令和元年度文化勲章受章
令和元年度文化勲章受章
佐々木毅名誉教授、甘利俊一名誉教授が、令和元年度文化勲章を受章いたしました。
佐々木毅 大学院法学政治学研究科・法学部 名誉教授
このたび、永年にわたる政治学及び政治思想史の教育・研究をはじめ、多大なる貢献を果たされた佐々木毅名誉教授・第27代総長が文化勲章を受章されました。
佐々木先生は1942年に秋田県に生まれ、1965年に法学部をご卒業、助手・助教授を経て、1978年に教授、2001年に総長に就任されました。ご退職後は学習院大学教授、大学評価・学位授与機構客員教授等をご歴任、この間、英国学士院客員会員、日本学士院会員に選出され、紫綬褒章受章、文化功労者として顕彰され、2018年には瑞宝大綬章を受章されました。
そのご業績は、西洋政治思想史研究、現代欧米のイデオロギー研究、現代日本政治の分析およびそれに基づく政策提言という三分野に及び、いずれにおいても傑出した成果をあげられました。第1の分野では、権力政治観の意味を問う『マキアヴェッリの政治思想』、フランス宗教戦争期の包括的分析『主権・抵抗権・寛容』、古代ギリシアの「政治」概念を再検討した『プラトンと政治』があります。第2の分野では、その独自の政治対立の構造に着目した『現代アメリカの保守主義』、20世紀前半の欧州におけるプラトン解釈の同時代的含意を解明した『プラトンの呪縛』があります。第3の分野では、『いま政治に何が可能か』『政治に何ができるか』『政治家の条件』など、鋭い現状分析に発し、日本政治の構造改革への展望を示す数々のご論考を発表されました。1994年の政治改革関連法に結実する政治改革に大きな役割を果たされたことも特筆に値します。最新作の編著『比較議院内閣制論』に至るまで、日本における政治学の第一人者として、常に学界や社会に多大なる影響を与えておられます。
このたびのご受章を心からお祝い申し上げるとともに、教えを受けた者の一人として、深い感謝の念をこめて今後の益々のご活躍をお祈り申し上げます。
甘利俊一 大学院工学系研究科・工学部 名誉教授
甘利俊一先生が、長年に渡る数理工学分野の研究で、2019年度の文化勲章を受章されました。
甘利先生は、昭和33年3月に工学部応用物理学科を卒業、昭和38年3月に大学院数物系研究科博士課程を修了され、九州大学助教授、東京大学助教授を経て、同56年10月に工学部計数工学科教授に就任されました。また、平成8年に東大定年退官後も、理化学研究所脳科学総合研究センター長などを歴任されました。
甘利先生は、数理工学の観点から世界を先導する研究成果を上げてこられました。数理工学とは、東大で生まれた独自の学問分野で、先端的数学を駆使して現実問題の解決を目指す数学的方法論の体系です。特に、数理脳科学と情報幾何学が、甘利先生の顕著な業績として有名です。数理脳科学に関しては、脳の情報処理の仕組みを数理的に研究され、学習理論、連想記憶理論、統計神経力学理論、神経場理論などを構築されました。他方で、情報を微分幾何学的に解析する情報幾何学を創始され、情報理工学の様々な分野に大きな影響を与えました。どちらの業績も極めて大きいため、海外では数理脳科学のAmariと情報幾何学のAmariが別人だと思っている人も少なくありません。また、甘利先生の研究成果は産業にも活かされ、たとえば現在の人工知能(AI)を支えているディープラーニング技術で用いられている学習則も、甘利先生の1967年の論文が源流となっています。
甘利先生は、83歳の今でも現役の研究者で、精力的に数学的研究を継続されその成果を学術論文として出版されています。もしかすると、甘利先生の代表的成果が生まれるのはまだまだこれからかもしれません。本当に希有で偉大な存在です。
心からの尊敬の念を込めて、甘利先生の文化勲章の受章をお喜び申し上げます。