令和7年春の紫綬褒章受章


令和7年春の紫綬褒章受章
阿部 郁朗 教授、 佐竹 健治 名誉教授が令和7年春の紫綬褒章を受章いたしました。
阿部 郁朗 大学院薬学系研究科・薬学部 教授

本学大学院薬学系研究科の阿部郁朗教授が、令和7年春の紫綬褒章を受章されました。
阿部教授は、永年にわたって、天然物化学の教育、研究に努めてきました。その研究は多岐にわたっており、植物や微生物などを対象とした薬用天然物の生合成研究から、酵素工学にまで広がりを見せています。これまで未解明であった数多くの複雑骨格天然物の生合成の詳細を解明し、さらに生合成の改変により、天然物を凌ぐ新規有用物質の創出や希少有用天然物の安定供給を可能にしました。従来非常に困難であるとされた、合理的な酵素触媒機能の改変など、世界を先導する数々の画期的な成果を挙げてきました。
その研究の特徴は、有機化学を基盤としながら、生化学、分子生物学、構造生物学、計算化学に至るまで、多領域の学問分野の方法論を巧みに応用している点にあります。今後の医薬資源の開発について考えた場合、いかに効率的に、かつ、多様性をもった化合物群を生産し、実際に利用できるかといったことが重要になります。それ故、一連の生合成酵素の検討が、分子多様性を生み出すことを予見し、セレンディピティに頼らない合理的な方法論を展開した点は賞賛に値します。生合成研究が天然の秘められた新規化合物の発見を通して創薬研究等へも応用可能なことを示しており、天然物化学の新しい方法論の可能性を実証しつつあります。次のブレークスルーは、この生合成マシナリーを如何に活用するかという点であり、生合成の「設計図を読み解く」から、さらに「新しい設計図を書く」方向に飛躍的な展開を可能にし、学術の進歩に著しく貢献したものと言えます。
このような研究業績により、日本生薬学会学会賞(2017年)、住木・梅澤記念賞(2017年)、日本薬学会学会賞(2019年)、科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)(2019年)、日本放線菌学会大村賞(学会賞)(2023年)など、多数の賞を授与されています。
この度の阿部教授の受章を心よりお祝い申し上げますとともに、先生のご健勝と益々のご活躍を祈念いたします。
(大学院薬学系研究科・薬学部 森 貴裕)
佐竹 健治 地震研究所 名誉教授

佐竹健治名誉教授が令和7年春の紫綬褒章を受章されました。佐竹名誉教授は地震研究所を令和6年に退職され、現在は台湾の國立中央大学の招聘教授(玉山学者)として活躍されています。
佐竹名誉教授は、地球物理学的・歴史地震学的・古地震学的手法を駆使し、世界の巨大地震・巨大津波の発生履歴や発生機構を研究され、世界各地でM9クラスの巨大地震が数百年間隔で発生していることを明らかにされました。
地球物理学的観点から、観測された津波波形と数値シミュレーションによる計算波形とを用いるインバージョン法によって津波波源の空間的分布を推定する手法を開発されました。この手法は現在、世界の津波研究や津波予測手法の基礎となっております。さらに、本手法を用いて20世紀以降に世界中で発生した巨大地震や、地震波に比べて大きな津波を発生させる津波地震について系統的な解析を行い、津波地震は、通常のプレート境界地震に比べて浅い部分が破壊するという特異なメカニズムを解明されました。
歴史地震学の見地からは、日本の歴史文書に記録された津波被害の記録と津波シミュレーションを比較し、北米沖でM9クラスの巨大地震が1700年1月に発生したことを発見されました。そして、津波堆積物などの古地震調査に基づき、千島海溝では17世紀に、日本海溝では西暦869年(貞観11年)に巨大地震が発生していたことを明らかにされました。
これらの業績により、米国地球物理学連合フェロー(2010年)、科学技術分野の文部科学大臣表彰(2012年)、アジア大洋州地球科学会Axford Medal(2020年)、濱口梧陵国際賞(国土交通大臣賞)(2022年)、防災功労者内閣総理大臣表彰(2022年)、日本地震学会賞(2023年)、日本地球惑星科学連合フェロー(2024年)などの賞を授与されました。
佐竹名誉教授の受章を心よりお祝い申し上げますとともに、今後のご健勝と益々のご活躍を祈念いたします。
(地震研究所 古村孝志)