平成26年度春の紫綬褒章受章

平成26年度春の紫綬褒章受章

坂野仁名誉教授・小林俊行教授・藤田誠教授が、本年春の紫綬褒章を受章いたしました。

坂野 仁 大学院理学系研究科・理学部 名誉教授

坂野 仁 大学院理学系研究科・理学部 名誉教授 画像

 紫綬褒章は、学術・芸術・スポーツで著しい業績を上げた人に贈られる褒賞で、この度、坂野先生が神経科学の分野において受賞されました。
 坂野先生はカリフォルニア大学バークレー校において教授として免疫学の研究をなさっていましたが、何かもう一つ新しい研究にチャレンジしたいという開拓精神と、日本の若い研究者を教育したいという責務感から、帰国して当研究科に着任し、神経科学、特に高等動物を用いた嗅覚研究に着手されました。
 嗅覚は、餌となる物質への誘引、危害を及ぼす物質からの忌避、フェロモンを介した異性の識別など、虫から哺乳類に至るまで、生き物の存在にとって極めて重要な役割を担っています。無数の匂い物質を生き物が如何に嗅ぎ分けて認識するかという謎について坂野先生は取り組んで来られました。まず個々の嗅神経細胞が、約一千個ある嗅覚受容体群から一種類のみを相互排他的に選ぶ機構を解明しました。また、選んだ嗅覚受容体の種類に応じて嗅神経細胞の神経繊維が脳の特定の場所に接続し、脳表面に正確な匂い地図を形成する分子機構を明らかにしました。更に、何世代も実験室で飼育され、一度も遭遇経験のない猫などの天敵臭を、教わらずとも本能的にマウスが怖くて嫌いと感じるかという機構等を神経回路レベルで明らかにしました。これらの研究成果は、いずれも当研究科の大学院生が中心となってあげたもので、Cell、Nature、Scienceといった一流科学雑誌に次々と掲載されました。これも偏に、坂野先生の妥協を許さぬサイエンスへの強い意志と、ラボメンバーを駆り立てる牽引力の結果でありました。
受賞に関して坂野先生は、「私共の神経科学研究が評価され、褒賞受賞の対象となったことは身に余る光栄だ。これも偏に、研究を支えてくれたラボメンバー、並びに、大型研究費等を助成してくれた関係機関の皆様のおかげで、心より感謝している」と話されていました。坂野先生は現在福井大学医学部に籍を得て、研究を継続されています。今後もご健康にて、刮目するようなサイエンスを続けられる事を祈願致します。

(大学院理学系研究科・理学部 西住 裕文)

小林 俊行 大学院数理科学研究科 教授

小林 俊行 大学院数理科学研究科 教授 画像

 紫綬褒章は、学術・芸術・スポーツで著しい業績を上げた人に贈られる褒章です。
 小林俊行教授が、数学の分野において紫綬褒章を受章されました。
小林教授は、1980年代から、世界に先駆けてリーマン多様体の枠組みを超えた不連続群の研究に取り組み、局所的に均質な高次元空間の大域的な形に関する不思議な現象を掘り起こしつつ、単独でその基礎理論を構築し、幾何学とリー群論にまたがる新しい研究領域をいくつも興しました。 小林教授の研究は、「対称性」をキーワードとして、代数、幾何、解析にまたがる壮大なものであり、数学全体へ影響を及ぼしています。特に、「リーマン幾何学の枠組みを超えた均質空間における不連続群の理論の創始」、「無限次元における対称性の破れを代数的に記述する理論の創始」、「極小表現の大域解析学の創始」、「可視的作用の概念による無重複表現の統一理論の創始」は、スケールが大きく、特筆される研究成果として国際的に高く評価されており、数学における本質的なブレークスルーを実現しました。
 小林教授が創り出す新しい領域は、類例のない独創的なものであるにもかかわらず、その奥深くに古典的な例が豊富に取り込まれています。しかも数学の一分野に留まるのでなく、代数、幾何、解析の純粋数学3大分野が調和する自然な美しさと深さが世界の数学者を惹き付け、現代数学の多くの分野に多大なインパクトを与えています。近年ではイスラエルからサックラー・レクチャーが,ドイツからはフンボルト賞が小林教授に贈られています。
 本学の卒業生でもある小林教授は、助手時代から現在に至るまで学生の教育にも献身的に尽くされています。小林先生にはどうか健康に留意されつつ今後ますますご活躍されることを祈念いたします。

(大学院数理科学研究科 坪井 俊)

藤田 誠 大学院工学系研究科・工学部 教授

藤田 誠 大学院工学系研究科・工学部 教授 画像

 このたび、藤田 誠教授が、有機化学および錯体化学分野の研究における功績により、紫綬褒章を受章されました。
 分子を弱い結合力で積み上げていくボトムアップ手法(自己組織化)がナノ構造を持つ物質や素子を形成する手段として注目されており、近年多くの試みがなされています。藤田先生は、金属イオンと特定の有機分子との間に働く配位結合に着目し、これを自己組織化の駆動力として活用することで、ナノスケールにおよぶ特定の構造を持つ分子の集合体が精密に自己形成できることを世に先駆けて示す独創的な研究を行いました。
 自然界ではDNAの二重らせん構造やタンパクの複雑な三次元構造が、水素結合や疎水相互作用などの弱い結合力によって自己組織化します。このようなしくみを化学の分野でものづくりに利用する研究は、かつては自然界と同様に水素結合を活用した例がわずかに知られるのみでした。しかし、水素結合で自己組織化する物質は単純な構造に限定されることが多く、構造的に脆いなどの問題があるため、大きく発展するには至りませんでした。これに対して、藤田先生が着目した配位結合は、結合の数と結合の角度が明確に規定された比較的強い相互作用であることから、自己組織化する構造体に高い設計性や安定性をもたらすことができ、ナノメートルスケールにもおよぶ分子の集合体を驚くほどの効率で精密に形成できます。この自己組織化における配位結合の優位性は次第に物質化学の分野で認められ、今日では精密なナノスケール構造の自己組織化に多くの研究者が配位結合を活用するようになりました。藤田先生は、一連の研究を通じて、かご構造やチューブ構造など極めて多様なナノ構造物質が自己形成できることも示し、さらには自己組織化で得られるさまざまな中空構造体の内部空間で、通常では生じない化学反応(物質変換)を生起させたり、サイズの揃った無機系のナノ粒子の合成などにも活用できることを示しました。
 藤田先生はこれらの業績に関して、日本化学会賞や米国化学会賞、江崎玲於奈賞、日本IBM科学賞、文部科学大臣表彰など、数多くの権威ある賞を受賞されており、高い評価を受けておられます。この度のご受章をお喜び申し上げるとともに、今後のご健勝と益々のご活躍をお祈り申し上げます。

(大学院工学系研究科・工学部 水野 哲孝)

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