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第123回(平成28年春季)東京大学公開講座
「無駄」

■開講にあたって

 「時間の無駄」、「資源の無駄」、「無駄な努力」など、無駄といえば否定的に使われることが多いようです。しかし、分野を問わず研究に無駄はつきものです。実験を繰り返し、失敗を繰り返して、やっとのことで、あるいはまったく偶然に発見に辿り着くのです。人文社会系の学問も同様で、せっかく資料や文献を苦労して探しあてても、何の役にも立たないことがわかって落胆することもありますが、偶然眼に触れた文献から思わぬことが見えてきて興奮することもあります。残念ながら最近は無駄の多い研究は避けられる傾向にあるようですが、たとえば梶田隆章教授による、壮大な、社会生活とは一見無関係な事象の発見は、科学や学問のもつ豊かな可能性を示しており、そうした快挙はかなりの無駄を覚悟しなければなしえないことを忘れてはなりません。
 もちろん、無駄なく効率的かつ合理的に個人や組織の目標を達成しようとすること自体を否定する必要はありません。医学、生命科学、経営学などの学問は、医療、医薬品、農産物、工業製品の生産工程における無駄をなくすことと密接に関わっており、その実践に大きく貢献しています。本講座は、学問のこうした側面にも注意を払い、研究や現場の最先端の状況をご紹介することも目的としています。
 ただ、私が今回「無駄」というテーマを提案した理由は、どちらかといえば、無駄は必ずしも悪いことばかりでないということに比重がかかっています。このことは研究に限られることではありません。スポーツにしても、企業活動にしても、人付き合い一般にしても無駄を厭わないことが大事なことも珍しくありません。他人からみれば無駄であっても、本人にとってはまったく無駄でなく、生き甲斐そのものということもあるでしょう。
 本講座が、「無駄」とはなにか、それは学問や社会や人生とどのように関わっているのかを改めて考えるきっかけとなれば、これに勝る喜びはありません。
平成28年3月
第123回東京大学公開講座企画委員会
委員長 馬場 哲
(東京大学大学院経済学研究科長)

開催日時・プログラム


SCHEDULE/PROGRAM
DAY1 | 無駄とはなにか
5月28日(土)
時間講義題目講師所属・職名
12:50-13:00開講の挨拶馬場 哲企画委員長/経済学研究科長
13:00-13:50「無駄が無駄でなくなるとき;免疫学から社会の発展まで」谷口 維紹生産技術研究所 特任教授
14:10-15:00「古代ギリシアにおける三つの無駄?」葛西 康徳人文社会系研究科 教授
15:20-16:10「歴史の中に潜む無駄とは、その行方を考える」辻 誠一郎新領域創成科学研究科 教授
16:20-17:10総括討議橋川 健竜総合文化研究科 准教授
DAY2 | 無駄をなくす
6月11日(土)
時間講義題目講師所属・職名
13:00-13:50「ゴミを出さないクスリの製造」小林 修理学系研究科 教授
14:10-15:00「医療の「ムダ」って何のこと?」五十嵐 中薬学系研究科 特任准教授
15:20-16:10「産業現場のムダ取り改善と成長戦略」藤本 隆宏経済学研究科 教授
16:20-17:10総括討議浅見 徹情報理工学系研究科 教授
DAY3 | 無駄と社会
6月25日(土)
時間講義題目講師所属・職名
13:00-13:50「行政と無駄」前田 健太郎法学政治学研究科 准教授
14:10-15:00「「無駄」とされる人々」星加 良司教育学研究科附属バリアフリー教育開発研究センター 専任講師
15:20-16:10「無駄とゆとりの科学」西成 活裕先端科学技術研究センター 教授
16:20-17:10総括討議山川 隆一法学政治学研究科 教授
17:10-17:20閉講の挨拶古谷 研理事・副学長

インターネット動画公開


UTokyo.TV

公開講座の講義をインターネットで公開しています。

古代ギリシアにおける三つの無駄?葛西 康徳
2016年5月28日
歴史の中に潜む無駄とは、その行方を考える辻 誠一郎
2016年5月28日
ゴミを出さないクスリの製造小林 修
2016年6月11日
医療の「ムダ」って何のこと?五十嵐 中
2016年6月11日
産業現場のムダ取り改善と成長戦略藤本 隆宏
2016年6月11日
無駄とされる人々星加 良司
2016年6月25日

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