平成29年春の紫綬褒章受章

平成29年春の紫綬褒章受章

飯野正光 名誉教授、山本一彦 元教授、中里 実 教授、中島映至 名誉教授、高木信一 教授が、平成29年春の紫綬褒章を受章いたしました。

飯野正光 大学院医学系研究科・医学部 名誉教授

飯野正光名誉教授

このたび、飯野正光名誉教授が本年春の紫綬褒章を受章されました。

飯野先生は、長年にわたって薬理学研究に努めてこられました。とりわけ、細胞内カルシウムシグナル機構において、独創的かつ先駆的な研究を行い、その基本機構の解明から病態の理解に至る大きな功績を挙げてこられました。

細胞内のカルシウムイオン濃度の変化は、筋収縮、受精、代謝、免疫や神経機能調節などあらゆる機能調節に重要であり、カルシウムシグナルと呼ばれています。カルシウムシグナルの形成には、細胞内小器官である小胞体から細胞内へのカルシウム放出が重要ですが、先生は、「自己再生産的カルシム放出」すなわち放出されたカルシウムがさらにカルシウム放出活性を強めることを示し、これが基本機構となってカルシウム振動など複雑なカルシウム動態を形成することを実証しました。この発見は、全身の様々な臓器・組織におけるカルシウムシグナルを司る必須の共通原理として世界標準の生物学教科書にも記載されています。また、先生は顕微鏡を使ったカルシウムシグナルの可視化法を次々に開発され、カルシウムシグナル研究に大きな影響を与えています。さらに、先生は、脳におけるカルシウムシグナルの未知機能の探索を進められ、シナプス機能の維持や脳傷害に伴う神経細胞死におけるカルシウムシグナルの新たな役割を発見されてきました。これら知見は新たな創薬ターゲットの発見につながると期待されています。これらの優れた業績に対し、1989年日本薬理学会学術奨励賞、2009年上原賞、2012年日本薬理学会江橋節郎賞を受賞されています。

先生は薬理学の教育にも長年従事し多数の学生を教育し、後進の育成に努められてきました。また、学会活動では、公益社団法人日本薬理学会の理事、年会長、理事長を歴任し、薬理学分野の発展に大きな貢献をされてきました。

このたびの受章を心よりお祝い申し上げますとともに、先生のご健勝と益々のご活躍をお祈りいたします。

 
(大学院医学系研究科・医学部 廣瀬謙造)

山本一彦 大学院医学系研究科・医学部 元教授

山本一彦 元教授

このたび、大学院医学系研究科・医学部アレルギー・リウマチ学の山本一彦元教授が、本年春の紫綬褒章を受章されました。

山本先生は、リウマチ学および臨床免疫学の分野においてヒトを対象とした研究を推進され、独自の手法による自己抗体が認識するエピトープの同定や、抗原特異的T細胞の免疫応答の証明に加え、既に知られた制御性T細胞とは異なる機能を持つ新たな制御性T細胞(LAG3陽性T細胞)を同定され、自己免疫疾患における自己免疫反応や免疫制御システムの解明に大きく貢献されました。また、ヒトゲノム情報から疾患感受性遺伝子を評価するシステムを確立し、関節リウマチなどの自己免疫疾患における多数の感受性遺伝子を同定することで、自己免疫疾患の発症における遺伝子素因を解明するとともに、疾患感受性遺伝子の病態形成への関与や治療における重要性を明確に示されました。特に関節リウマチの疾患感受性遺伝子としてPADI4遺伝子を同定したことは、関節リウマチで最も特異性の高い自己抗体である抗シトルリン化蛋白抗体の標的抗原形成に関わっており、重要性が認識される発見となりました。さらに、ヒト体内における複雑な免疫システムを解明する手段としてゲノム機能学を確立し、今後のヒト免疫学の発展に繋がる業績を挙げられています。

これらの優れた研究に対し、日本リウマチ学会賞、日本チバガイギーリウマチ賞、エルウィン・フォン・ベルツ賞(アレルギー疾患―成因と対策―および自己免疫疾患)、日本医師会医学賞、高峰記念第一三共賞、日本免疫学会ヒト免疫研究賞、Carol Nachman Awardを受賞され、また、現在も日本リウマチ学会、アジア太平洋リウマチ学会連合の理事長として、日本のみならず世界のリウマチ学および免疫学の発展に多大なご尽力をなされています。

この度のご受章を心よりお慶び申し上げますとともに、先生のご健勝とますますのご活躍を祈念しております。

 
(医学部附属病院 久保かなえ)

中里 実 大学院法学政治学研究科・法学部 教授

中里 実 教授

大学院法学政治学研究科・法学部の中里実教授が、本年春の紫綬褒章を受章されました。

中里教授は、長年にわたり租税法学の研究と教育に努め、多様な方法を柔軟に駆使することで租税法学に方法論的革新をもたらし、税制改正や裁判例の発展に大きな影響を及ぼされました。とりわけ、ミクロ経済学の理論やファイナンス理論を租税法の研究方法として導入することで、従来の議論を刷新する大きなインパクトを、租税法の複数の研究領域に与えられました。すなわち、法人税法と企業会計の関係を法理論的に解明し、立法と解釈につき法人税法固有の考慮を払うべきことを法律の構造から導き出すことに成功し、その業績に対して1984年日税研究賞を受賞されました。また、「金融取引と課税」の分析手法としてミクロ経済学の理論を導入して法制度改善の指針を示され、1998年度税制改正において法人税法に時価主義を導入した際にはその理論的基礎を提供されました。さらに、ファイナンス理論の知見を応用しつつ、生成しつつある新しい事案に即した検討を進められた結果、「国際取引と課税」の研究に対して租税資料館賞を受賞され、年金二重課税事件に関する最高裁判決における「現在価値」概念を用いた判断にも知的影響を与えられました。近年は,租税法学の中心的論点である「租税法と私法」論に法制史的視点を導入して新たな研究領域を切り拓いておられるほか、財政と金融の法的構造の分析へと研究対象を大きく拡大されています。

中里教授は、その幅広い学識により、税制調査会会長をはじめとする多数の審議会委員を歴任されました。また、租税法学会理事長やハーバード・ロー・スクール客員教授を務めるなど、学界の発展と国際交流に尽力されています。

中里教授のこのたびの受章を心よりお慶び申し上げますとともに、今後のご健勝と益々のご活躍を祈念いたします。

 
(大学院法学政治学研究科・法学部 増井良啓)

中島映至 大気海洋研究所 名誉教授

中島映至 名誉教授

このたび、大気海洋研究所の中島映至名誉教授が、本年春の紫綬褒章を受章されました。

中島先生は、地球気候の形成と維持にとって重要な大気放射の伝達過程と、それに深く影響を及ぼすエアロゾルと雲について先駆的な研究をされました。大気放射のご研究では、放射伝達を高精度かつ高効率に数値計算する手法を1980年代に開発されました。この手法にもとづくアルゴリズムは光伝達の数値計算パッケージとして国内外で広く利用されているほか、日本の数値気候モデルにも組み込まれ、日本の気候研究コミュニティから発信される気候予測情報の基幹部分をなしています。先生はその後、このような光伝達の計算手法を地上観測や衛星観測から得られる太陽光スペクトルの解析に応用され、気候予測にとって特に大きな不確実要因である雲とエアロゾルを全球規模で観測する手法の基礎を確立されました。これによって、エアロゾルがその発生源である世界の主要都市から広域に流れ出している実態や、それが雲を大規模に変質させていることが世界で初めて明らかとなりました。先生はさらに、これらの新しい観測的知見にもとづいて、エアロゾルの気候影響を世界で初めて数値気候モデルに組み入れる研究を先導され、その後の世界各国の気候モデリング研究に大きなインパクトを与えました。また、これらの先駆的な研究に加えて、中島先生は国際気象学・大気科学協会ビューロ事務局長や国際放射委員会におけるアジア人初のプレジデントを務められるなど、国際コミュニティに対しても多大な貢献をされました。

これらの業績によって、日産科学賞、日本気象学会藤原賞など国内の学術賞はもとより、国際放射学会ゴールドメダル賞を日本人として初めて受賞されており、中島先生のこれまでの貢献は国際的にも高い評価を受けています。

このたびのご受章を心よりお慶び申し上げますとともに、今後のご健勝と益々のご活躍をお祈りいたします。

 
(大気海洋研究所 鈴木健太郎)

高木信一 大学院工学系研究科・工学部 教授

高木 信一 教授

このたび、工学系研究科電気系工学専攻の高木信一教授が本年春の紫綬褒章を受章されました。

高木先生は、本学大学院を卒業後東芝研究開発センターにおいて、半導体LSIにおいてもっとも基礎となる素子であるMOSトランジスタの性能を決めるキャリア移動度について、国際的に広く認知され活用される普遍性の高い性質を見出し、かつその物理モデルを構築することでMOSトランジスタの性能向上に大きく貢献されるご業績を挙げられました。さらに、Siに応力を印加してSi結晶にひずみを与える、ひずみSi MOSトランジスタの性質を明らかにして、本学工学系研究科に就任された2003年以降、半導体集積回路に用いられているひずみSiチャネル技術の実用化に道を拓かれる一方、最近では、新しい材料を用いたMOSトランジスタ素子の高性能化の発展に原理的な側面と実験的な側面の両面から大きく貢献し、将来の半導体集積回路の方向性を先導するなど、産業界にも多大な貢献をされておられます。これらの業績に対して、国内においてはIBM科学賞、山崎貞一賞、科学技術分野の文部科学大臣表彰、また国際的にも米国電気電子学会(IEEE)より、George E. Smith Award、Andrew Grove Award、Paul Rappaport Awardを受賞されており、国際的にも極めて高い評価を受けております。また教育面においても研究室の学生の多くが国際学会、論文等において受賞されており研究レベルの高さを示しております。

このたびのご受章を心よりお慶び申し上げますとともに、今後も益々のご活躍を祈念しております。

 
(大学院工学系研究科・工学部 鳥海明)
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