令和5年度文化勲章受章

令和5年度文化勲章受章

谷口 維紹名誉教授、岩井 克人名誉教授が、令和5年度文化勲章を受章いたしました。

谷口維紹 大学院医学系研究科・医学部 名誉教授 / 先端科学技術研究センター フェロー

谷口維紹名誉教授

このたび、本学名誉教授、先端科学技術研究センターフェローの谷口維紹先生が文化勲章を受章されました。谷口維紹先生は日本の組換えDNA研究の先駆者として、分子生物学・遺伝子工学の発展に多大な貢献を果たされました。特にサイトカインと総称される免疫調節分子群の研究分野において、日本が世界をリードする学問的基盤を築かれました。すなわち、遺伝子工学的手法を駆使し、いち早くヒト遺伝子のクローニングを試み、1979年に他に先駆けてウイルスの増殖を抑制するサイトカイン=インターフェロン(IFN-β)の遺伝子の単離に成功し、その分子構造を世界で初めて解き明かしました。さらに時を置かずして、免疫応答の中心を担うリンパ球の増殖を司るサイトカイン=インターロイキン2(IL-2)の遺伝子を単離しその分子構造を解明しました。谷口先生はまた組み換え型のIFN-βとIL-2の生産に世界で初めて成功し、サイトカインを生物学的製剤として実用化する道を切り拓きました。これらのサイトカインは現在、がんの免疫療法や難治性ウイルス感染症など実臨床の場で治療薬として広く使用されています。先生の研究は更にサイトカインの発現を調節する転写因子ファミリーの発見とその転写ネットワークの解明にまで広がり、現在も生命現象の根幹に関わるサイトカインシグナル伝達機構の理解に向けた画期的な成果を挙げておられます。

谷口維紹先生は、東京教育大学理学部をご卒業後、チューリッヒ大学大学院を修了、がん研究会がん研究所生化学部長、大阪大学細胞工学センター教授を経て1995年に本学医学系研究科・医学部免疫学教授に就任されました。2012年からは、本学生産技術研究所特任教授、 2020年から本学先端科学技術研究センターフェローをお務めです。

谷口維紹先生の研究は卓越した国際誌に多数掲載され、国際的に高く評価されてきました。1991年ロベルト・コッホ賞、2000年日本学士院賞など多数の賞を受賞され、2009年には文化功労者として顕彰、 2021年には瑞宝重光章を受章されています。さらに、人材育成や科学政策立案にも貢献されました。医生物学の世界にパラダイムシフトをもたらしただけでなく、科学者の社会貢献を実践し、本学の学生・研究者を鼓舞し夢と希望を与えてきました。

谷口維紹先生のご受章を心からお慶び申し上げますとともに、ますますのご活躍とご健勝をお祈り申し上げます。

(大学院医学系研究科・医学部 高柳広)

岩井克人 大学院経済学研究科・経済学部 名誉教授

岩井克人名誉教授

岩井克人先生の文化勲章受章を心よりお慶び申し上げます。

1972年にマサチューセッツ工科大学Ph.D.を取得された若き日の岩井先生は、経済動学理論において次々と成果を挙げて注目されました。当時のマクロ経済学界ではインフレーションと失業をめぐる激しい論争が起きていました。方法論的な論争の背景には、スタグフレーションへの対処を誤ったケインズ主義の退潮と、市場志向の経済政策思想の復古がありました。そこに投じられた岩井先生の不均衡動学理論(Disequilibrium Dynamics, 1981)は、貨幣経済が不可避的にはらむ物価の不安定性を理論体系に包摂し、市場にとって不純な制度的制約こそが経済に一定の安定性をもたらすと主張するものでした。

1981年に東京大学に着任されてからも、市場経済の本質への岩井先生の追究は止むことがなく、シュンペーター経済動学、貨幣のサーチ理論、法人論について独創的な論考が編み出されました。それら専門論文を核として、『貨幣論』(1993)『資本主義を語る』(1994)『会社はこれからどうなるのか』(2003)などの著作では、哲学的・歴史的視座から資本主義経済の本質が論じられました。その明晰な論理と端正な文章は多くの読者を魅了し、経済社会の思索へと誘いました。

市場経済の不安定性の中心にある貨幣。みなが使うから自分も使うという以外に存在根拠のない「社会的実体」としての貨幣。異なる価格体系を貨幣が媒介して増殖することによる資本への転化。増殖する産業資本を制度的に可能にした有限責任法人にも見出される、法的人格という実体と契約の束という名目の二重性。法人のその両義性が開く、近代資本主義の歴史的形態の複数性。一見多岐にわたる主題群は、岩井先生の思考によって一つの体系として立ち現れました。

近年の岩井先生は、あくまで法的な実体でしかない法人に対する忠実義務を経営者に課す信任義務に焦点を合わせた企業統治論を展開されています。社会科学者として、岩井先生は貨幣や法人という社会的実体を解剖し、その構造の一般性を明らかにすることで実際の形態の多様性を認め、西欧に限定されない市民社会に資する制度の提言に具現化されてきました。これからもますますご活躍されることを期待しております。

(大学院経済学研究科・経済学部 楡井誠)
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