平成25年度文化功労者顕彰

平成25年度文化功労者顕彰

廣川信隆特任教授、久保田淳名誉教授、山岸俊男特任教授、榊佳之名誉教授が、文化功労者として顕彰されました。

廣川 信隆 大学院医学系研究科・医学部 特任教授

廣川 信隆 大学院医学系研究科・医学部 特任教授 画像

 この度、廣川信隆特任教授が平成25年度の文化功労者として顕彰されました。
 廣川先生は、急速凍結電子顕微顕法の確立による細胞骨格観察から新しい一群の線維状架橋構造を発見し、それを構成する微小管関連蛋白が細胞の形作りに基本的役割をもつことを示し、同時に新しいキネシンスーパーファミリーモーター分子群KIFsの発見に到達しました。先生は、分子細胞生物学および分子遺伝学を駆使して、多彩なKIFsが細胞にとって必須なシナプス小胞前駆体、ミトコンドリア、グルタミン酸受容体、mRNA蛋白複合体、βカテニンなどのカーゴを巧妙に輸送し、細胞機能の基礎となるだけでなく、記憶、学習等の脳高次機能、脳の回路網形成と活動依存性の神経生存の制御、体の左右の決定や腫瘍形成の抑制、腸の発生の制御等の重要な生命現象の基盤となる驚くべき働きをしていることを解明しました。またモノマー型モーター分子KIF1Aの発見を通して、クライオ電顕、X線結晶解析、生物物理学を駆使してモーター分子の作動機構を解明しました。このように廣川先生は、特に精緻な細胞内輸送機構を解明する事により細胞生物学の新しい方向性を開拓し国際的リーダーとして先駆的研究を展開し、細胞生物学、神経科学の発展に大きく貢献しています。
 廣川先生の非常に高い業績は、国際的一流紙である、Cell 17報、Nature 9報、Science 8報、J Cell Biol 58報、Neuron 7報、PNAS 8報を含む232報の論文とし発表されています。またCell, Science, J Cell Biol, Neuron, EMBO J 等のeditorial board に招待され、国際細胞生物学会会長、日本細胞生物学会会長、日本顕微鏡学会会長、日本神経科学会理事などを歴任し、日本が主導する国際研究支援事業、Human Frontier Science Program (HFSP)のpresident を務め、日本及び世界の細胞生物学、神経科学等、広範な学問分野の発展に大きな功績をあげてこられました。
 この度の受章を心よりお祝い申し上げると共に、今後の益々のご活躍をお祈り申し上げます。

(大学院医学系研究科・医学部 岡部 繁男)

久保田 淳 大学院人文社会系研究科・文学部 名誉教授

久保田 淳 大学院人文社会系研究科・文学部 名誉教授 画像

 久保田淳名誉教授が、本年度秋の文化功労者として顕彰されました。
 久保田先生のご専門は、日本古典文学、中でも和歌文学・中世文学といえます。広くかつ深い先生の学問的業績を俯瞰する者は、厳正な文献学的研究、精緻な伝記的研究、どちらにも傑出しつつ、しかも作品の透徹した読みを示す注釈学的研究において、両者が高い次元で統合されているさまに圧倒されるでしょう。最初の主著である『新古今歌人の研究』は、藤原俊成・定家・西行ら六人の主要な新古今歌人の活動を、作品が生まれ出る機微を細やかに掬い取りつつ、連動する動態として描きだしました。もう一つの主著『中世和歌史の研究』では、その方法は堅持しながらもさらに視野を広げ、中世和歌の、大河のごとき流れを活写しています。
 とくに先生が一貫して関心を寄せて来られたのが、藤原定家です。難解な定家和歌の初の全訳注『訳注藤原定家全歌集』、定家およびその周辺を鋭く掘削した論考『藤原定家とその時代』、定家の生涯を曇りない目で読み解いた評伝『藤原定家』などが、この巨大な作家の面目を一新しました。また新古今時代のもう一方の雄、西行に関しても、『西行全集』の編纂のほか、『古典を読む 山家集』『西行山家集入門』で西行歌の新しい読みを示され、新たな西行像を確立されたのです。
 先生の真骨頂といってよい注釈においては、新古今集注釈の金字塔『新古今和歌集全評釈』全9巻を1977年に完成、これをさらに2012年に全面的に改訂されました。あくまでその時代の歌人の知性と感性に立ち戻って読もうとされる姿勢が、従来の注釈方法を刷新するとともに、先生ご自身のあくなき探求心をも生み出したというべきでしょう。また、『新日本古典文学大系』全100巻の編集、刊行中の『和歌文学大系』全80巻の監修ほか厖大な編著作は、先生の高い見識と広い学識への、斯界の厚い信頼の証しです。2005年に日本学士院会員となられ、2007年に瑞宝重光章を受章されました。先生は我々教え子のみならず、国文学者皆の誇りです。これからもますますお元気でご活躍くださることをお祈りしております。

(大学院人文社会系研究科・文学部 渡部 泰明)

山岸 俊男 総合文化研究科・教養学部 特任教授

山岸 俊男 総合文化研究科・教養学部 特任教授

 山岸俊男先生は、社会心理学の分野において、様々な社会問題の根底にある「社会的ジレンマ」の研究を、個人の心理に着目する従来のミクロな研究を超えて、多人数の相互作用の結果生じるマクロな現象として扱う研究として発展させました。また、人間関係における重要なテーマのひとつである「信頼」に関して、信頼される側からの研究と信頼する側からの研究を統合し、社会心理学のみならず、経済学、政治学、社会学、人類学などの関連分野に共通の理論的・実証的基盤を提供するなどの優れた業績を挙げられました。
 社会的ジレンマとは、集団の各メンバーが自分にとって利益の大きい行動を採用すると、集団全体としては利益が小さくなってしまう状況であり、様々な社会問題の根底にある構造だと言えます。社会的ジレンマ状況での人々の意思決定には「他者は集団に対して協力するだろうという期待」が大きく影響していることを先生は明らかにされました。また、ジレンマの解決法として従来考えられていた選択的誘因(非協力者に罰を与えること)の使用には様々な問題があることを指摘されました。
 先生はさらに、経済学における「信頼に足る行動をすること」、即ち信頼される側の研究と、心理学における「相手が信頼できるかどうか分からないときに信頼すること」、即ち信頼する側の研究の二つの流れを初めて統合し、「人はなぜ他者一般を信頼するのか」という問いに対する解答に導いています。先生の提唱された「信頼の解放理論」は、社会心理学のみならず、社会学、経済学、政治学、人類学等、学問領域を超えて大きな影響を与えています。一連の研究をまとめたご著書『信頼の構造』は日経・経済図書文化賞を受賞しました。
 以上のように、山岸先生は、社会心理学という分野の枠組みを超え、様々な学問領域の知見を取り入れ、またそれらの領域に向けて研究成果を発信されています。人文社会系としてはずば抜けて多数の英文論文を著され(被引用数は8千件以上)、海外から多数の招待講演依頼を受けております。また、文化功労者として顕彰される以前より、紫綬褒章・日本心理学会国際賞等を受賞しています。山岸先生は、平成25年度より本学大学院総合文化研究科進化認知科学研究センターの特任教授として活躍されています。

(大学院総合文化研究科・教養学部 岡ノ谷 一夫)

榊 佳之 医科学研究所 名誉教授

榊 佳之 医科学研究所 名誉教授 画像

 東京大学名誉教授 榊佳之先生が、本年秋の文化功労者として顕彰されました。
 榊佳之名誉教授は、医科学研究所では永年に渡り研究・教育に従事され、附属分子病態研究施設教授、附属ヒトゲノム解析センター教授(センター長兼任)を歴任後、平成16年度3月末に定年退職されました。その後、理化学研究所ゲノム科学総合研究センター長を経て、現在は豊橋技術科学大学学長をされております。
 榊名誉教授は、日本とスウェーデン、ポルトガルに多いとされる、家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)の遺伝子診断法の確立、ヒトの概日リズム(サーカディアンリズム、いわゆる時計遺伝子)の発見とその分子メカニズムに関する研究、ヒトゲノム内の転移因子の発見などの成果を上げられました。また、2002年より2005年まで、ヒトゲノム研究の国際組織HUGO(Human Genome Organization)の会長を務められました。
 榊名誉教授の数あるご功績のなかでも、最も多くの方々に知られているのは、1995年から98年まで、国際ヒトゲノム計画の日本代表として研究チームを率いられ、21番染色体の全解読を担当されたことです。ヒトゲノム全解読に貢献するため、1991年に、日本の大学初の解析拠点として、医科学研究所内にヒトゲノム解析センターが設立されましたが、榊名誉教授は、様々な困難を乗り越え、ヒトゲノム解析センターの運営を軌道に乗せる重要な役割を果たされました。今日、ヒトゲノム解析センターが、日本随一のメディカルインフォマティクスの拠点としてゲノム医科学に貢献できるのも、榊名誉教授のご功績によるものであり、所員一同、感謝の念に堪えません。
 他方、榊名誉教授は、ヒトゲノム研究の成果が適切に社会に応用される必要性があることから、遺伝子診断の適切な実施方法や環境の整備、遺伝情報を保護する法律の制定など、科学者としての社会的責任を果たしてこられました。私自身、学生の頃に、家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)の遺伝子診断をめぐる榊名誉教授のお考えをお聞きし、感銘を受けた記憶があります。
 榊名誉教授は、教育功労賞シュヴァリエ(仏政府)(2001年)、日本人類遺伝学会賞(2001年)、中日文化賞(2003年)、紫綬褒賞(2003年)などを受賞されています。主な著書に「人間の遺伝子-ヒトゲノム計画のめざすもの-」(1995年、岩波科学ライブラリー)、「ヒトゲノム-解読から応用へ-」(2001年、岩波新書)、「榊佳之 遺伝子小学生講座―課外授業ようこそ先輩別冊」(2002年、KTC中央出版)、「ゲノムサイエンス」(2007年、講談社ブルーバックス)があります。また、今年はヒトゲノム解読完了から10年にあたりますが、これを記念した書籍として、「ゲノム医学・生命科学研究 総集編~ポストゲノムの10年は何をもたらしたか」(実験医学増刊 Vol. 31-15、2013年)があります。
 この度のご受章をお喜び申し上げるとともに、これからもますますお元気でご活躍くださることをお祈り申し上げます。

(医科学研究所 武藤 香織)

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