概要ABOUT


第138回(2024年春季)東京大学公開講座
制約と創造

■開講にあたって

 「制約」は後ろ向きな響きを持つ言葉です。創造的で個性的な仕事をするためには、「制約」の無い状態が一番で、自由であることの大切さは言うまでもありません。
 しかし、「制約」が逆説的に創造力を発揮する力になる例は多く存在します。戦争が終わる頃、武満徹さん(現代音楽)は作曲家になろうと決意しながらピアノもなく、どうしても弾きたくて、ピアノの音が聞こえてくると、その家に「弾かせてください」と頼んで弾かせてもらったりしていました。現代音楽はやる人も少なく、楽譜も見ることが難しい中で武満さんは常にやりたい音楽の勉強に飢えを感じていました。そのような、環境的な「制約」から始まった音楽との関わりから、さらに自らの作曲法に積極的に「制約」を入れることで武満さんは稀有な作品を創造していきました。何も「制約」がないと、自分が制約条件になって、自分の趣味や自分の手の癖から抜け出せなくなると武満さんはいいます。
 さて、私たちが身近に感じる「制約」と「創造」にはどんなものがあるでしょうか。スポーツ競技を見て感激するのは、厳しいルールがある中で、創意に満ちたとんでもない技が飛び出すからです。締切という時間的な「制約」もよく経験します。締め切りが近づくと集中力が高まり、思わぬ成果を出した経験があるのではないでしょうか。人から昆虫に目を向けると、蝶は狭い蛹殼の中で幼虫から成虫へと変身します。餌もとらずに動けなくなる「制約」がある蛹期は、体をつくりかえる「創造」の場となっています。
自然は私たちの行動や思考に「制約」をもたらしますが、その法則を知りたいという知的欲求が学術や文化、芸術を生みだしてきました。その一方で自然の力は甚大で、時に地震や豪雨といった大きな自然災害をもたらします。私たちはコロナ禍も経験しました。災害やパンデミックは私たちの生活を大きく制限し、災に対処する多様な術の必要性を突きつけます。人が制定する法はよりよい社会を形成するために不可欠な「制約」です。科学技術の進歩は止まることを知りませんが、そこには倫理感の醸成が伴わねばなりません。
 本公開講座では、「制約がもたらす創造」「学藝における制約と創造」「科学における制約と創造」という3つのサブテーマを立てました。9名の講師の方々が取り組んでいる研究の中で出会う、自然や人がもたらす「制約」を紹介します。そして皆さんと一緒に「制約」が起爆剤となって「創造」力に変わることを考えていきたいと思います。
 
2024年4月
第138回東京大学公開講座企画委員会  委員長 浦野 泰照
(薬学系研究科長)


第138回(2024年春季)東京大学公開講座

制約と創造

開催日時・プログラム


SCHEDULE/PROGRAM
DAY1 | 制約がもたらす創造
6月15日(土)
時間講義題目講師所属・職名
12:50-13:00開講の挨拶浦野 泰照企画委員長/薬学系研究科長
13:00-13:40「人権の制約と法制度の創造」小島 慎司法学政治学研究科 教授
13:50-14:30「江戸の娯楽小説と表現規制」佐藤 至子人文社会系研究科 教授
14:40-15:20「宇宙研究における制約がもたらす創造」大内 正己宇宙線研究所 教授
15:35-16:25総括討議橋爪 隆法学政治学研究科 教授
DAY2 | 学藝における制約と創造
6月22日(土)
時間講義題目講師所属・職名
13:00-13:40「『源氏物語』の叙法と時代背景」田村 隆総合文化研究科 准教授
13:50-14:30「普遍的真理を目指して:発見と創造」小林 俊行数理科学研究科 教授
14:40-15:20「芸術における手法としての制約」楯岡 求美人文社会系研究科 教授
15:35-16:25総括討議小林 真理人文社会系研究科 教授
DAY3 | 科学における制約と創造
6月29日(土)
時間講義題目講師所属・職名
13:00-13:40「生きられる時間の中で生物が創造してきたもの」三浦 正幸薬学系研究科 教授
13:50-14:30「古代ゲノム研究から学ぶ人類の過去と未来:我々はどこから来てどこへ進むのか?」太田 博樹理学系研究科 教授
14:40-15:20「大災害にリアルタイムで対応する情報デザイン」渡邉 英徳情報学環 教授
15:35-16:25総括討議春名 めぐみ医学系研究科 教授
16:25-16:35閉講の挨拶津田 敦 理事・副学長
※プログラムの変更もしくは休講する場合があります。

※オンライン配信はおこないません。すべての講座はありませんが、開催後、東大TVにて視聴できますので、そちらをご視聴ください

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