令和7年度文化功労者顕彰
令和7年度文化功労者顕彰
渡辺 浩 名誉教授、山下 晋司 名誉教授が、令和7年度文化功労者として顕彰されました。
渡辺 浩 大学院法学政治学研究科・法学部 名誉教授
このたび、本学名誉教授の渡辺浩先生が、日本政治思想史研究における多大の功績により、2025年度の文化功労者に選出されました。
渡辺先生は、1969年に東京大学法学部を卒業されたのち、本学法学部助手、助教授を経て、1983年に教授に昇任されました。丸山眞男、福田歓一両教授の政治思想史研究を批判的に継承しつつ、江戸から明治にかけての政治思想史の流れを大胆に描き直す、画期的な研究業績を積み重ねてこられたことが、栄典授与の理由となっています。『近世日本社会と宋学』(初版1985年)、『東アジアの王権と思想』(初版1997年)、『明治革命・性・文明ーー政治思想史の冒険』(2021年)などの著書で展開されたそのご研究は、社会全体における意識の広がりの内に諸思想を位置づけながら、江戸時代における思想史の展開と、明治時代の思想への連続・非連続のありさまとを明らかにした業績として、研究動向に大きな影響を与えてきました。東アジア諸地域との比較や、ジェンダー論といった新たな視角も、注目すべき特色です。英語・韓国語・漢語に訳されたご著書・ご論文も多く、日本だけでなく世界中の研究者にとって必読の先行研究となっています。
本学においては、『日本政治思想史[十七~十九世紀]』(2010年)にまとめられた法学部講義を長らく担当し、学生・院生の教育にあたられるとともに、評議員、法学部長、副学長、理事を歴任されました。ご退職後は法政大学法学部教授(2010年~2017年)、日本学士院会員(2018年12月~)も務められています。文化功労者としてのご顕彰を心よりお慶び申し上げますとともに、益々のご健勝とご活躍を祈念いたします。
(大学院法学政治学研究科・法学部 苅部 直)
山下 晋司 大学院総合文化研究科・教養学部 名誉教授

このたび、本学名誉教授の山下晋司先生が、文化人類学分野を中心とする卓抜したご功績により、令和7年度の文化功労者に選出されました。
山下先生は、東京大学教養学部を卒業後、東京都立大学大学院社会科学研究科で修士号と博士号を取得されました。その後、東京都立大学、広島大学を経て、1989年に本学教養学部にご着任、2013年にご退職されるまで24年間にわたり、本学大学院総合文化研究科・教養学部で文化人類学の研究と教育に携わってこられました。
山下先生は、博士課程時の長期フィールドワークを基に執筆された『儀礼の政治学─インドネシア・トラジャの動態的民族誌』(弘文堂、1988年、民族学振興会第20回澁澤賞受賞)において、現代インドネシアの民族文化の動態を厚い記述により明らかにされました。その後、世界的観光地として知られる同国バリ島での調査を踏まえ、『バリ─観光人類学のレッスン』(東京大学出版会、1999年)を著され、当時我が国では未開拓だった観光人類学の視点から文化生成論を展開されました。
山下先生の学問的業績は、上述のように文化人類学を柱に、観光研究、アジア・太平洋地域研究など多方面にわたります。2000年代にはさらに、移民の人権や多文化主義、被災地の復興と地域社会の再生など、社会的諸課題の解決に向けて積極的に応答する公共人類学の研究に着手され、理論的探究と実践面での取り組みを重ねてこられました。その成果のひとつであるご編著『公共人類学』(東京大学出版会、2014年)は、本学総合文化研究科「人間の安全保障」プログラムに携わるなかで培われた問題意識を基盤に、教育・医療・災害・人権など現代的諸問題に対し人類学の知見を公共の場でどのように活かしていくことができるかを包括的に問うた論集として、アカデミズムの枠を超えた多くの読者を獲得なさいました。
以上のように、山下先生は常に先端的な研究領域を開拓し、国内外の学会を牽引し、同時に多くの後進を育ててこられました。この間、日本民族学会会長(1996~97年度、2004年より日本文化人類学会と改称)、総合観光学会会長(2012~19年度)などの要職を歴任する傍ら、2011年にはNPO法人「人間の安全保障」フォーラムを設立し(2012~20年度、理事長)、学問を社会的実践として展開していくことに精力的に取り組んでこられたことも特筆されます。
受賞歴には、上述の澁澤賞のほか、第5回日本文化人類学会賞(2010年)などがあり、2012年秋には紫綬褒章、2022年春には瑞宝中綬章を授与されています。
このたび、山下晋司名誉教授が文化功労者に選出されましたことを、心よりお祝いいたします。
(大学院総合文化研究科・教養学部 津田浩司)


