平成30年春の紫綬褒章受章

平成30年春の紫綬褒章受章

河西春郎教授、永長直人教授、濡木理教授、御厨貴名誉教授が、平成30年春の紫綬褒章を受章いたしました。

河西春郎 大学院医学系研究科・医学部 教授

河西春郎教授

このたび、河西春郎教授が本年春の紫綬褒章を受章されました。

河西先生は、長年にわたって神経科学・生理学の研究に努めてこられました。とりわけ、大脳の神経細胞を繋ぐ1ミクロンに満たないシナプスの大きさがその結合強度と強く関係し、学習刺激に伴い大きくなることで結合強度の長期的増加が起きることを2光子顕微鏡による光刺激法を用いて発見しました。脳は運動する臓器であることを具体的に示したと言えます。この増大運動が起きたシナプスを特異的に標識する光分子プローブを設計し、沢山のシナプスに増大運動が分散して起きている様子を動物個体脳で可視化して、尚且つ、それらのシナプスを特異的に消去した時に、記憶が消去されることを検証しました。このシナプス運動がドーパミンなどの神経修飾因子で調節されることが、情動や条件づけ学習の基盤にあることも明らかにしました。加えて、学習に伴う速い運動以外にも、常時起きているゆっくりとした揺らぎ運動があり、これらの運動を統合的に考えることが、長期に渡る記憶や精神疾患の理解に必要であることを示しました。これらの優れた業績に対し、2002年塚原仲晃記念賞、2010年上原賞、2016年日本医師会医学賞などを受賞されています。

このたびの受章を心よりお祝い申し上げますとともに、先生のご健勝と益々のご活躍をお祈りいたします。

 
(大学院医学系研究科・医学部 柳下 祥)

永長直人 大学院工学系研究科・工学部 教授

永長直人教授

このたび、大学院工学系研究科・工学部教授 (及び理化学研究所創発物性科学研究センター・副センター長) の永長直人先生が、本年春の紫綬褒章を受章されました。

永長先生は、物性理論、特に電子間の強い相互作用によってもたらされる強相関効果、および電子波動の量子幾何学に起因するトポロジカル物性の研究と教育に従事し、数多くの先駆的な業績を挙げてこられました。とりわけ、場の量子論を用いた高温超伝導体におけるゲージ場の研究や、それを発展させた散逸を伴わないトポロジカルカレントの研究、さらには微分幾何学やトポロジーといった一般化した空間における幾何学を援用した「トポロジカル電子物理学」と呼べる新しい分野の創成において世界をリードしてきました。そこでは、場の量子論において発展されたゲージ場の理論を用いて、固体中電子波動の位相自由度の干渉効果を表しているという概念を、より広範な物質群へと適用する研究を展開し、この干渉を幾何学の観点から基礎に戻って考え直しそれを一般化することで、本質的に抵抗を伴わない電子の動きが存在し、それが数多くの新奇な現象を与えることを予言、物性物理学に新しい分野を切り拓かれました。すでにその予言の多くは実験によって確認されその重要性は広く認知されているばかりでなく、新しい省エネルギーエレクトロニクスの基礎原理となり得るものです。これらの傑出した業績に対して、平成7年に西宮湯川記念賞、および日本IBM科学賞、平成16年には日産科学賞、平成17年には仁科記念賞、平成26年には文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)を受賞されています。現代凝縮系物性の最重要課題の量子波干渉に関係する物理学で、独創的かつきわめて影響力のある業績を挙げ、将来の工学技術への道程をも明示された業績の先駆性は、ISIのhighly cited researchers (現:クラリベイト・アナリティクス、旧:トムソンロイター) に平成26、27、28、29年の4年連続で選ばれていることからも示されております。

このたびの受章を心よりお喜び申し上げますとともに、先生のご健勝と益々のご活躍を祈念いたします。

 
(大学院工学系研究科・工学部 求 幸年)

濡木 理 大学院理学系研究科・理学部 教授

濡木理教授

生物科学専攻の濡木理教授が、学術・芸術・スポーツ分野で著しい業績を挙げた功労者に授与される紫綬褒章を受章されました。心よりお慶び申し上げます。

濡木教授は、生体内で重要な機能を担うタンパク質のX線結晶構造生物学に長年に渡って取り組み、数々の素晴らしい業績を残して来られています。特に、脂質二重膜に局在する輸送体タンパク質や、ゲノム編集技術として名高いCRISPR-Casに関する業績は、今後、創薬や疾患治療に繋がる可能性を秘めており、国内外の生命科学研究領域に大きなインパクトをもたらしています。通常、輸送体タンパク質は脂質二重膜に埋め込まれた状態で機能するため、高品質な結晶を得ることは困難であるといわれていましたが、濡木教授は脂質キュービック法などを世界に先駆けて取り入れることによってその問題をいち早く解決しました。最近では同じく膜局在型タンパク質であるGタンパク質共役受容体の結晶構造にも成功されています。CRISPR-Casに関しては、Cas9やCas12aの複合体構造を世界で初めて解明したのみならず、Casが標的DNA配列を認識、切断に至るまでの反応過程において重要なアミノ酸を同定、それらに変異を導入することによって応用性の高いCasの構築にもチャレンジされています。今回の受章は、濡木教授の、世界的に評価の高い先駆的研究による学術への貢献や優秀な若手を育てるリーダーシップが高く評価されたものであることは言及するまでもありません。今後の益々のご発展をお祈りいたします。

 
(大学院理学系研究科・理学部 塩見美喜子)

御厨 貴 先端科学技術研究センター 名誉教授

御厨貴教授

このたび、御厨貴名誉教授が日本政治外交史分野におけるご功績により紫綬褒章を受章されました。

御厨教授は、永年にわたって日本政治外交史の研究、教育に努め、明治期から太平洋戦争後までを対象とした数多くの著書・論文を発表されました。また、その手法として、政治家・官僚・企業経営者など公人の経験を聴き取るオーラル・ヒストリーを提唱され、論文や一般向けの多数の著書・論説を発表され、その普及と体系化に貢献されました。さらに歴史研究を公共政策学へと発展させた政策史研究の方法を彫琢し、同時代への政策提言をも包含する学問領域の構築に努められました。東京大学先端科学技術研究センターでは、領域横断的な研究環境を生かして、政治学と建築学を架橋する研究に取り組まれました。

またご著書は数々の賞を受賞されており、『明治国家形成と地方経営』(東京大学出版会)により東京市政調査会藤田賞を、『政策の総合と権力』(東京大学出版会)によりサントリー学芸賞(政治・経済部門)を、『馬場恒吾の面目』(中央公論新社)により吉野作造賞を受賞されています。

メディアへの発信もきわめて多く、主要な全国紙・地方紙・総合雑誌への寄稿はあまたあり、歴史を紐解きつつ日本政治を論評されたご論稿はそのときどきの政治状況を的確に映し出しました。さらにオーラル・ヒストリーで培われた奥行きと含蓄のある質疑を通じて、テレビでの政治解説や長寿番組『時事放談』で政治家から貴重な情報を引き出すなど多方面で活躍されています。

また、政府の多数の審議会でも提言を出されており、記憶に新しいところでは、東日本大震災の復興政策をめぐっては東日本大震災復興構想会議の議長代理・復興推進委員会の委員長代理を歴任され、天皇退位についての制度的課題の解決に際しては、天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議で座長代理を務められました。

何よりも御厨教授は後進とのコミュニケーションを大切にされ、多くの若い研究者との共同研究に取り組まれ、その成果を多数の編著にまとめられました。若い研究者たちも直接のご指導を受けたかどうかにかかわらず先生を師と仰ぎ、研究会やシンポジウムへの出席を心待ちにしています。

御厨先生のご受章を心よりお喜び申し上げますとともに、後進一同よりますますのご活躍をご祈念申し上げます。

 
(先端科学技術研究センター 牧原 出)

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