令和3年春の紫綬褒章受章

令和3年春の紫綬褒章受章

水島 昇教授、加藤 隆史教授、佐藤 薫教授、福田 慎一教授、長木 誠司教授が令和3年春の紫綬褒章を受章いたしました。

水島 昇 大学院医学系研究科・医学部 教授

水島 昇教授

このたび、医学部・大学院医学系研究科の水島昇教授が、2021年4月28日の褒章発令において、学術・芸術・スポーツ分野で業績の著しい方を対象とする紫綬褒章を受章されました。

水島教授は、永年にわたって細胞生物学・生化学の教育と研究に従事され、斯学の発展に多大な貢献をしたことが評価されました。特筆すべきこととして、哺乳類のオートファジー関連遺伝子を多数同定し、哺乳類オートファジー研究の分子生物学的基盤を構築するとともに、オートファジーの誘導機構、オートファゴソーム形成機構、オートファゴソームとリソソームの融合機構の研究で世界を先導してこられました。また、マウスなどを用いたオートファジーの生理機能の解析により、アミノ酸供給システムとして新生児の飢餓適応や初期胚発生に重要であることや、細胞内浄化システムとして神経変性抑制や腫瘍抑制などに重要であることを発見しました。さらに神経変性疾患であるSENDA/BPANの原因としてオートファジー関連遺伝子の変異を同定・解析し、オートファジー機能低下がヒト神経変性疾患の原因となり得ることをはじめて示しました。このように、オートファジーの研究領域を細胞生物学から生理学・病態生理学へと発展させ、細胞が自分自身を大規模に分解するメカニズムとその生体内での役割の理解に大きく貢献しました。クラリベイトアナリティクス社のHighly Cited Researchers に7年連続で選出されるなど、国際的にも高い評価を受けています。現在も、国際学会の基調講演や国際誌のアドバイザーを多数務めるなど、国際的な活躍をされています。

水島教授の今回のご受章は、基礎学術への国際的な貢献と、分野をまたぐ複数の学術界への貢献を高く評価されたものです。このたびのご受章を心よりお慶び申し上げますとともに、水島先生の益々のご健勝とご活躍を祈念いたします。

(大学院医学系研究科・医学部 齊藤 知恵子)

加藤 隆史 大学院工学系研究科・工学部 教授

加藤 隆史教授

このたび、大学院工学系研究科化学生命工学専攻の加藤隆史教授が、学術・芸術・スポーツ分野で著しい業績をあげた功労者に授与される紫綬褒章を受章されました。

加藤教授は、高分子化学、機能分子化学、超分子化学、液晶化学などの分野において、1980年代後半からその独創的な発想により、分子の設計・合成・組織化・機能化までの分子を扱う技術を体系化され、その分野の端緒と新たな潮流を生み出されました。特に、生物が活用する水素結合を高分子や超分子・液晶などの人工系機能素材において活用する新しい手法を見出されました。分子間相互作用を活用する分子設計を提唱して、分子集合体構築に関する化学の基盤となる研究をされました。これらに加えて、分子集合体においてナノメータスケールからの階層的な自己組織化の手法を先駆的に示され、電子・イオン・分子の輸送機能、外部刺激への応答機能、光機能などを示す分子素材に関して精密な動的機能化を実現されました。これらは多大な注目を集め、世界的に多数の研究者により参考とされ、研究の道標とされています。また、関係分野の新素材の開発にもこれらの概念・手法が役立っています。さらに、近年は、水分子と有機分子・無機イオンの相互作用にも注目され、水にかかわる素材に関する新しい分野を創成されてきています。これらの優れた研究業績に対して、1993年度日本化学会進歩賞、2004年度日本学術振興会賞、2008年度日本液晶学会業績賞、2010年度高分子学会賞、2016年度日本化学会賞、2020年度高分子科学功績賞などを受賞されています。また、学会運営、多くの国際的学術誌の編集、科研費新学術領域研究「融合マテリアル」および「水圏機能材料」・領域代表、JSTさきがけ「分子技術」・研究総括などの活動を通じて、学問の発展のみならず人材育成・産学連携にも大きく貢献されてきました。

この度の受章を心よりお喜び申し上げるとともに、今後の益々のご活躍を祈念いたします。

(大学院工学系研究科・工学部 山東 信介)

佐藤 薫 大学院理学系研究科・理学部 教授

佐藤 薫教授

本研究科地球惑星科学専攻の佐藤薫教授が、2021年4月29日の褒章発令において、学術・芸術・スポーツ分野で業績の著しい方を対象とする紫綬褒章を受章されました。

佐藤教授は、永年にわたり大気力学の研究を精力的に進めてこられました。代表的な内容としては、高分解能な観測と数値モデルを併用した全球的な重力波の描像とその大規模現象における役割の解明、対流圏から中間圏までの重力波やロスビー波の発生・伝播機構の解明、南極での観測プロジェクトの推進などが挙げられます。

レーダーやラジオゾンデによる高分解能観測データを用いた研究では、各緯度帯に固有な重力波の発生源や力学特性を解明したほか、中高緯度の気候にも影響する赤道準2年振動の主要な駆動源が重力波であることを突き止めました。また、高解像大循環モデルを初めて重力波研究に導入し、赤道以外の緯度における下部成層圏での近慣性重力波の卓越と、オゾンホールを維持する極夜ジェットの重力波水平伝播による減速強化を指摘しました。さらに、世界初の革新的な南極昭和基地大型大気レーダーPANSY(Program of ANtarctic SYowa MST/IS Radar)の建設を実現させ、従来困難だった中間圏連続観測を極域白夜期に達成することで、気候予測の高精度化に不可欠な中間圏重力波による運動量輸送特性を解明しました。これらの業績には、日本気象学会山本・正野論文賞、日本気象学会賞、文部科学大臣表彰科学技術賞(開発部門)、海洋立国推進功労者表彰(内閣総理大臣賞)、日本気象学会藤原賞が授与されています。

この度のご受章を心よりお祝い申し上げますとともに、今後益々のご活躍を祈念致します。

(大学院理学系研究科・理学部 日比谷 紀之)

福田 慎一 大学院経済学研究科・経済学部 教授

福田 慎一教授

日本経済は、1990年代初頭の資産価格の暴落を契機に、高成長から長期停滞へと転じ、いまだ低成長のわなから抜け出せていません。世界金融危機後は欧米諸国も似たような状況に陥りました。福田慎一教授は、こうした日本経済と世界経済の構造的な問題の解明に向け、マクロ経済学の理論と実証の双方で多大な貢献をされました。

第1に、マクロ経済の不安定性に関する理論的な貢献があります。特に、人々のインフレ期待は、短期的な需要増加を促す一方、貨幣の資産価値を下落させ予算制約を厳しくさせる、というトレードオフがあり、それがマクロ経済の動きを不安定にさせることを解明されました。第2は、日本経済で金融や景気変動が果たす役割に注目し、構造問題を実証的に明らかにした貢献です。特に、低成長の原因として、非効率な(ゾンビ)企業が回復を急ぐことで、人件費削減を進めながらも生産性上昇が伴わなかったことを示されました。第3は、国際金融市場が不安定化するメカニズムを理論的・実証的に明らかにされた貢献です。特に、リスクヘッジをした上で内外金利差を同一にするように為替水準が(通常の理論通り)平時には決まっているものの、金融危機時にはそうならないこととその背景を示されました。

これらの優れた業績は、内外の研究者により高く評価されただけでなく、政策担当者や実務家からも大きな注目を浴びました。1995年日経・経済図書文化賞、2009年日本経済学会・石川賞、2013年全国銀行学術研究振興財団賞など数々の受賞をされています。

福田教授は、30年にわたり経済学の教育に邁進されてきました。また、日本経済に関する主要な国際学術雑誌であるJournal of the Japanese and International EconomiesとJapan and the World Economyのチーフエディターを務められているほか、東京経済研究センター代表理事、内閣府景気動向指数研究会委員、金融審議会委員などの要職を歴任されるなど、我が国の経済学界の興隆、そして経済学の成果の社会への還元にご尽力されてきました。

この度の福田教授の受章を心よりお祝い申し上げますとともに、福田教授の今後益々のご活躍を祈念いたします。

(大学院経済学研究科・経済学部 植田 健一)

長木 誠司 大学院総合文化研究科・教養学部 教授

長木 誠司教授

このたび、超域文化科学専攻の長木誠司教授が、本年春の紫綬褒章を受章されました。

長木先生は、東京大学文学部美学藝術学科を卒業した後、東京藝術大学で修士号と博士号を取得されました。音楽学という学術領域の中では特に20世紀ドイツの現代音楽と近現代日本の洋楽文化を専門とし、またその中でもオペラに関する業績を数多くお持ちです。卒論で取り上げたアルバン・ベルクから修論で主題としたディーター・シュネーベルの「音楽的身振り」、博論のテーマであるブゾーニのオペラ論、さらにその後は、個別の作曲家や作品に関わる多種多様な単著に加えて、『前衛音楽の漂流者たち もう一つの音楽的近代』(1993年)、『第三帝国の音楽家たち』(1998年)、『戦後の音楽 芸術音楽のポリティクスとポエティクス』(2010年)、『オペラの20世紀 夢のまた夢へ』(2015年)といった、日本の音楽学の基礎をなすご著書があります。

しかしなによりも長木先生は、音楽学の学会活動(現在は日本音楽学会の会長を務めていらっしゃいます)や学界を越えた音楽界の動向に深く関わり、さらに一般の読者や聴衆に向けた幅広い活動を通して、日本社会における音楽学の存在感向上に大きく貢献してきた人物です。それは、専門領域に関する膨大な知識と経験に加えて、長木先生の文筆家としての才能と親しみやすいお人柄にも因るでしょう。専門性の高い著作であってもその文章の魅力は際立っています。音楽作品について分析的かつ実証的で、専門性の高い議論を展開していても、長木先生の文章は読みやすく親しみやすいものです。『音楽芸術』、『レコード芸術』、『読売新聞』、『朝日新聞』等における長年の批評活動のほか、京都賞の専門委員や審査委員をはじめとして、数えきれないほどの評議員、審査委員、専門委員や理事を務められたことも、その貢献の広さを物語っています。受賞歴には、音楽執筆者協議会第1回新人賞(1989年)、第4回出光音楽賞(1994年)、第6回吉田秀和賞(1996年)、第66回芸術選奨評論等部門文部科学大臣賞(2016年)があります。

この度のご受章を心よりお祝い申し上げますとともに、先生のご健勝と益々のご活躍を祈念しております。

(大学院総合文化研究科・教養学部 Hermann Gottschewski)
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