令和4年秋の紫綬褒章受章
令和4年秋の紫綬褒章受章
岡部 繁男教授、浦野 泰照教授、小原 一成教授が令和4年秋の紫綬褒章を受章いたしました。
岡部 繁男 大学院医学系研究科・医学部 教授
このたび、医学部・大学院医学系研究科の岡部繁男教授が、2022年11月3日の褒章発令において、学術・芸術・スポーツ分野で業績の著しい方を対象とする紫綬褒章を受章されました。
岡部教授は、永年にわたって解剖学・神経科学・細胞生物学の教育と研究に従事され、斯学の発展に多大な貢献をしたことが評価されました。
特筆すべきこととして、神経細胞の細胞骨格の研究において、細胞骨格蛋白の重合・脱重合の様式と、神経細胞の持つ長い突起である軸索の中を細胞骨格蛋白質がどのように輸送されるのかについて、分子を検出する新しい光学顕微鏡技術を開発することにより明らかにされました。また神経細胞間の情報伝達の場であるシナプスの動態に関する研究では、シナプスが形成・維持され、除去される過程を解析する新しい顕微鏡技術を開発し、従来の定説を覆して新しい動的な神経回路発達のモデルを提唱されました。シナプスの多様性の研究では、異なる脳領域の神経回路に応じたシナプス多様性に必要とされる分子機構を同定し、またグリア細胞がシナプスの形成・除去の際に積極的な役割を果たすことを解明されました。さらに自閉スペクトラム症のモデル動物の脳内におけるシナプスの形成と除去の速度を生体内で測定する方法論を開発し、シナプスの交換速度の亢進が神経発達障害の病態の基盤に存在することを示されました。
これらの優れた研究業績に対して、平成7年に日本解剖学会奨励賞、平成17年に塚原仲晃記念賞、平成22年に日本顕微鏡学会学会賞(瀬藤賞)、令和3年に内藤記念科学振興賞、令和4年に武田医学賞を受賞されています。
現在も様々な研究領域の代表に加えまして、「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト」のプログラムスーパーバイザーなどにもご尽力され、学問の発展のみならず人材育成・産学連携にも大きく貢献されています。
この度の岡部教授のご受章を心よりお祝い申し上げますとともに、先生のご健勝と益々のご活躍を祈念しております。
浦野 泰照 大学院薬学系研究科・薬学部 教授
薬学系研究科、医学系研究科(兼務)の浦野泰照教授が、学術・芸術・スポーツ分野で著しい業績を挙げた方に授与される紫綬褒章を受章されました。心よりお慶び申し上げます。
浦野教授は、長年にわたり、化学を基盤とした新規分子イメージング技術、医療基盤技術開発に関わる教育、研究に努め、これらの融合領域の先駆的な研究成果を挙げ、その発展に大きく貢献してきました。
浦野教授は、化学の知識に基づいて生物の理解を推し進めるケミカルバイオロジー研究を発展させ、これを革新的な分子イメージング技術の開発へと応用することで生物学分野への貢献をおこなうと共に、術中迅速がんイメージングという新たな医療分野の開拓に尽力し、臨床医療分野への貢献を進めてきました。これらの一連の仕事は、生体内の分子のはたらきを高感度に検出する蛍光プローブ分子の開発における論理的な分子設計法の確立にはじまり、これを応用することで、超解像イメージング法を生きた細胞においておこなうことを可能とする革新的なイメージング技術の開発や、生体内における酵素活性やシグナル伝達物質、グルタチオンや硫化水素などのレドックス関連物質のダイナミクスを可視化する蛍光プローブの開発などを達成し、関連する生物学分野の発展に大きなインパクトを与えてきました。また、培われた基盤技術を活かした医療への貢献を目指し、蛍光プローブの精密設計による微小がんの術中迅速がんイメージング技術の開発を進め、これにより、外科手術における大きな問題である微小がんの取り残しが起こる確率を劇的に低減させる革新的な医療技術の社会実装に向けた先鞭をつける研究成果を発表しています。
これら一連の顕著な研究成果は海外一流雑誌に論文発表され、浦野教授は、国際的にも当該分野を牽引する研究者として広く認められており、これらの優れた業績に対して、文部科学大臣・若手科学者賞、日本学術振興会賞、読売テクノ・フォーラム ゴールド・メダル賞、井上学術賞、山崎貞一賞、持田記念学術賞、上原賞、中谷賞(大賞)などの賞が授与されています。
浦野教授の今回のご受章は、薬学および医学分野における基礎学術の発展への貢献を特に高く評価されたものです。御受章を心よりお祝い申し上げますとともに、今後の益々の御活躍を祈念いたします。
小原 一成 地震研究所 教授
小原教授は、「深部低周波微動を端緒とした各種スロー地震の発見・解明に基づくスロー地震学の創成」という業績に基づき、この度、紫綬褒章を受章されました。心よりお慶び申し上げます。
スロー地震とは、通常の地震に比べてゆっくりとプレート境界がずれ動き、揺れをほとんど引き起こさない地震現象のことです。小原教授は、防災科学技術研究所在職中に、阪神淡路大震災を契機として整備された高感度地震観測網Hi-netに関する業務を行う傍ら、全国から収集される連続波形データを詳細に分析し、スロー地震のひとつである深部低周波微動を世界で初めて発見しました。さらに、独特な波形に応じた新たな震源決定法を開発し、微動源が南海トラフ巨大地震想定震源域の下限と一致することを明らかにしました。また、微動に同期して発生する短期的スロースリップイベントや深部超低周波地震、南海トラフ近傍の浅部超低周波地震などの様々な継続時間を有するスロー地震を次々と発見し、これらの活動様式を明らかにするとともに、東北地方太平洋沖地震がその直前に起きたスロー地震に影響を受けた可能性があることなど、巨大地震とスロー地震との関連性を解明するうえで重要な知見を得ました。
小原教授による様々な種類のスロー地震の発見は、世界の地球物理学界から大いに注目されました。小原教授は強いリーダーシップを発揮され、国際的かつ学際的な「スロー地震学」という新たな学術領域の創成において先駆的役割を果たしました。国内外の多くの研究者は、小原教授の研究成果を享受し、飽くなき探求心をもってスロー地震の研究に取り組んでいます。社会的側面としては、これらの研究成果が南海トラフ巨大地震の最大規模の再評価に活用されるなど、国の防災・減災施策にも多大な貢献をしています。
以上の優れた業績に対し、井上学術賞(2008)、米国地球物理学連合(AGU)フェロー(2013)、同グーテンベルグ・レクチャラー(2015)、日本地震学会賞(2018)等が授与されています。
この度のご受章を心よりお祝い申し上げますとともに、今後の益々のご活躍を祈念いたします。