平成26年度文化勲章受章


平成26年度文化勲章受章
根岸隆名誉教授が、文化勲章を受章いたしました。
根岸 隆 大学院経済学研究科・経済学部 名誉教授
根岸隆先生は、大学院時代にまとめた一般均衡の存在証明と厚生経済学に関する論文を皮切りに、次々に理論経済学や応用経済学における先駆的な研究を発表されてきた。先生の20代から30代にかけての多くの研究は、1972年に出版されたGeneral Equilibrium Theory and International Tradeにまとめられる。この本は大学院生時代の私の座右の書の一つであったが、いま読み返してみても先生がいかに多くの重要な研究成果を出されているか良くわかる。一般均衡の存在証明や安定性などの研究に続いて、国際経済学の分野における幼稚産業保護理論や次善的貿易政策の議論など、その後の多くの研究に強い影響を及ぼした諸論文の成果がまとめられている。私の米国留学先での指導教員であった国際経済学の世界的な権威であるロナルド・ジョーンズ教授は、私の留学当時、「根岸は最近ではもっとも精力的に影響力のある国際経済学の論文を書いている存在である」と発言していたのが記憶に残っている。
一般均衡論で名声を確立したにも関わらず、その後も果敢に新しい分野に挑戦を続けるというのが、根岸先生の姿勢であった。国際経済学に続いて、公共経済学、マクロ経済学のミクロ的基礎などの分野でも多くの成果を発表されている。そして後年は経済理論の歴史に関する多くの含蓄ある研究を発表されている。東京大学で教鞭をとっている間はもちろんのこと、退官後も精力的に研究を続けており、新たに開拓された分野で影響力の大きな研究を出されてきた。
私にとって、根岸先生は生涯に渡ってお世話になった恩師である。東京大学の神取道広・渡辺努教授、一橋大学の林文夫教授、京都大学の矢野誠教授を始めとして、多くの一流の研究者が根岸先生のゼミ(演習)の出身者である。研究者だけでなく、政府や民間の多くの分野で根岸先生の教え子が活躍している。厳しいながらも暖かい目で若手を育ててきた教育者としての先生のもう一つの業績であると言ってよいだろう。
(大学院経済学研究科・経済学部 伊藤 元重)