平成25年度秋の紫綬褒章受章

平成25年度秋の紫綬褒章受章

難波成任教授、今井浩三特任教授、喜連川優教授が、本年秋の紫綬褒章を受章いたしました。

難波 成任 大学院農学生命科学研究科・農学部 教授

難波 成任 大学院農学生命科学研究科・農学部 教授 画像

 大学院農学生命科学研究科生産・環境生物学専攻の難波成任教授が、植物病理学の分野で長年にわたり教育研究に努め、当分野の発展に貢献された功績により、紫綬褒章を受章されました。難波教授の最大の業績は、ファイトプラズマの統合生物学的研究とその臨床展開にあります。ファイトプラズマはもともと「マイコプラズマ様微生物(MLO)」と称され、植物に「天狗巣・葉化・萎黄叢生・枯死」などの症状を引き起こす「動物・人のマイコプラズマ」に似た昆虫媒介性病原体であり、難波教授の研究室で1967年に発見・命名されました。ファイトプラズマは、温暖化に伴う媒介昆虫の生息域拡大により、世界の農業生産に深刻な打撃を与えており、その実体解明は喫緊の課題でした。
 難波教授は、この微生物に初めて分子のメスを入れ、遺伝子をPCR増幅・配列解析し、系統分類する手法を世界で初めて植物病原体に導入されました。MLOが系統的にマイコプラズマと異なることを発見し、「ファイトプラズマ」と改称されました。さらに、マイコプラズマではトリプトファンに翻訳されるUGAコドンが、ファイトプラズマでは真核生物や一般細菌と同じ終止コドンであることを発見され、その発見により遺伝子発現系が可能となり、ファイトプラズマ研究は飛躍的に発展しました。また、世界に先駆け全ゲノム解読に成功し、多くの必須代謝系やエネルギー合成系をも進化の過程で失った、生命の概念を覆す「究極の怠け者細菌」であることを示されました。さらに、ゲノムのマイクロアレイを世界で初めて作製し、ファイトプラズマと宿主の遺伝子発現応答を解析されました。また、ファイトプラズマ表面のタンパク質と、媒介昆虫腸管壁タンパク質の結合の可否が、特定の昆虫による媒介能を決定していることを、動植物病原体を通じ初めて発見されました。次いで、天狗巣症状の原因遺伝子「TENGU」を発見し、その発病に至るまでの働きを解明されました。臨床現場で役立つ診断キットの開発も世界で初めてのものです。
 さらに、植物医科学講座や植物病院を本学に開設し、植物医師養成に取り組まれているほか、海外からの侵入病害をいち早く病院で発見し、キットを開発して国と根絶対策に取り組まれるなど、社会的貢献の数々は高く評価されています。
 学界においては、日本植物病理学会長、日本マイコプラズマ学会副理事長、国際マイコプラズマ学会常務理事などを歴任され、国際研究チームの代表も長く務められ、この分野における世界のトップリーダーと目されています。また、日本植物病理学会賞、日本マイコプラズマ学会北本賞、国際マイコプラズマ学会エミー・クラインバーガー・ノーベル賞など、数多くの賞を受賞されておられます。この度の受章をお祝い申し上げますと共に、今後のご健勝と益々のご活躍をお祈りいたします。

(大学院農学生命科学研究科・農学部 山次 康幸)

今井 浩三 医科学研究所附属病院長・医科学研究所 特任教授

今井 浩三 医科学研究所附属病院長・医科学研究所 特任教授 画像

 この度、今井浩三特任教授が、消化器内科分野で癌の分子診断・治療の研究を進め、モノクローナル抗体、分子生物学的手法を用い有用な分子、遺伝子を発見すると共に、抗体の作製による新しい腫瘍マーカーなど、臨床につながる優れた業績を上げられた功績により、本年秋の紫綬褒章を受章されました。
 今井教授は、札幌医科大学内科学第一講座教授、同大学長・理事長を歴任後、現在、医科学研究所附属病院長(抗体ワクチンセンター長兼任)を務められ、一貫して医学の研究・教育・臨床に従事されてこられました。特に、新規抗MUC1, ICAM-1モノクローナル抗体作製に代表される抗体研究を発端として、抗ErbB-2マウス・ヒトキメラ モノクローナル抗体によるがん治療、IFNαと抗FGFR1抗体併用による新規肝臓がんの治療、がん幹細胞を標的とした分子標的治療など特筆すべき数々の業績を挙げられました。また、エピジェネティックな異常による消化器癌発生の分子機構を次々と解明され、当該分野の理解を大きく前進させただけではなく、その成果はがんの診断・治療に臨床応用されています。
 今井教授は以上の業績に対し、日本癌学会奨励賞(昭和61年)、高松宮妃癌研究基金研究助成(平成5年)、北海道知事賞(平成6年)、国際癌医学生物学会賞 (平成17年)、日本DDS学会賞(平成21年)、北海道科学技術賞(平成24年)、佐川がん特別賞(平成25年)などを受賞されています。さらには、内閣府、文部科学省、厚生労働省の各種専門委員、研究・領域代表や日本医学会幹事、日本癌学会、日本消化器病学会などの理事を歴任され、日本の生命科学研究・医学研究の将来に向けての方向性決定、トランスレーショナルリサーチの推進、医師教育等、多岐にわたる分野において活躍されています。
 平成22年に医科学研究所附属病院長として着任後は、地域連携や産学連携の積極的展開と並行して、緩和医療科や抗体・ワクチンセンターの創設によりトランスレーショナルリサーチの推進に努められるなど、経験と実績に裏打ちされた手腕を病院運営に遺憾なく発揮されています。
 以上のように、今井教授は医学の発展に尽くされ、その功績はまことに顕著であります。今井教授の今後の益々のご活躍とご健勝を祈念致します。

(医科学研究所 東條 有伸)

喜連川 優 生産技術研究所 教授

喜連川 優 生産技術研究所 教授 画像

 喜連川優教授が本年秋の紫綬褒章を受章されました。
 永年にわたりデータベース工学の研究教育に携わられている喜連川教授は、特に関係データベースシステムの高性能化に関する先駆的な研究を推進し、高速関係データベース処理手法の確立に大きな進展をもたらすともに、全日本ウェブアーカイブ、超巨大地球環境データベースの構築を始め大規模データベースシステム技術の発展に著しく貢献されました。
 喜連川教授は、関係データベースシステムの高性能化を実現する上で根幹となる問合せ処理において、GRACE関係データベースマシンの提案にはじまり、ハッシュ法に基づく関係データベース演算手法を中心に数多くの手法を提案すると共に、「機能ディスクシステム」、大規模PCクラスタ(100ノード分散メモリ計算機)での実装、同じく極めて初期の段階での分散共有メモリ計算機での実装・評価を行いその有効性を明らかにし、国際的に極めて多大な貢献を果たされました。今日、ハッシュ法に基づくデータベース問合せ処理は殆どの商用のデータベース管理システムにおいて実装されるに至り、産業界に対しても多大な貢献を果たしたことは特筆されます。加えて、ハッシュ法に基づくアプローチを並列データマイニングに適用した第一人者として知られておられます。さらに、ソートに関しても、著しく高い記憶効率を達成する高速ハードウェアソータに関する研究を進め、VLSI化、製品化され、広く利用されると共に、同高用化システムは2000年にはデータメーションソートベンチマークにおいて1秒の壁を破り、世界一の性能を実現しました。
 近年では、10年以上の年月をかけ、アジアで最大級の日本語ウェブアーカイブを構築し、多様な社会分析に関する研究を推進されると同時に、恩師である故高木幹雄名誉教授ならびに小池俊雄教授(工学系研究科社会基盤学専攻)と共に水資源、地球温暖化、農業、生物多様性等多くの分野の研究者のプラットフォームとして超巨大地球環境データベースシステムを長年にわたり構築・提供され、情報学におけるデータベースの研究のみならず、多様な応用分野にその技術を適用されています。さらに、内閣府最先端研究開発支援プログラム(FIRST)『超巨大データベース時代に向けた最高速データベースエンジンの開発と当該エンジンを核とする戦略的社会サービスの実証・評価』(平成22.3―26.3)を推進され、「非順序実行原理」なる斬新なデータベース実行処理方式を創案されています。同手法に基づくソフトウエアは昨年製品化され実社会での利用が進みつつあります。
 喜連川教授はこれらの業績に関して、アジアで初めてACM SIGMOD Edgar F. Codd Innovation Awardの受賞をはじめ、日本IBM科学賞、情報化月間情報化促進個人表彰国土交通大臣表彰「情報化促進部門」、電子情報学会業績賞、情報処理学会功績賞など、数多くの権威ある賞を受賞されており、高い評価を受けておられます。この度のご受章をお喜び申し上げるとともに、今後のご健勝と益々のご活躍をお祈り申し上げます。

(生産技術研究所 中野 美由紀)

カテゴリナビ
アクセス・キャンパスマップ
閉じる
柏キャンパス
閉じる
本郷キャンパス
閉じる
駒場キャンパス
閉じる