過去の公開講座ARCHIVE

第115回(平成24年春季)東京大学公開講座
「想像力」

■開講にあたって

 想像力こそは諸能力の女王、と言ったのは、19世紀フランスの詩人・批評家ボードレールです。「王」ではなく「女王」と呼ばれるのは、「想像力」も「能力」もフランス語では女性名詞だからですが、事実、想像力は人間のあらゆる営みを支え統率しています。ひとはだれかと言葉を交わすとき、相手の意見を自分の印象とつき合わせるばかりでなく、発言の裏にある心情を忖度し、また相手の言葉に触発されて連想の糸を延ばします。重大な決断を迫られれば、過去の類似の状況を探り、考えられるかぎりの可能な選択肢を比較考量するでしょう。小説家のフィクション構築には何よりも想像力が必要ですし、読者は登場人物に多少とも感情移入しながら、その冒険をともに生きます。事実の集積のなかに法則性を見出すには、推察が必要です。新しい装置の発明や法規の制定にも、いまだ不在のメカニズムや事態を思い描く能力が求められます。
 このように想像力は、現在時の知覚や過去の記憶を糧としながら、それらの限界を押し広げ、仮想世界へと人間を解き放ちます。しかしそれはまた、空想や幻想とは違い、あくまでも現実的所与に立脚しながらあるべき様態を探る、真理探究の能力でもあります。人間を人間たらしめる最たる資質といえるでしょう。
 本公開講座では、この諸能力の女王の仕事ぶりを多面的に探ります。創造、構造化、知覚という三つの観念を軸に、教育、医療、政治の分野において想像力と創造力がいかに絡み合っているかがパラレルに論じられ、宇宙の混沌やカオス工学の話とエドガー・アラン・ポーの詩的宇宙論とが組み合わされます。あるいは、薬物が想像力にもたらす影響、障害者と社会とのコミュニケーションにおける想像力の機能というふうに、特定の条件のもとでの想像力の働きに光があてられ、将棋を指すコンピュータの想像力さえもが問われます。
 これら多彩な講義は、聴衆一人ひとりの関心のあり方と、それこそ想像力に応じて、じつにさまざまな脈絡の絵柄を織りなすことでしょう。
平成24年2月
第115回東京大学公開講座企画委員会
委員長 中地 義和
(東京大学大学院人文社会系研究科長)

開催日時・プログラム


SCHEDULE/PROGRAM
DAY1 | 想像から創造へ
4月7日(土)
時間講義題目講師所属・職名
12:50-13:00開講の挨拶中地 義和人文社会系研究科長
13:00-14:00「インスピレーション・イマジネーション・クリエーション」岡田 猛教育学研究科 教授
14:15-15:15「疾患発症の謎を解明するために必要な想像力と創造力」宮崎 徹医学系研究科 教授
15:30-16:30美・共同体・秩序--想像力と政治的判断苅部 直法学政治学研究科 教授
16:30-17:10総括討議三浦 正幸薬学系研究科 教授
DAY2 |混沌と構造化
4月14日(土)
時間講義題目講師所属・職名
13:00-14:00「カオスと構造化」合原 一幸生産技術研究所 教授
14:15-15:15「分析力・洞察力・想像力―― エドガー・アラン・ポーをめぐって」 平石 貴樹人文社会系研究科 教授
15:30-16:30「混沌の宇宙を読み解く」河野 孝太郎理学系研究科 教授
16:30-17:10総括討議古澤 明工学系研究科 教授
DAY3 | 知覚と想像
4月21日(土)
時間講義題目講師所属・職名
13:00-14:00「将棋を指すコンピュータの想像力」金子 知適総合文化研究科 助教
14:15-15:15「妄想・幻覚と想像力―薬との接点」松木 則夫薬学系研究科 教授
15:30-16:30「障害・コミュニケーション・社会」福島 智先端科学技術研究センター 教授
16:30-17:10総括討議松井 彰彦経済学研究科 教授
17:10-17:20閉講の挨拶江川雅子理事

インターネット動画公開


UTokyo.TV

公開講座の講義をインターネットで公開しています。

疾患発症の謎を解明するために必要な想像力と創造力宮崎 徹
2012年4月7日
分析力・洞察力・想像力―― エドガー・アラン・ポーをめぐって平石 貴樹
2012年4月14日
混沌の宇宙を読み解く河野 孝太郎
2012年4月14日
妄想・幻覚と想像力―薬との接点松木 則夫
2012年4月21日
障害・コミュニケーション・社会福島 智
2012年4月21日

トップへ戻る