAI人材育成については、本学は遅いと御指摘をいただいているが、文系も含めた基礎統計教育、データ解析の実データを使った演習、最先端のAIについての教育などをかなり進めており、成果が出始めているところである。ただし、不足する人材の規模を考えると、現役の学生教育だけでは不十分で、先ほどの林大臣の話にもあったように、社会人のリカレント教育は、急務だと認識している。
 
 
第15回未来投資会議 (2018年4月12日)
 
 
第14回未来投資会議 (2018年3月30日)
 
 前回、金丸議員から「チャンスor危機」という話があった。今、まさにこのデジタル革命あるいは第4次産業革命が人類をよい方向に導くのか、悪い方向に導くのか。その分水嶺に立っていると感じている。
 日本のSociety 5.0の議論は、スマート化を通じて都市と地方、男女などのあらゆる格差を乗り越えて、インクルーシブな社会を目指すというよいシナリオを示したものであると言える。
 一方、先日私も参加したダボス会議では、デジタル専制主義への懸念が重要な話題となった。一部のプラットフォーマーがデータを独占し、データを持つ者と持たざる者に断絶や格差を生むという悪いシナリオだ。この未来投資会議で議論してきた「よいシナリオ」は、自然に実現するわけではない。よりよい社会に向けたビジョンを共有して、課題解決を意識したアイデアを産業化することを強い意志を持って進める仕掛けが必要である。
 そこでは、科学技術イノベーションと社会システムと経済メカニズムの変革を三位一体で駆動する必要がある。本日の2つのテーマ、自動走行と行政の手続は、まさにその先行事例となるべきものと感じている。
 大学はこれを支えるプラットフォームとなるべきで、大学改革のポイントはそこにあると思っている。社会課題の解決を掲げる、ベンチャー等のプレーヤーを呼び込んで、大学の知的基盤やインフラを活用して彼らをサポートする環境を提供すべきである。
 一方、ベンチャーや大学はビジョンを掲げて投資を呼び込むことが必要となっているが、そのためには資金循環の仕組みの変革も急務であると痛感している。先ほども中西議員から中国のIT企業の話があったが、アメリカや中国と比べると日本の投資行動はまだまだ保守的だ。中国や米国で急成長するデジタル産業を牽引する企業は売上高に対して株価の時価総額が非常に高いという特徴がある。これは期待に対して資金が集まる、いわば期待値ビジネスが回っているということだ。資本に国境はないので、海外の資金を活用してでも我が国の知識やアイデアに資金が集まる環境を作って、その多数のトライ・アンド・エラーを支えることが急務である。
 Society 5.0の「よいシナリオ」のビジョンを世界に先行して検討してきたという優位性を活用したいと思っている。総理には是非、日本がよいシナリオの実現を先導することを明確に宣言していただけると大変心強い。
 
 
第13回未来投資会議 (2018年2月1日)
 
 先週、私もダボス会議に参加した。シュワブ会長が大学学長との懇談の場で、第4次産業革命は間違いなくやってくる、それが人類社会に与えるバリュー、つまり価値についてこれから議論を深めたいとおっしゃっていた。
 この問題意識は私たちがこの会議で共有しているものだが、この未来投資会議の場では、まさにその価値を、インクルーシブな社会としてのSociety 5.0、という形で既に具体的に示している。すなわち、我々は少なくとも1年先行しているということを感じた。
 そこで大事なことは、この1年の優位性を失わないうちに、未来像を他国に先駆けて具体化し、スピード感を持って次のステップを踏み出すことだと感じた。2020のオリパラから逆算すると、今年2018年は極めて重要であると考えている。この日本の優位性を的確に捉えて、すぐにできるものから集中的に取り組む必要がある。
 例えば、先ほどの林大臣の資料の中にもあったように、学術情報網のSINETは全都道府県を100ギガの回線でつなぐというもの。データ活用型社会のインフラとしては、「サイバーキャパシティー」、つまりサイバー容量が最も重要。そこで、私も調べてみたが 、中国や韓国を見ると中央と地方とをつなぐ回線が細く、日本は圧倒的な優位性があるということがわかった。この優位なインフラを活用して地方の産業のスマート化を加速させるべき。しかし、現在、地方への浸透度はまだ不十分であるため、地方大学もどんどん巻き込んで国として加速したいところ。東大もそういう方針で今、計画をしている。
 ダボス会議のジャパン・ナイトは、シュワブ会長も来られ、大変にぎわっていた。日本の産業経済は、やはりまだ存在感があるのだなということを再認識した。また、日本の大学発のベンチャーについても注目が集まっていた。しかし、それと比べて世界における日本のアカデミアの存在感の急落は深刻で、日本人だけでなく多くの方々から心配された。国立大学としても旧来のモデルから脱却して民間の活力を存分に活用できるように体質改善を本当に急がねばと思って帰ってきた次第。
 一方、産業界もパラダイムシフト後の未来を見据えた先行投資は必ずしも十分とは言えないと感じた。産業界と大学とが、長期のビジョンづくりの段階から手を握り、Society 5.0への貢献を共通目標としてアクションを本格化すべきだと感じた。これが資金の流れを最適化し、日本を長期成長に導くものだと思う。ダボス会議では、まさにこの点について、中西会長が日立と東大の取組を紹介してくださった。
 最後になるが、大学の競争力回復にとって、若手研究者の活躍できる環境づくりが最重要。これについては、安倍総理から施政方針演説の中で、若手研究者への政策資源のシフトを宣言していただいた。未来を担う若手にとって明るいメッセージであり、大変感謝している。

   
 
第12回未来投資会議 (2017年11月17日)
 
 スピード感が足りないと言われる大学の観点で、スピードアップについて述べさせていただきたい。
Society 5.0に向かう地域集約型経済のゲームチェンジは、まさに生産性革命そのものだと認識している。まさに今までの委員からの発言にもあるように、大学は主体的に関わるべきで、そのための改革は本当に加速しなければいけないと思っている。
 これまで短期と中期についての戦略を述べてきた。短期は現在、非常に高度な人材と技術を持っている産業界と本気の連携をすることで、それらのストックを成長分野に押し上げるために活用するという狙いである。中長期は起業家マインドを持った人材の育成とベンチャー支援あるいはAIとの融合などの新しい分野の教育を加速。こういう意味では例えば経済産業省と文部科学省の連携による場づくりなども既にスタートしているということで効果が見えている。
 しかし、この1年間で景色が随分変わったというのが実感である。まずこの短期と中期というのがほとんど一緒くたになっている。だから中期と思っていたことを今やらないとだめだということである。1つには、日本発のSociety 5.0のコンセプトが非常に効果的に世界に急速に伝わって、競争がスタートしてしまったということである。例えば今年のG7でSociety 5.0のコンセプトに関する安倍総理の説明は、高い評価を受けたと伺っているが、本学にはドイツの大学からすぐにSociety 5.0をテーマに連携したいというアプローチが来ている。つまりパラダイムシフトに世界が気づいた中で、提案者として生産性革命の加速が急務と実感している。
 大学は知識、情報、人材のハブとならないといけない。そのために一番良いものを備えているはずだということで、ベンチャー支援に加えてリカレント教育、AI、人材  育成などを急ピッチで今、進めているが、何よりも若手の雇用安定化というのは最重要である。東京大学ではようやくV字回復が見えているが、全体としては改革に向けた切迫感は十分には広がっていないというのが実情である。スピードアップにはやはり仕掛けが必要で、私たちはSDGsなどを踏まえて具体的に共感性が高いゴールを設定して、大勢の人を巻き込んで、今やるべきタスクを具体化するという方向で進めているわけである。
 この1年間の議論で今、国が何をやれるのか、やるべきかということはかなり具体的になっている。例えば今日の資料3の金丸議員が説明したものの7ページにある学術情報ネットワークは、実は47都道府県を100Gbitでつないでいるというものすごく高精度なもので、知識集約型のときの道路とか港に相当するようなものが既にあるというわけである。だからこれを産学連携を使って産業のスマート化や地方創生に活用するというのは、非常に即効性と費用対効果の高いものなので、このゲームチェンジのチャンスを逃さないためにも、これは今やらないといけないと働きかけているところである。
 タイミングという意味では、2020年のオリ・パラを使うというのは非常にナチュラル、自然な考え方で、開発加速に使いたいということを思っている。

 
 
第11回未来投資会議 (2017年9月8日)
 
 これまでの議論を通じて、Society 5.0に向けて行うべき先行投資や改革の道筋はかなり具体的にされたと感じている。しかし世界の変化は一層加速しているので、2020年ごろまでに日本がはっきり変わったと実感できるようなスピード感を持った取り組みをしなければならない。
 先ごろ出された各省からの概算要求を見ると、Society 5.0に沿った事業も多く見受けられる。しかし、まだそれらはややばらばらという印象を受ける。府省を超えて俯瞰し、強力なパッケージとして打ち出すことが必要で、そういう意味でこの会議の議論に期待している。
 Society 5.0は、資本集約型の従来の成長から知識集約型の成長へのパラダイムシフトが起こるということ。これは今までも議論してきたことで、そこでの経済の価値の重心もモノあるいはハードから情報や知恵へとシフトして、農業、工業、サービス業の区分けも溶けて、全てが、分散、遠隔と連携が鍵になったスマート化に同時に向かう。そこでの価値となる知恵、情報、人という点で見ると、それらが大学に集積していることは事実なので、大学はこのゲームチェンジの起爆剤となって経済活性化に貢献する必要がある。
 それに加えて国際求心力の維持も重要で、基礎科学力、融合分野、あるいは教育力の強化が必要で、今進めている大学の改革をさらに着実に進めなければいけない。
 ポイントを2つだけ述べるが、1つは土地利用。キャンパスの利用の規制の問題。大学のキャンパスとその周辺はこの新しいゲームチェンジ後の産業集積地として最適地。知識集約型の産業集積拠点の中身はオフィスが中心で、文教地区という環境とも整合するので、そういう意味で地域とWin-Winの共栄関係を作れるはず。その観点で各地方の大学もキャンパス周辺の土地を活用できるはず。しかし、旧来の製造業型産業モデルによる用途規制が、その足かせになっている。そこを変えていく必要がある。
 もう一つ重要なことは、このスマート化において、それを包括的に支える高度な情報ネットワーク基盤の整備が急務であること。迅速で効果的に整備を進めるために、私たちはこれまでの未来投資会議でも、学術用に整備されたSINETの活用が非常に重要だと提案してきた。
 SINETについて、もう一回説明すると、毎秒100ギガビットという超高速の通信速度で全都道府県をつなぐもので、かつセキュアなネットワークとしての高い評価も確立し、それをオペレートする人材も各国立大学に蓄積されている。これはデータ活用型のイノベーションのために必須であるだけではなく、地方創生の有力な手がかりにもなる。
 私自身も、SINETの北限に位置する北見工大をこの夏に訪問してきた。北見工大はスマート化を見据えた大胆な工学の組織改革を実行されたところでもあり、東大のグループも大規模データシステムのノードを設置させていただいている。ポテンシャルは極めて大きいと感じた。
 ただ、このSINETを運営している国立情報学研究所は情報・システム研究機構傘下の一研究所という位置づけで、この大きな、増大する役割を担うには体制が余りにも脆弱。このゲームチェンジを踏まえ、この例に限らず、公的組織の見直しを同時に進めていく議論が必要だということを実感している。
 
   

第9回未来投資会議 (2017年5月30日)
 
 私も9回の会議に参加させていただくなかで、Society 5.0の中身が明確化するとともに、どういう社会に向かうべきなのかということが共有できて、非常によかったと思う。特にこの間、大学を本格的に改革することが私のミッションだったので、タイムリーかつ具体的な構想を創る上で、未来投資会議の議論が大変参考になり、個人的にも収穫が大きかった。何よりも明るいメッセージを届けることができてよかった。
 先ほど金丸議員からもご発言があったように、大学はあらゆる世代の人材の集結点なので、卒業生を送り出すことと、すでに社会で活躍している人をさらに活性化させることについて、スピード感を持ってパラレルで改革を進めることが重要。大学への期待と役割を改めて認識した。
 Society 5.0においては、本格的なデータ活用、デジタル革命によって、産業構造が資本集約型から知識集約型へとパラダイムシフトする。そこでは農業、工業、サービス業といった分野の違いを問わず、全ての産業で、分散と連結、あるいは遠隔といったことがキーワードになり、スマート化へと向かっていく。これは旧来の労働集約から資本集約に向かう成長モデルの延長ではなく、パラダイムシフトであるということをきちんと捉える必要がある。
 このパラダイムシフトは、日本が選択するかどうかという性格のものではなく、世界の中で、先進国を中心にまず必然的に起こってくる現象で、避けることはできない。このゲームチェンジの勝負にどうやって勝つかが重要で、2020年ごろぐらいには、もう勝負がつくのだろうという感覚を持っている。そういう意味で、今、具体的に何をやるべきかが、ここでリストアップされたことは、極めて意義の大きいことだと思う。
 日本は、今までの資本集約化がもたらした成長の一方で、地方と都市、大企業と中小企業の格差の拡大が非常に深刻になっていることが社会的な課題だった。その意味で、一億総活躍ということが、非常に重要なテーマなのだと理解している。既に複数の議員からもご指摘があったように、知識集約型のパラダイムシフトは、これらの課題を、一気に解消するチャンス。だからこそ、これを世界に先駆けて、積極的に進める必要がある。林業や農業のように、資本集約化という成長モデルでは難しかった分野でも、スマート化によって生産性の劇的向上が期待できる。ここに逆転のチャンスがあるのが、非常に大きいと思う。
 ここで、キーになる情報分野の最新技術は、世界中でオープン化、共有化に向かうという流れにあることも、留意すべきだと思う。そうした流れを踏まえると、情報技術に強く依拠する一方で、物理的な足場を持たないビジネスは脆弱である。逆に、独自の物理的な足場を持っていることが優位性につながる。つまり、デジタル化が進む一方で、デジタル化しにくいところとの組み合わせの戦略が極めて重要。そういう意味で、半導体、ロボット、センサーなどのものづくりを軸とした、日本の強みとなるストックと、先端的な情報技術とをうまく組み合わせるという戦略をつくり、より頑丈なモデルをつくっていくことが、今、まさに重要である。
 本日、「未来投資戦略2017」として施策をまとめていただいたが、パラダイムシフトに向けて産学官民を動かすためには、こうした明るい未来へのストーリーと戦略を広く国民に向けて、わかりやすく伝えていくことも重要。
 大学には、データ活用とデジタル革命に必要な知と技と人材が集結している。特にこの会議でも議論させていただいたように、学術情報のネットワークは、日本の中でも極めて先進的で、巨大なデータを安全に信頼性高く扱う技術が既に蓄積されている。これをベースとして、さらに人や車といった移動体の情報も含めて、データを「集めて」、「つないで」、「活用する」という、3つの機能を強化しながら、大学としても、共同研究を通じて、民間にこれらの機能を開放していくべきだと考えている。そういった形で、各地の大学は、自らを起点として、Society 5.0を実現していくような産業集積拠点づくりに先導的に貢献していく役割を担っていると認識している。
 
   

第8回未来投資会議 (2017年5月12日)
 
 先ほど中西会長からいただいた説明で、我々が目指すSociety 5.0の実像が大分鮮明になってきたと思っている。
 ものづくりで蓄積した我が国の強みを活かしつつ、健康・医療、まちづくりなどの重要な社会課題を先取りして、資本集約型から知識集約型へのパラダイムシフトを先導するということ、そして、そのための戦略分野を選ぶという考え方に私も賛成している。これはゲームチェンジが起きることであるので、今までの既得権の延長では実現しないということを我々大学からも強く発信していかねばと思っている。
 未来投資の重要な対象として、「データ利活用基盤」を挙げておられたが、私はそれを迅速かつ効果的に整備する方法として、学術研究用に整備されているSINETの積極活用を提案したいと思う。
 SINETは、毎秒100ギガビットという超高速の通信速度を持っている。これはテレビのデジタル放送1万チャンネル分ぐらいの速度になるが、それが全国都道府県全てを繋ぎ、海外の主要な研究ネットワークとも相互接続している。実は、これは商用回線も含めて、他にはない日本最高の学術情報ネットワークとなっている。
 このようにSINETは全国中で100ギガビットの速度をカバーし、また、非常に廉価に利用できる。また、ユーザー層のスキルが高いということもあり、高度なセキュリティー技術を実装することができる。医療情報など、機微な取り扱いを要する公的なビッグデータも既に扱っている実績があるということで、セキュアなネットワークとして信頼を勝ち得ている。こういったものは、デジタル革命期のイノベーションエコシステムのインフラとして非常にコストパフォーマンスよく魅力的なので、ぜひ活用すべきであると思う。
 実は日本で最大のビッグデータ活用者は天文学や高エネルギー物理学のような基礎学術分野の研究者である。例えばスイスにあるCERNの高エネルギー物理の実験装置で生成するデータの総量は、2013年時点だと、YouTubeでアップロードされたビデオの世界の総量に匹敵する規模である。ビッグデータをこれからどんどん、いろんな場で使わなければならないが、その最高レベルのノウハウが既にそこに蓄積されている。
 これは地方創生という意味でも実は重要である。こうした優位性を持つSINETについて、国際的な通信ネットワークの拡充、データプラットフォームの機能の強化等を行った上で、それを大学キャンパスの周辺に集まり共同研究を行う民間企業に開放すれば、地方の大学キャンパスも含めた魅力ある知識集約拠点をコストパフォーマンス良く創ることができる。
 最後に、この話題で重要な点がもう一つある。現在の国際的な接続状況は極度に米国依存型になっているが、ビッグデータをリアルタイムで活用することを地球規模で行おうと考えたときに、より戦略的な整備が必要であるということも提起しておきたいと思う。
 
 
第7回未来投資会議 (2017年4月14日)
 
 ここ数回の会議において、我々が目指すべき社会、すなわちSociety 5.0、あるいは超スマート社会の姿がかなり具体的に見えてきたと思う。経済、社会の両面で最優先課題である健康長寿とケアの分野においても、本日の議論で、スマート化による遠隔化とその連結をテコとした、経済・社会のゲームチェンジが鍵になると思う。それを見据えて、必要な先行投資と社会制度改革、規制緩和をマッチさせて、ターゲットの絞り込みを行うことが急務。
 第一に、ビッグデータをストレスなく扱えるセキュアで高品質なネットワークと、データプラットフォームの整備が非常に重要。
 第二に、産業界の先進的なユーザーとの共同によるデータの開放と活用についての分かりやすいモデルを示すこと。
 第三に、価値を有するデータに関する知的財産についてのルールの確立を、世界に先行して行うことが必要だと思う。特に健康医療分野の産業集積拠点の整備は重要。各地に存在する大学は、情報インフラという意味でも、その地域の中では高度なものを有しているので、それと人材の強みを活かして、データ活用特区として、病院などで収集する個人データを用いて、開発を加速すること、そして、その成果を国民や現場に還元できる環境を整えることが重要であると思う。
 
 
 
第6回未来投資会議 (2017年3月24日)
 
 今後、本格的なデータ活用、いわゆるスマート化によって世界経済や産業の構造は大きく変化する。産業においていわばゲームチェンジが起こるわけである。そこで我が国がどう勝ち抜くかという観点で、すぐできること、やるべきことについて検討した。これから向かう知識集約型社会においては、人口減少は経済成長にとって、もはや脅威ではなくなる可能性がある。今持っているストックを活かして、下段に書いてあるような人、知識、インフラの3つで強みを持てるかどうかが勝負の鍵となる。
 これまで産業構造は労働集約型から資本集約型へ移行してきたが、今後、知識集約型への移行を加速させるために、先行投資を行うべき領域は3つある。1つ目は潜在能力の高い中堅・シニア人材の活性化。2つ目は、研究投資。国際求心力としての基礎科学研究力の維持、そして、超スマート社会に必須であって、かつ我が国が強みを発揮し得る技術群。現在、世界では本格的IoT化の動きの中で史上最高の半導体投資ブームが到来している。日本にはストックがたくさんあるが、それが活用できるかどうかが今の勝負どころになっていると思う。3つ目として、非常に重要だと思っているのは、セキュアで超高速のネットワークとデータプラットフォーム。これはビッグデータを使うときに必須になる基盤。大学などを活用してインフラを整備し、それを民間開放するべきだと考えている。地方創生との関係でも、各地の大学キャンパス周辺に知識集約型の産業集積拠点を作るという点で、大学の活用の仕方があると思っている。
 3ページは、こうした先行投資が進みつつある、東京大学の「つくば-柏-本郷イノベーションコリドー」の状況を示したもの。経済産業省と文部科学省との連携で進めている。前回この会議で議論になった大学資産の活用についても、先行的な取組を進めているところである。
 知識集約型産業への移行に関しては、知とその活用の主軸となる人材ネットワークを持っている大学を活用すべきと考えている。もちろんそのためには大学改革を一層加速せねばならない。特に大学の投資価値を高めるための「プロデュース機能」の強化がポイントとなる。そして、大学の経営基盤の強化が重要。その点については資料の右下に「大学資産の有効活用」「評価性資産による収入確保」「イノベーションの成果の大学への還流」として整理した。この3点での制度改革を迅速に進めるべきと考えている。
 最後に、未来への投資として私の立場から強調したいのは、やはり若手支援である。特に大学院強化や若手ポストの確保などが大学セクターでは非常に重要な課題。若者が研究する人生に夢を持てるような環境整備が必要。
 
 
第5回未来投資会議 (2017年2月16日)
 
 先ほどの竹中先生のお話は、いずれも迅速に取り組むべき重要なご提案であると私たちも考えています。その上で、大学の立場から2点、簡単に申し上げたいと思います。
 まず、リカレント教育についてです。産業構造の変化が益々スピードアップしている中で、今、急成長している分野で必要なスキルを持つ人材をすばやく育成し、確保するには、従来にない手法が必要だと考えています。前回も発言させていただきましたが、特にAI・ビッグデータ、サイバーセキュリティー、ブロックチェーンの3つのサイバー空間の利用技術と、IoTで必要となるフィジカル領域での人材確保が課題となっています。一方で、半導体あるいは材料など、これまで強みを発揮してきた産業分野あるいは基礎科学の分野には、ポテンシャルの高い人材ストックがあります。そこで大学を産学協創の場として開放し、リトレーニングの環境を整えることで、日本としての戦力増強に迅速に取り組みたいと考えているところであります。
 第2点として、大学の資産活用も加速すべきだと思っています。Society 5.0における価値創造、ビジネスは知識集積型になりますので、高度な人材と知恵が集積している大学キャンパスとその周辺は、新しい産業を興す最適地になるはずだと思っています。その新しい産業構造を支えるキャンパス駆動型の産業集積拠点は、文教地域というイメージとも整合するため、地域ともウィン・ウィンの共栄関係を作れるはずですので、取り組みを進めたいと思っております。
 
 
 
第4回未来投資会議 (2017年1月27日)

  「稼ぐ力」の改革について、大学として2つの面で貢献できると考えています。
 まず1点目です。先ほどの経営者の方々の御説明にありましたように、将来が見えにくくなる中で、企業が中長期的な視点に立って果断な判断をするということがますます難しくなってきている現状があると思います。この意思決定を支えることを大学が一緒になって行いたいと思っています。そのためには、共感力が高く具体性のある未来ビジョンをつくることが必要です。未来の社会とそれを支える新たなビジネスの姿を示し、そこからバックキャストして、今、どのような手を打つべきか、行動指針を明確化することで、判断が行いやすくなると思います。東京大学でも、組織対組織で行う新しい形の「産学協創」を進めていますが、そこでまず取り組んでいるのは、この未来ビジョンを一緒に素早く明確化するという作業です。
 2点目は、人材の問題です。なんといっても日本の最大の強みが高い人材力にあることは論をまたないところであると思います。しかし、我々の卒業生等をずっと見てきていますと、産業構造の大きな変化の中で、潜在力に合った活躍の場が社会の中に用意されていない人材が増えていることが心配です。経営者の方々も、その潜在力はよく理解しておられるのだと思いますが、果断な経営判断と雇用の継続との間で葛藤があるのではないかと感じています。
 現在の産業構造の中で厚みを増しているのは、南場議員、金丸議員からもお話がありましたように、IT関連です。私は、第4次産業革命に向けて、特に、AI・ビッグデータ、サイバーセキュリティー、ブロックチェーンの3つの領域の人材をスピーディに補強する必要があると感じています。
 大学は、これまでは、人材の発射台を用意すればいい、卒業時に高い発射台をつくろうということに注力してきたわけですけれども、スピードが求められる現在においては、それでは間に合いません。大学を卒業し、社会で既に活動している人材に対しても、産学連携の仕組みの中で共同研究の機会を提供するとともに、新たな挑戦に向けたリトレーニングなどの場を用意して、果敢に挑戦する人たちをバックアップしていきます。それを通じて貴重な人材の潜在力を最大限活用し、総合的な「稼ぐ力」改革に貢献したいと考えております。
 
 
 
第3回未来投資会議 (2016年12月19日)
 
 日本の未来を良くするための投資のポイントは、十分に活用されずにいるストックを掘り起こし、民間の力を効果的に活用し、未来に向けた行動、アクションとして動かすことです。ストックの中で最重要なものは人材ですが、これは別の機会に申し上げたいと思います。今回のテーマである、インフラと公共データも、重要な活用すべきストックです。
 両者に共通して大事な視点は、社会と経済の変化のスピードへの対応です。過去に公的投資が行われたものに対し、当時、官が定めた用途や運営方法にこだわって、それらを囲い込むのではなく、柔軟に修正や解放ができるようにすることです。こうして、公的資産を、稼げる資産へと転換することを促すべきです。そうすれば、厳しい財政状況のもとでも、ストックを立ち枯れさせず、新たな資源として活用できるはずです。
 インフラについては、本日の事例にはありませんが、大学法人が保有する資産を、産学のオーバーラップを大きくする形でもっと活用していくべきです。大学のキャンパスやそこにある様々な施設は、ベンチャーや新事業の開拓を目指す企業にとって、教員・学生と一緒に、ものづくり等の実験を行う最適な場です。現在、特に不足しているのは、大学発ベンチャーの支援施設(これをインキュベータと呼んでいます)や共同研究ラボです。経済・社会・技術の変化のスピードが加速する中で、今、迅速な整備が必要ですが、新たに建設するだけでなく、既存の施設の活用も加速すべきです。具体的には、過去に補助金によって整備した施設の転用を効果的行うべきです。そうした施設の目的外使用の制限が強すぎないか、検討しているところです。
 公共データの開放については、データの整備内容や活用方法について、先進的なユーザー、特にビジネスの具体的アイディアを持つ人々と密な議論を行いながら、データ活用と開放のわかりやすいモデルを早期に作る必要があると考えます。
 
 
 
第2回未来投資会議 (2016年11月10日)
 
 「よい未来の社会」を作ることを日本が主導するためには、「よい」とは何かということを正しく捉え、「新たな発展の経路」を描き、スピード感をもって進めることが必要です。これは、本会議のアジェンダの多くの項目に関係します。
 ここで大学の役割は極めて大きいと認識しています。大学は、OBネットワークや共同研究を通じて、国内外の各世代のトップ人材や知のリソースのデータマップを持っているからです。その観点で、3つ述べたいと思います。
 今後10年以内に、世界での勝負はついてしまいそうです。この勝負での活躍が期待される主要な人材は既に社会に出ています。旧来の大学の役割は、教育の最終段階として、人材を社会に送り出す「高い発射台」を用意することでした。しかし、それだけでは間に合いません。資料2の左側にあるように、既に社会に送りだした人材を最大限に活かす仕組み作りを急ぐ必要があります。特に、35~50歳台の中堅世代の再活性化と流動化が鍵です。その為、まず、多くの卒業生を送り込んでいる企業と、組織対組織で連携し、目指す社会のビジョンを共同で考え、成長分野の開拓に一緒に取り組むことに着手しました。
 しかしこれだけでは不十分です。中長期を見据えると、新たな産業創出の仕組み作りは重要です。知識ベースの新産業において先行する企業との連携と、ベンチャーの支援を強化すべきと考えています。現代の学生のマインドは、変わってきていていると感じています。卒業生についても20代、30代前半の感度の高い人材は、こうした新しい方向に転換しつつあります。ベンチャー支援体制整備は10年ほど前から進めていますが、資料の右側にあるように、東大発ベンチャーは、現在、280社、その時価総額は1兆円を超え、その勢いは加速しています。
 最後、第三点として、定年を迎える層やシニア層の重要性です。この世代は高いITリテラシーを持っている点が、過去のシニア層とは異なります。ポイントは、健康寿命の延伸、そして働き方改革をすすめ定年による大きな段差を無くすこと、の二つが鍵です。先に衰えが来る、膝や腰の機能を補完する技術などで、生活の質を向上できれば、シニア層も成長の力となります。AI, IoT, ビッグデータを活用してSociety 5.0に向かうためにまず取り組むべき具体的アクションとして最適です。また、2020東京オリンピック・パラリンピックもスタートダッシュとして良い機会となります。このような観点で、東京大学は、先端スポーツ科学拠点を立ち上げたところです。
 
 
第1回未来投資会議 (2016年9月12日)
 
 成熟後の成長の為には、これからの社会をより良いものにするために、今何に投資をすべきか、ということを日本が先がけて世界に発信しなければならない。その意味で、リオでの成功を踏まえ、2020東京オリンピック・パラリンピックは絶好の機会。東京大学では、この5月に、「スポーツ先端科学研究拠点」を発足させた。
 オリンピック・パラリンピックとそのレガシーを創ることに貢献したいと考え、文系理系を超えてオール東大で取り組んでいる。健康寿命の延伸、高齢者や障害者の方々の生活の質の向上は良い社会の基本であるため。最先端の研究を活かし、新しい技術を生みだすと共に、一億総活躍社会を支える社会システムを提示していくことを目的としている。
 6月に行った、拠点開設記念シンポジウムには井上康生監督にも参加して頂いた。井上監督は、「競技能力向上には、科学的なトレーニングが欠かせない。そのためには、身体科学等の学術的な知見を活用することが重要だ。」と、おっしゃっていた。論理性に裏打ちされた戦略とそれに対する自信を感じた。皆様ご存じの通りすばらしい結果を出された。
 一方、研究者の側から見ると、身体について、研ぎ澄まされた機能と感性を持つトップアスリートと協力することは、最先端研究を加速させる、絶好の機会。
 産業競争力会議でも議論があった大学改革については、現在、東京大学も真剣に取り組んでいる。学術研究成果を社会に広く役立て、価値創造につなげるために能動的に行動する組織へと転換させていくべきと考えている。ここで、日本が今もっている強み、ストックを最大に活かすことと、社会を良くするというビジョンを新たな価値創造につなげ、経済成長の駆動力としたい。スポーツ科学はその第一歩としての具体的な取り組み。30年間、教員として、大学にあるストックを見てきた立場からすると、日本は、AI・IoT時代において、世界の中で独自の強みとなりうるストックを多く持っていることがわかる。
 また、総長就任後、産業界トップとの対話を進める中で、こうしたストックを活かしてアベノミクスを回していく道筋が見えてきたと感じている。
 具体的には、今後の議論の中で、2030年頃の世界の産業構造がどのようになり、日本がそのどこに食い込み、どのように稼ぐのかというビジョンを明確化すべき。人材と知識のストックを正しく捉えそれを活かすということを出発点とすることで、周到な戦略を地に足がついた形で練ることができる。その為に、産官学民が信頼感をもって真剣に重なり合って行動するという体制をとり、スピーディに実行していくべき。
 資料の2枚目をご覧いただきたい。今日は詳しくは申し上げないが、産官学民の同時改革を進める具体的な方向性としては、第一に、産学協創による社会をよい方向へと導く「日本発のビジョン」の創成、第二に、日本の強みを活かすAI・IoT戦略、第三に、知識産業の「芽」を大きく育てる仕掛け、第四に、次世代を育てると共に、社会にいる貴重な人材に力を与えるためのプラットフォーム作りがあると考えている。これらについては、現在、既に、実行の段階に入っている。
 
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