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第127回(平成30年春季)東京大学公開講座
「ディレンマ」

■開講にあたって

 無数の利害関係者が立場を異にしつつ共存する人間社会の中では、特定の個人・集団の個別利益の実現と、社会全体の共通利益の実現とは必ずしも両立するとは限りません。
 たとえば、現在世代のための開発も、地球温暖化、オゾン層の破壊、生物多様性の喪失、酸性雨、砂漠化等の地球環境問題を深刻化させるなら、それは、将来世代のための地球環境の保護や地球規模の共有資源の保全とは両立しません。この両立しがたき二つの課題を両立させるために、環境保全にも配慮した節度ある開発としての「持続可能な開発」の理念が提唱されています。
 また、エイズ(後天性免疫不全症候群)、エボラ出血熱、SARS(重症急性呼吸器症候群)など、国境を越えて広がる感染症の撲滅は国際社会の共通の利益とも言えるもので、それには、製薬企業による医薬品の研究・開発のみならず、患者に対する医薬品へのアクセスの保障も不可欠です。しかし、製薬企業による医薬品の研究・開発を動機付ける制度設計としての《知的財産権の保護》と、途上国に広がる多数の患者に安価な医薬品へのアクセスを保障することを可能にする《知的財産権の制約》とは容易に両立するものではありません。
 さらに、一国の安全を確保するための軍備の増強や同盟の強化は、防衛のみならず攻撃の手段ともなりうるもので、選択された手段からその目的を正確に推論できません。それゆえに、自国の安全保障上の不安を拭いさることを意図した行動も、相手国の不安を掻き立てずには済みません。自国の不安の解消と相手国の不安の解消とが両立しない「安全保障のディレンマ」の下、守勢に立たされているという不安が、互いの不信を増幅する攻勢を生み出しているのかもしれないのです。
 大学における学術研究には、このような人間社会のディレンマを自覚しつつ思慮深く行動を選択するにあたって欠かせない緻密な解析が期待されるところでしょう。しかしながら、実は学術研究も原子力の平和利用と軍事利用の例を引き合いに出すまでもなく、本来の研究目的の範囲を超えて利用されうる汎用性を持つので、それ自体ディレンマから逃れることはできません。
 今回の公開講座では、「制度設計と技術革新のディレンマ」「学術研究のディレンマ」「地球規模のディレンマ」の3つのサブテーマを設定し、9名の研究者が人間社会と学術研究の「ディレンマ」をめぐり文理の枠を超えて多面的な考察を行います。どうぞご期待ください。
平成30年3月
第127回東京大学公開講座企画委員会
委員長 石田 淳
(東京大学大学院総合文化研究科長)

開催日時・プログラム


SCHEDULE/PROGRAM
DAY1 | 制度設計と技術革新のディレンマ
5月26日(土)
時間講義題目講師所属・職名
12:50-13:00開講の挨拶石田 淳企画委員長/総合文化研究科長
13:00-13:50「意思決定のディレンマと制度設計:東京大学進学選択制度の事例」尾山 大輔経済学研究科 准教授
14:10-15:00「医療イノベーションと規制のディレンマ」永井 純正医学部附属病院 講師
15:20-16:10「持続可能な開発とディレンマ:成長と保護」平尾 雅彦工学系研究科 教授
16:20-17:10総括討議一木 隆範工学系研究科 教授
DAY2 | 学術研究のディレンマ
6月9日(土)
時間講義題目講師所属・職名
13:00-13:50「科学者の社会的責任とディレンマ」藤垣 裕子総合文化研究科 教授
14:10-15:00「タバコをめぐるディレンマ」中澤 栄輔医学系研究科 講師
15:20-16:10「情報セキュリティのディレンマ:暗号と量子コンピュータ」高木 剛情報理工学系研究科 教授
16:20-17:10総括討議松尾 宇泰情報理工学系研究科 教授
DAY3 | 地球規模のディレンマ
6月23日(土)
時間講義題目講師所属・職名
13:00-13:50「地球公共財の衝突―調整におけるディレンマ」古城 佳子総合文化研究科 教授
14:10-15:00「温暖化で沈む環礁国のディレンマ」茅根 創理学系研究科 教授
15:20-16:10「多民族化社会と教育のディレンマ」額賀 美紗子教育学研究科 准教授
16:20-17:10総括討議武田 将明総合文化研究科 准教授
17:10-17:20閉講の挨拶

インターネット動画公開


UTokyo.TV

公開講座の講義をインターネットで公開しています。講義終了後、公開まで4~5ヶ月ほどかかりますのでご了承ください。(※下記は第126回公開講座「新たな秩序」の動画です。)

インド古来のサステナビリティ(ダルマ):秩序と規範の一体性丸井 浩
2017年11月11日
パーソナルデータの循環とスマートソサエティ橋田 浩一
2017年11月11日
物質の中の電子:秩序と乱れ鹿野田 一司
2017年11月18日
都市と人口分布の秩序佐藤 泰裕
2017年11月18日
仏教が説く秩序の形成と崩壊馬場 紀寿
2017年11月18日
細胞内のリサイクルによる秩序:オートファジー水島 昇
2017年11月25日
グローバルリスク・ガバナンスとその限界―グローバルヘルス、サイバーセキュリティの場合城山 英明
2017年11月25日

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