令和元年秋の紫綬褒章受章

令和元年秋の紫綬褒章受章

横山茂之名誉教授、一條秀憲教授、橋本和仁教授、大栗博司機構長が、令和元年秋の紫綬褒章を受章いたしました。

横山茂之 大学院理学系研究科・理学部 名誉教授

横山茂之教授

今回の横山先生の紫綬褒章受章に関し、横山門下の弟子の1人として、心よりお祝い申し上げます。おめでとうございます。

横山茂之先生は、NMRとX線結晶構造解析を用いた日本の構造生物学研究を大きく推進しました。横山先生は、転写・翻訳の原子分解能における分子機構の解明に取り組み、世界に先駆けて多くの重要な発見を行いました。特に、遺伝子の翻訳においては、アミノアシルtRNA合成酵素が20種類のアミノ酸のうち1種類とそれに特異的なトランスファーRNA(tRNA)を厳密に認識し、間違いなく結合させることで、正確なタンパク質合成を達成する機構の解明に大きく貢献しました。また、遺伝子の転写に関しては、原核細胞由来およびT7ファージ由来のRNAポリメラーゼ複合体の結晶構造を、世界に先駆けて様々なステップで解明し、ダイナミックな転写のメカニズム解明に大きく貢献しました。

さらに横山先生は、非天然の人工的なアミノ酸を、独自の無細胞タンパク質合成系あるいは細胞中で、転写・翻訳過程において高い正確性で組み込むという独創的な合成生物学研究を推進し、産業利用にも価値の高い、人工的アミノ酸のタンパク質への部位特異的導入、高難度タンパク質試料の無細胞合成といった独創的な研究分野を開拓しました。さらに、これらの独創的な技術を利用して、医学的に重要な細胞膜受容体(上皮成長因子受容体、アディポネクチン受容体等)の構造生物学研究を展開し、世界の構造生物学研究をリードする大きな成果をあげました。

日本の構造生物学を牽引した横山先生の業績が認められたことに感無量です。

(大学院理学系研究科・理学部 濡木 理)

一條秀憲 大学院薬学系研究科・薬学部 教授

一條秀憲教授

このたび、大学院薬学系研究科・薬学部の一條秀憲教授が本年秋の紫綬褒章を受章されました。

一條教授は、長年にわたり細胞レベルのストレス応答の研究に尽力され、特にASKファミリー分子の解析を手がかりに、生体が様々なストレス(酸化ストレス、浸透圧ストレス、小胞体ストレス、病原体感染など)に対してどのように感知・情報処理・応答を行なっているか分子生物学的スケールで多数の新たな発見をされました。その中でも、がん、神経変性、炎症などの病態に深く関わる酸化ストレス応答について、ASK1を中心的要素として含む分子複合体が、細胞内で活性酸素などによって直接酸化され構造ならびに機能を変えることを示し、「システインの酸化還元によるシグナル伝達の可逆的制御」という、ユニーク且つ普遍的なメカニズムを世界に先駆けて提唱されました。また、遺伝性の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因遺伝子として同定された100種類を超える変異型SOD1が、正常のものとは異なる共通の高次構造をとることで小胞体ストレスが惹起され、運動神経細胞死の原因となるという新たな病態発症メカニズムを発見されました。そして、オリジナリティの高いこれらの知見は、ASK1阻害剤を筆頭に、物理化学的あるいは生物学的ストレスの関与する様々な疾患に対する革新的な創薬の開発へと発展しつつあります。これらの優れた業績に対し、平成20年にJCA-Mauvernay Award、平成25年に持田記念学術賞、平成28年に高峰記念第一三共賞、平成29年に上原賞などを受賞されています。

このたびのご受章を心よりお喜び申し上げますとともに、一條先生のご健勝と益々のご活躍を祈念申し上げます。

(大学院薬学系研究科・薬学部 名黒 功)

橋本和仁 未来ビジョン研究センター 教授

橋本和仁教授

このたび、未来ビジョン研究センターの橋本和仁教授が本年秋の紫綬褒章を受章されました。

橋本先生は、環境およびエネルギー問題の解決に向けて、化学や材料科学が重要な役割を果たす事にいち早く着目し、金属酸化物の光物性を中心とした基礎化学およびその産業応用において世界を先導する実績を築き上げてきました。橋本先生の研究のご業績は、微弱な紫外光が表面物性を変換させるという、今や社会的にも広く知られている酸化チタンの光誘起親水性の発見を契機に、可視光により駆動される光触媒の開発、光磁性を有する新物質の合成、さらに鉄化合物ナノコロイドと微生物の細胞外膜チトクロームC間での電子移動を利用するエネルギー変換というこれまでには知られていなかった学際領域に大きく拡がっています。これらの先端的な研究を通じて、橋本先生は、Society5.0に向けた科学者の果たすべき社会的役割を指し示すなど、斯学の発展に貢献しました。これらの優れた業績に対し、日本IBM科学賞(1997年)、日本光化学協会賞光化学協会賞(1998年)、内閣府内閣総理大臣賞(産学官連携功労者)(2004年)、発明協会全国発明表彰恩賜発明賞(2006年)、山崎貞一賞(2006年)、日本化学会賞(2012年)、電気化学会日本電気化学会賞(2014年)、Electrochemical Society European Section Heinz Gerischer Award(2017年)など、多くの賞をご受賞されています。

橋本先生は、本学大学院工学系研究科・工学部、先端科学技術研究センターにて長年にわたり研究の第一線でご活躍され、現在は国立研究開発法人物質・材料研究機構の理事長としてのお立場でも日本の科学技術分野を牽引されています。

このたびのご受章を心よりお喜び申し上げますとともに、橋本先生のご健勝と益々のご活躍を祈念いたします。

(大学院理学系研究科・理学部 大越慎一)

大栗博司 カブリ数物連携宇宙研究機構 機構長

大栗博司機構長

このたび、カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)の大栗博司機構長が本年秋の紫綬褒章を受章されました。

大栗先生は本学で博士号取得後、カリフォルニア大学バークレイ校教授などを経て、カリフォルニア工科大学のカブリ冠教授として教鞭を執ってこられました。本学では、IPMUの立ち上げやカブリ財団による同機構の基金設立にも尽力され、2018年秋より同機構の機構長を務められています。

大栗先生は素粒子論、特に重力を含む究極の統一理論の候補である超弦理論の世界的権威です。超弦理論から素粒子の理論模型を導くために大栗先生らが開発されたトポロジカルな弦理論は、ブラックホールの量子状態の理解を深め、また高次元の幾何学や組みひもの理論など数学の幅広い分野にも大きな影響を与えています。量子重力のホログラフィー原理の基礎や応用においても様々な貢献をされ、昨年は同原理を使って量子重力の対称性に関する基本定理を証明する大論文を発表されました。さらに、素粒子論の基本言語である場の量子論の強力な計算方法を数多く開発してこられました。こうした独創性に富む幅広い研究成果に対し、アメリカ芸術科学アカデミーの正式会員に選出され(2016年)、アメリカ数学会よりアイゼンバッド賞(2008年)、ドイツよりフンボルト賞(2008年)とハンブルク賞(2018年)、米国のサイモンズ賞(2012年)、仁科記念賞(2009年)、中日文化賞(2016年)などが授与されています。

大栗先生は管理運営能力も高く、2014年よりカリフォルニア工科大学のウォルター・バーク理論物理学研究所の所長を任され、2016年より3年間はアスペン物理学センターの所長も務められました。また、科学アウトリーチ活動にも積極的に取り組まれ、ブルーバックスから出版された超弦理論の解説書は講談社科学出版賞(2014年)を受賞しました。監修を務められた科学映像作品は国際プラネタリウム協会の最優秀教育作品賞(2016年)に選ばれ、6か国語に翻訳されて世界中で公開されています。

このたびのご受章を心よりお喜び申し上げますとともに、大栗先生のご健勝と益々のご活躍を祈念いたします。

(カブリ数物連携宇宙研究機構 中島 啓)
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