平成29年度文化勲章受章

平成29年度文化勲章受章

藤嶋昭名誉教授、斯波義信元教授が、平成29年度文化勲章を受章いたしました。

 

藤嶋昭 大学院工学研究科・工学部 名誉教授

藤嶋昭名誉教授

電気化学的に水を分解するには正極と負極の電位差は1.23 V以上必要、これは熱力学の教えるところです。このことは白金参照電極を用いたとき、正極には少なくとも1.23 Vの電位が必要ということを意味しています。ところが1960年代終わりごろ、当時、本学の修士学生であった藤嶋先生は酸化チタン電極を正極に用い、紫外線を照射すると1.23 Vよりも低い電位で酸素が発生する現象を見出したのです。有名な「ホンダ・フジシマ効果」の発見です。これは反応に光エネルギーが関与したためで、現在では当然のことと納得できますが、当時は全く理解されず、学会発表や学位取得の際にずいぶん苦労されたそうです。しかし、1972年にこのお仕事がNature誌に掲載されると世界中の研究者の注目を集めることとなり、半導体光電気化学という分野の幕開けとなりました。現在もこの分野は未来のエネルギー技術として期待の大きい人工光合成分野の基盤として大いに注目されています。

 

一方で、1990年ごろから藤嶋先生は酸化チタンを種々の材料にコーティングした薄膜光触媒の研究へと展開させました。材料表面の汚れ物質や細菌などを光触媒分解しようという考えです。それまでの光触媒反応が水分解や水処理といった三次元空間にある物質を対象としていたのに対し、藤嶋先生の研究は反応系を二次元表面にしたことに特徴があります。これにより微弱な紫外線の下でもセルフクリーニング効果や抗菌効果など極めて実用的な機能が得られることとなりました。さらに酸化チタン表面は光照射により高い親水性となることも見出し、光触媒コーティング材料の応用範囲は格段に広がりました。現在、光触媒関連市場は国内だけで年間700億円程度と推定されており、基礎から実用化に至るまでわが国発の技術として高く評価されています。

(政策ビジョン研究センター 橋本和仁)

斯波義信 東洋文化研究所 元教授

斯波義信教授

斯波義信先生が文化勲章を受賞されました。心よりお慶び申し上げます。

 

斯波先生は、1950年旧制の東京大学文学部東洋史学科入学、同卒業、1953年新制の同大学大学院修士課程入学、同終了、同博士課程修了、1962年に文学博士号を授与されています。父方母方とも学問に関わり、早くから西洋学術、社会科学に対する関心、理系的素養を養ったとのことです。新制大学院発足当時の推進役山本達郎先生をはじめとする研究室の方針もあり、学際的視野を身につけ、他研究科の講義にも出向いたそうです。そして東洋文庫研究生となり、同所の資料を存分に使用したとのことです。以後、戦前の東方文化学院に関わる先生がた、東京大学の先生がたや学友など幅広い交流の輪をもたれました。熊本大学を経て1969年より大阪大学文学部で教鞭をとられ、大阪大学名誉教授。1986年より東京大学東洋文化研究所教授。1991年退官。その間1988年から1990年、同所所長を努められました。1991年から2001年まで国際基督教大学教授。文化功労者、日本学士院会員、東洋文庫文庫長。先生の学問は、中国に革命が起こった後、欧米の中国研究者が強く関心をいだいた研究テーマを手がけられ、漢代から清末までの社会経済史を知ろうとする人々に大きな影響をあたえています。当時は、言わば閉ざされた世界となった中国に替わって、とくに日本の中国研究に世界の熱いまなざしが注がれていた時代でもあります。先生は多くの著書論文を世に出されていますが、代表的著作として『宋代商業史研究』・『宋代江南経済史の研究』等。前者は基礎的資料を精査し、後者は長江下流域に視点を当てつつ、広い視野に基づく研究史理解と他分野の成果をも取りこんでまとめられています。アナール派に通じる先生の研究手法は、現地調査を基礎とする研究やいわゆる上古を対象とする研究にも関わる奥深さをもっています。

 

今回の文化勲章受章を機に、さらに大きな指導的影響を与えていかれることと存じます。ますますのご健勝とご活躍をお祈り申し上げる次第です。

(東洋文化研究所 平勢隆郎)
カテゴリナビ
アクセス・キャンパスマップ
閉じる
柏キャンパス
閉じる
本郷キャンパス
閉じる
駒場キャンパス
閉じる