令和6年春の紫綬褒章受章

令和6年春の紫綬褒章受章

石原 一彦 名誉教授、沖 大幹 教授、納富 信留 教授が令和6年春の紫綬褒章を受章いたしました。

石原 一彦 大学院工学系研究科・工学部 名誉教授

石原 一彦 名誉教授

本学工学系研究科の石原一彦名誉教授が紫綬褒章を受章されました。石原名誉教授は本学工学系研究科マテリアル工学専攻で長年教鞭をとられ、退職後に大阪大学に移り、特任教授として活躍されています。

石原名誉教授は、これまで、ポリマー科学を基盤として、医療に応用できるバイオマテリアルの創出と医療機器への実装に関する研究を精力的に推進されてきました。特に細胞膜表面構造を再現できるリン脂質ポリマーの効率的な合成法と精製法の確立は、工業規模での生産に結実しています。その結果として、このリン脂質ポリマーを利用した生体内埋込み型人工心臓、人工股関節、冠動脈ステントなどが臨床応用されています。特に人工股関節は本学医学部整形外科との医工連携の成果であり、従来の人工股関節置換術での課題を克服し、すでに10万件近い症例に使用され、患者の生活の質を向上させています。また、身近なところでもコンタクトレンズの長期装用を可能にし、広く世界で使用されています。このように分子の創製を源として、工学的基礎研究、生物学的特性評価、医療機器の開発、さらには臨床現場での貢献へと、一貫したバイオマテリアル研究と学産官連携を成功させました。現在、リン脂質ポリマーが試薬として入手できることで、世界中で新たな基礎・応用研究が進められるようになり、当該分野の活性化および研究者人口の拡大が進んでいます。

上記業績により、多数の学会賞、学術功績賞を授与されるとともに、井上春成賞(2004)、Frank Stinchfield Award (2006)、Clemson Award(2009)、先端技術大賞最優秀賞経済産業大臣賞(2011)、科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞(開発部門)(2017)、Samuel F. Hulbert Award (2018)、全国発明表彰経済産業大臣賞(2018)、日本医療研究開発大賞厚生労働大臣賞(2018)、NIMS AWARD(2022)などの賞を授与されました。

石原名誉教授のこの度の受章は、バイオマテリアルの創出と医療機器への実装に関する研究、教育、啓発活動の功績が高く評価されたものです。

石原名誉教授の受章を心よりお祝い申し上げますとともに、先生のご健勝と益々のご活躍を祈念しております。

(大学院工学系研究科・工学部 マテリアル工学専攻 吉田 英弘)

沖 大幹 大学院工学系研究科・工学部 教授

沖 大幹 教授

本学大学院工学系研究科の沖 大幹 教授が、2024年春の紫綬褒章受章者に選ばれました。

沖教授のこの度の受章は、地球規模の水循環と人間社会とを包括的に研究する『グローバル水文学』分野の開拓による水文学の発展ならびに気候変動に伴い深刻化する水問題解決に向けた国内外での政策立案への大きな貢献が高く評価されたものです。

まず沖教授は、大気水収支と大陸規模の河川流域水収支とを結び付け、世界の主要大河川の陸水総貯水量を含む水収支の季節変化を世界で初めて推計しました。また、全球1度格子の全球河川モデル(TRIP)を開発し、これを利用して陸域水循環全体を推計するオフライン陸面水循環シミュレーション手法の枠組を確立しました。そうした手法に基づき、灌漑・貯水池操作等の人間活動を組み込んだ世界初のグローバルな水収支・水資源モデルを開発し、気候変動が将来の世界の水資源需給や洪水リスクに及ぼす影響を評価しました。

さらに、ヴァーチャルウォーター(VW)貿易の概念の整理や高度化に取り組み、世界中のVW貿易の可視化に先駆的な研究を行いました。その結果、輸出国と輸入国の水生産性の差により生じる全世界での節水量を世界で初めて定量化することに成功しました。一方で、タイ王国における洪水や土砂災害、農業、海岸災害などへの影響評価と、市町村レベルでの適応オプションの提示をタイの大学、政府機関との協働で行い、タイ王国の国家適応計画にも反映されました。

このような優れた研究業績や社会貢献により、日本学術振興会賞(2008年)、日本学士院学術奨励賞(2008年)、文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)(2008年)、JICA理事長表彰(2014年)、国際水文学賞Doogeメダル(2021年)、ヨーロッパ地球科学連合(EGU)John Dalton Medal(2023年)、ストックホルム水大賞(2024年)など、多数の輝かしい賞を受賞されてきました。

この度の沖教授のご受章を心よりお祝い申し上げますとともに、今後のご健勝と益々のご活躍を祈念致します。

(生産技術研究所 芳村 圭)

納富 信留  大学院人文社会系研究科・文学部 教授

納富 信留 教授

本学人文社会系研究科研究科長の納富信留教授が、学術・芸術・スポーツ分野で著しい業績を挙げた方に授与される紫綬褒章を受章されました。心よりお慶び申し上げます。

納富教授は、哲学の始まりとされる古代ギリシア哲学を、とりわけプラトンを中心に据えて、西洋古典学の手法をも縦横無尽に駆使しながら研究し、哲学の原像を哲学史的な観点から解明するともに、それを通して、現代の「今・ここ」において哲学することの意義を一貫して問い続けてきました。その研究業績は国際的な規模において高く評価され、また、哲学の再生が求められている現代日本においても注目を浴びつつあります。現在のところの主要な業績のみ挙げれば次のようになります。

第一に、プラトン後期の代表的な著作『ソフィスト』に関する統一的な理解を研究史上初めて提示した“The Unity of Plato’s Sophist: Between the Sophist and the Philosopher”(英国ケンブリッジ大学大学院古典学部に提出されたPh.D論文に改訂と拡充とを加えた上で、1999年にケンブリッジ大学出版局より刊行)に始まるプラトン研究は、プラトンや「哲学」の発生を歴史的なコンテクストにおいて解明する研究に展開され、プラトンの哲学的な対話相手であった歴史的なソフィストの哲学的・哲学史的解明をさらに行い、プラトンとソフィストとの相互対立関係を示す『ソフィストとは誰か?』に結実し、2007年にサントリー学芸賞を受賞されます。

第二に、古代ギリシア哲学全般に関しては、「初期ギリシア哲学/古典期ギリシア哲学/ヘレニズム哲学/古代後期哲学」という古代ギリシア哲学に対する新たな歴史区分を提起した上で、その四期分の前半期を、個々の哲学者の思索を丹念に辿る列伝体の形式で描き抜いた700頁にわたる大著『ギリシア哲学史』を刊行し、2022年に和辻哲郎文化賞を受賞されました。

以上の古代ギリシア哲学研究は、プラトンを始めとする古代ギリシア哲学の我が国における受容史研究(『プラトン 理想国の現在』)や古代ギリシアにおいて始まったとされる「哲学」という営みの普遍性と西洋以外の地域のいわゆる「思想」や近代日本哲学と「哲学」との関係という問いをめぐる「世界哲学」構想(『世界哲学のすすめ』)といった広がりを見せています。

この度の納富教授のご受章を心よりお慶び申し上げますとともに、哲学することの美しさと高貴さとを体現するそのお仕事がさらなる展開を示されることを祈念いたします。

(大学院人文社会系研究科・文学部 鈴木 泉)
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