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第121回(平成27年春季)東京大学公開講座
「悪」

■開講にあたって

 「悪」は、人間存在の深奥に位置する。善悪の区別をなしつつ、それでも悪を行う能力を有することこそが、人間の最大の特徴であると言っても過言ではない。そのような悪を行いうる人間の本性と向き合うために、さまざまな倫理教説が生み出され、また社会制度が形成されてきた。その本性を変えようとする試みは、多くの場合、より大きな悪をもたらした。
 かくして、悪は人間にとって宿命である。それゆえに、宗教、文学、哲学、法学、倫理学などの文化領域や人文科学は、伝統的に、人間の悪しき性をその最も重要な主題の一つとしてきた。これに対して、自然法則の探求をめざす自然科学や、あるいは価値自由な客観的認識をめざす社会科学にとっては、悪という観念は無縁であるようにも思える。しかしあらゆる学問研究は、究極的に人間に関わる。それは、悪をもなしうる存在である科学者によって担われ、その過程と成果とは、何らかの意味において必ず人間に対して影響を及ぼす。それゆえ、医学はもちろん、たとえ純粋に自然法則の認識を目的とする学問といえども、何らかの形で「悪」と係わり合わざるを得ない。実際に、これまで多くの学問領域でさまざまな事物が「悪」、あるいは悪性のものとみなされてきた。また、純粋な学問的活動の成果が、人間にとって悪しきものと判断されることも稀ではない。
 さまざまな学問領域の中で、人は「悪」とどのように関係してきたのか。何を「悪」と評価してきたのか、それはなぜなのか、その評価は歴史の中でいかに変化してきたのか。このような問いと取り組むことで、それぞれの学問が自己をいかなるものとみなし、人間にいかに役立とうとしてきたのかを考えてみたい。

第121回東京大学公開講座企画委員会
委員長 西川 洋一
(東京大学大学院法学政治学研究科長)

開催日時・プログラム


SCHEDULE/PROGRAM
DAY1 | 悪への眼差し
5/30(土)
時間講義題目講師所属・職名
12:50-13:00開講の挨拶西川 洋一企画委員長/法学政治学研究科長
13:00-13:50「性悪説──中国思想の考え方」横手 裕人文社会系研究科 教授
14:10-15:00「善なる自然のパラドクス~母乳育児から自然死まで」梶谷 真司 総合文化研究科 教授
15:20-16:10「<悪い>セックス、<悪い>身体」清水 晶子総合文化研究科 准教授
16:20-17:10総括討議田 暁大情報学環 教授
DAY2 | 社会における悪
6月6日(土)
時間講義題目講師所属・職名
13:00-13:50「社会変容がもたらす“悪”」本田 由紀教育学研究科 教授
14:10-15:00「国際社会における悪と法」寺谷 広司法学政治学研究科 教授
15:20-16:10「GoodsとBadsの境界 -災害廃棄物処理と容器包装リサイクルを中心に-」森口 祐一工学系研究科 教授
16:20-17:10総括討議大串 和雄法学政治学研究科 教授
DAY3 | 自然科学における悪
6月13日(土)
時間講義題目講師所属・職名
13:00-13:50「癌の顔つき」深山 正久医学系研究科 教授
14:10-15:00「くすりの善と悪」澤田 康文薬学系研究科 特任教授
15:20-16:10「宇宙の暗黒成分は善か悪か?」戸谷 友則理学系研究科 教授
16:20-17:10総括討議清水 敏之薬学系研究科 教授
17:10-17:20閉講の挨拶大和 裕幸理事

インターネット動画公開


UTokyo.TV

公開講座の講義をインターネットで公開しています。

善なる自然のパラドクス~母乳育児から自然死まで梶谷 真司
2015年5月30日
社会変容がもたらす“悪”本田 由紀
2015年6月6日
国際社会における悪と法寺谷 広司
2015年6月6日
GoodsとBadsの境界 -災害廃棄物処理と容器包装リサイクルを中心に-森口 祐一
2015年6月6日
癌の顔つき深山 正久
2015年6月13日
くすりの善と悪澤田 康文
2015年6月13日
宇宙の暗黒成分は善か悪か?戸谷 友則
2015年6月13日

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