平成25年度春の紫綬褒章受章

平成25年度春の紫綬褒章受章

渡辺裕教授、大政謙次教授、河口洋一郎教授が、本年春の紫綬褒章を受章いたしました。

渡辺 裕 大学院人文社会系研究科・文学部 教授

渡辺 裕 大学院人文社会系研究科・文学部 教授 画像

 渡辺裕教授が、本年春の紫綬褒章を受章されました。
 音楽学を専門とされる渡辺先生が1989年に『聴衆の誕生―ポスト・モダン時代の音楽文化』によって著作家として鮮烈なデビューを飾られたのは、今でも記憶に新しいところです。従来の音楽学が作品それ自体に内在する特質によって音楽を説明する傾向を有していたことに不満を感じられた先生は、人間の感性や価値基準自体が歴史的に形成され、変容してゆく過程や機構、さらにそれを媒介する文化に照準を合わせることで、音楽学それ自体を根底から刷新されたといっても過言ではありません。神話化したクラシック音楽を極めて巧妙な口調で脱神話化する本書によって、渡辺先生はサントリー学芸賞に輝き、翌年には『文化史のなかのマーラー』によって音楽執筆者協議会クラシック部門新人賞を受賞されました。
 その後先生は、明治以後の日本の音楽文化が近代化によって再編成される過程に関心を寄せられ、国内外の諸力の社会的力関係や様々なメディアの関与によって日本文化(及びそれを支える人々の心性)が形成・変容される過程を解明する作業に従事されてきました。先生の研究対象は、宝塚歌劇、唱歌、校歌、温泉小唄のソノシート、歌声喫茶、あるいはバナナの叩き売り、さらには駅の発車メロディーなどとどまるところを知りませんが、伝統的な音楽学からは外れる関心(それはしばしば好事家的ともみなされるのですが)を学問へと高める手腕は先生ならではのものであり、余人の追従を許しません。先生は2003年には『日本文化モダン・ラプソディ』によって芸術選奨文部科学大臣新人賞を、2011年には『歌う国民』で芸術選奨文部科学大臣賞を授与されました。また、『考える耳』(2007年、2010年)では、現在の音楽現象を機縁として政治、経済、さらにはさまざまな社会現象を論じるスタイルを確立し、音楽評論に新たな可能性を開かれました。
 渡辺先生は現在サントリー学芸賞芸術・文学部門選考委員及び日本音楽学会会長を務められています。この度のご受章を心よりお祝い申し上げますとともに、先生のご健勝と益々のご活躍(と書くのが通例とはいえ、まだまだお若い先生に似つかわしくない表現をお許しください)を祈念しております。

(大学院人文社会系研究科・文学部 小田部胤久)

大政 謙次 大学院農学生命科学研究科・農学部 教授

大政 謙次 大学院農学生命科学研究科・農学部 教授 画像

 このたび、大政謙次教授が農学、特に生物環境情報工学分野の研究における功績により、紫綬褒章を受章されました。
 大政先生は、植物が種によって異なる特徴ある3次元空間構造をもち、また、その機能が、環境との相互作用で、空間的に異なっていることに注目し、蒸散や光合成、成長などの基本的な植物の機能を、2次元さらには3次元で画像計測し、空間情報解析を行うための新しい手法の開発とその応用に関する研究を、世界に先駆けて行ってこられました。その特徴は、細胞や個体レベルの研究とフィールドや航空機、人工衛星からのリモートセンシングの研究を融合させ、それまでは困難であった2次元、3次元の情報を用いた解析を可能にし、植物機能と環境との関係の理解を深化させた点にあります。そして、植物の環境応答や機能解明に関する研究を通して、農学・植物科学や環境学の分野における新しい研究法として発展させ、情報通信技術(ICT)の利用促進と併せて、実利用の面でも多くの貢献をされました。例えば、熱赤外画像による葉温、気孔反応、蒸散速度、大気汚染ガス吸収量分布の推定、クロロフィル蛍光画像による光合成機能解析、核磁気共鳴(NMR)画像による根系や土壌の水分分布の推定などの研究は、先駆的な研究として位置づけられており、遺伝子のスクリーニングや解析を含む農学・植物科学や環境学分野の研究に広く用いられています。また、最近開発された葉緑体レベルでの光合成機能解析のためのクロロフィル蛍光の3次元リアルタイム共焦点レーザ顕微画像計測法も世界で最初の研究成果です。さらに、植物の形状や群落構造、バイオマス、気孔反応、蒸散、光合成などの3次元での計測や複合リモートセンシングに関する研究は、この分野の先導的研究として、日本だけでなく世界の研究者にインパクトを与え、植物環境応答のモニタリングや解析の分野だけでなく、表現型(Phenotype)を遺伝子型と環境の両面から研究しようとする新しい分野である植物フェノミクス研究などに多大な影響を与えています。これらの研究から得られた知見を、農業情報化や植物工場などの最先端農業技術の研究、フィールド調査や航空機、人工衛星などからの広域リモートセンシングの研究、大気汚染や温暖化、砂漠化などを中心とした地球環境・空間情報研究などに適用し、新分野の創成に貢献されてきました。
 大政先生はこれらの業績に関して、科学技術庁長官賞(研究功績者表彰)や日本農学賞・読売農学賞など、数多くの権威ある賞を受賞されており、高い評価を受けておられます。この度のご受章をお喜び申し上げるとともに、今後のご健勝と益々のご活躍をお祈り申し上げます。

(大学院農学生命科学研究科・農学部 細井文樹)

河口 洋一郎 大学院情報学環・学際情報学府 教授

河口洋一郎 大学院情報学環・学際情報学府 教授 画像

 このたび、河口洋一郎教授が本年春の紫綬褒章を受章されました。河口教授はCG国際学会であるACM -SIGGRAPH等を中心に、日本を代表するコンピュータ・グラフィックス・アートの先駆者として長きにわたり活躍してこられました。
 河口教授が生み出された「グロースモデル」は、自然界の動植物の形の成長や進化のアルゴリズムから導き出された新たな造形方法としてSIGGRAPH国際学会で発表され、海外でも高く評価されました。
 プログラミングで自己増殖しながら形が複雑に成長していくグロースモデルの芸術表現は、自己組織化するアートという新たな概念を世界に提起したものであり、アート作品の生成手法のアルゴリズムに螺旋の揺らぎを導入し、再帰的自己相似の原理を応用して、生々しく有機的な極彩色の造形世界を描いて世界を驚かせました。その成果は、ACM-SIGGRAPH 2010 Distinguished Artist Award for Lifetime Achievement in Digital Artを獲得し、 河口教授は、世界で三人目の栄誉ある受賞者となりました。
 「グロースモデル」による数々のCG映像作品は、ユーログラフィックス'84最優秀芸術家賞、フランス・ヌーベルイマージュ展`87グランプリ、パリグラフ'87グランプリ、Image du Futur'87グランプリ、Image du Futur'88グランプリ、モナコ・イマジナ展91グランプリ、ユーログラフィックス1位、他にも国際展で数多くの賞を受賞しました。また河口教授は、その作品によって現代美術のオリンピックともいえるベネチアビエンナーレ'95の日本館代表作家の一人に選ばれました。
 河口教授は、わが国の最先端映像表現の可能性を高めるために、2005年から8K超高精細スーパーハイビジョンの圧倒的に繊細で臨場感豊かな映像作品の制作に着手し、「Icebergy」などのCG作品を公開発表してこられました。8Kスーパーハイビジョン版の映像作品「Growth:Mysterious Galaxy」は、ドーム型の全天周プラネタリウム映像に応用され、迫真の臨場感映像として発表され観客を魅了しました。
 最近では、河口教授は、新たな試みとしてCGの立体化に取り組んでいらっしゃいます。5億年前の太古のカンブリア紀からの原始生物の進化を考えることで、遥か5億年未来の生物をロボティック技術や伝統工芸の匠の技術を導入した大型立体造形でアート化する試みはその代表的なものでしょう。特に宙海月「JECCO」はうごめく触手に触れることができる楽しみで話題を呼び、進化した多眼式宙蝶「BUCCO」やザリガニ型に進化した鋏を持つ鋏宙魚「Scissors Ficco」などの異形の情感的生命機械体作品群「Gemotional Bio-Machine Art」が展覧会で多くの反響を呼んでいます。

(大学院情報学環・学際情報学府 須藤修)

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